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小説「パパがゾンビになった日」

わたしが6歳のとき、パパがゾンビになりました。
ゾンビというのは「あー」とか「うー」とかうなって人にかみつく病気です。

お医者さんはママに、心臓がとまってます、食べ物は生のお肉です、といいました。その日からパパはお仕事に行かなくなり、家でぼんやりすごすことになりました。

ゾンビになったパパは子供のようでした。
話しかけてもほんとに「あー」とか「うー」とかうなるだけ。本を読んであげてもやっぱり「あー」とか「うー」とか。食べ物をこぼした時、テーブルをふいてあげます。
なかなか世話が焼けます。

キックやパンチをしても反撃してこないので、ベッドでプロレスごっこもできなくなりました。

でも、いいこともあります。
話しかけたときに「ちょっとまって」といってほっとかれることもなくなったし、おんぶや肩車をしてもらおうとよじ登ってもいやがらなくなくなりました。

パパがゾンビになってから、ママは仕事に行く日が増えました。
そのあいだ、私は家でパパと留守番です。
かみつかないようと、ママはパパの口にタオルを巻きました。いっしょに遊んでるうちにかわいそうになってはずしてあげました。仕事から帰ってきたママに見つかって、すごく怒られました。

夕食のあと、ママがいいました。明日からパパはお泊りにいくことに決まったよ、と。しせつと呼ばれるとことに行くそうです。

それってお泊り会、ときくと、ママはそうだね、と答えました。
パパみたいにゾンビになった人たちが集まっていて、やさしい人たちがお世話をしてくれるから大丈夫なんだって。

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次の日、しせつに行くために3人で川沿いを歩きました。
私がパパになぞなぞを出して自分で答えたり、歌をうたったりすると、ママが怒りはじめました。
意味ないからやめなさい、と。

しせつから帰るとき、バイバイと手を振ったけど、パパはこっちを見てませんでした。新しい友達ができたみたいです。

帰り道、ママが橋の上で立ち止まりました。
指輪をはずして、川にぽいっと投げ捨てました。

パパがいなくなって何日か経ちました。パパがいつ戻ってくるのかを聞くと、しばらく戻ってこない、といいました。
会えないので手紙をかきました。
「またあそんでね」

ときどきパパはおうちに戻ってきました。
しせつに住んでて、おうちにお泊りに来る感じです。

ある日、パパがおうちに戻ってきたのに、ママは急なお仕事で出かけることになりました。

パパと留守番することになり、ふたりで散歩に行きました。なぞなぞを出したり、歌をきかせてあげました。橋で立ち止まり、ママがここから指輪を落としたんだって教えてあげました。

パパは「うー」とうなって川にはいっていきました。見つからないよ、たぶん流されてるから、といってもききません。水に顔をつけて探し続けます。ゾンビだから息をしないでも大丈夫みたいです。

夕方、ママが帰ってきました。
じゃーん、といって拾った指輪を見せました。パパが拾ったと教えてあげました。

あのね、パパの心臓、少しだけど動いてるよ、とママにいいました。
ほら、といって私はパパの胸に耳をあてました。
ママはパパの顔を見つめるだけでした。
私はママの手をひっぱってパパの胸にあてました。

その日、久しぶりに3人でお昼寝をしました。

(おしまい)

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