Hello, a new HERO.

この文章は、このチームの一員の輸血体験記であり、活動に対するひとつの願いです。


「献血へのご協力をお願いします」という呼びかけは、あまり心に響くものではないかもしれません。それは例えば、「宇宙のどこかにある名もない星が終わりを迎えたらしいよ」というのと同じくらいに無感動な言葉かもしれません。街中で見かけたりするものの、それがどういう意味を持ち、どういう必要性があるのかはわからない。当たり前の日々において、献血とは「関係のない世界で行われている慈善活動」だという認識を超えることはないのかもしれません。

それは少し前の僕にとっても同じことでした。誰が献血を欲していて、なぜ献血が必要なのか。試験を乗り切るための知識以上のものは持ち合わせていなかったし、あえてその必要性を知ろうとも思っていませんでした。ましてや、自分も献血をしようとは考えたこともありませんでした。

状況が変わったのは大学4年の夏のことでした。風邪だと思って病院を受診したところ、血液の異常が見つかりました。大学病院への紹介状とともに緊急入院が決まりました。うだるような暑さの金曜日だったことを憶えています。少なくとも土日を病院で過ごせば、月曜日からいつも通りの日々が始まる。そんなことを考えていました。自分の部屋で目を覚まして、自分の好きなものを食べて、自分の好きな人に会う、ごく当たり前の日々。しかし、告げられた言葉は、当たり前から遠く離れたところからやってきました。主治医は言いました。「血液のがん、白血病です」と。

事態を飲み込む間も無く、すぐに治療が始まりました。

白血病などの血液疾患では、強力な化学療法、放射線療法、骨髄移植、どの選択肢をとるにせよ、莫大な副作用がつきものです。髪は抜け落ち、全身がむくみ、口は爛れます。血液を作る機能さえも、一時的に失います。周りには優しい言葉をかけてくれる人たちもたくさんいましたが、内心では宇宙に投げ出されたような孤独を感じていました。

僕が初めて輸血をうけたのはその時でした。とても感動して、また同時に悔やんだのを憶えています。毎日のように届く赤い輸血パックは、比喩ではなく正真正銘の生命線でした。名もないヒーローが確実にいることを知りました。そして自分もヒーローになる資格があったにも拘らず、一度も救いの手を差し伸べようとしなかったことを痛切に後悔しました。

さて今年の2月で、白血病を告知されてから1年半になりました。日々薄れていく闘病の記憶の中でも、自分が輸血によって生かされたこと、そして同じように輸血を受けつつ闘病していた人たちのことは忘れることができません。今この瞬間も、その声が我々に届くことはないにせよ、必死で生きようとしている人たちがいます。ある人は家族に支えられて、またある人はたったひとりで。

「献血へのご協力をお願いします」というその一言が新しいヒーローを生み、少しでも多くの患者さんたちの1日へ繋がることを、心から願っています。そして、私たちと一緒に活動してくれる新たなヒーローが現れることを、心から待っています。

Hello, a new HERO.