リセットボタン



[メニューを せんたく してください]
【つよくて ニューゲーム】
【よわくて ニューゲーム】←




[よわくて ニューゲーム で いいですか?]
【いいえ】

【はい】←



提示した2つの選択。一体何を意味しているのでしょうか? RPGが好きな人はファイナルファンタジーとかドラクエとか、どうせその筋の話だろう、と思うことでしょう。

【よわくて ニューゲーム】を自ら選択することは、つまりはレベル1の状態で魔王の城に向かうようなものです。勝算はとても低い。百戦錬磨でゲームに自信がある人でも「おいおい、それはごめんこうむりたいぜ」と弱音を吐くことと思います。

ですが、僕はもちろんRPGの話がしたいわけではないし、ましてやレベル1で魔王を倒す裏技を紹介したいわけでもありません。

じゃあ何が伝えたいのか?

【よわくて ニューゲーム】を選択すること。

これは現実で起こっていることである。

しかもその選択は、生きるために行われている。

これが伝えたいのです。

毒を持って毒を制す、という言葉があります。この言葉を献血の方向に引き伸ばして、それから医療というスパイスをふりかけると「抗がん剤治療」というものになります。そう、【よわくて ニューゲーム】とは、とりもなおさず「抗がん剤治療」のことなのです。

医療は日々進歩していて、がんに対する治療法も多岐にわたるようになってきました。分子標的薬の台頭や、治療レジメンの改良など、もはや「がん、すなわち死」という認識は薄れつつあります。

しかし現在でも、最もスタンダードな治療法は抗がん剤を使って体をリセットする、というものです。つまりはがん細胞も正常な細胞も、一緒くたにしてとりあえずやっつけてしまおう、というわけです。

効果的ではありますが、やはり体に毒を入れる、といった点で、そして正常な細胞もダメージを受けるという点で、副作用も大きい治療法です。

この抗がん剤治療、つまりは【よわくて ニューゲーム】ですが、例えば血液系の患者さんになると事態は非常に深刻です。

血液の中には大きく分けて、赤血球、白血球、血小板の3種類の成分があります。

・体中に酸素を運ぶ赤血球
・細菌から身を守ってくれる白血球
・出血を止めてくれる血小板

そして血液は骨髄という工場で作られます。

血液系腫瘍での抗がん剤治療は、つまりは血液を作る工場を破壊して、生産ラインをリセットしてしまおう、という試みです。言い換えれば、上の3つの成分が一時的に欠乏した状態になる、ということです。

酸素が足りないから息苦しいし、貧血になるし、細菌は体を荒らし放題だし、血はなかなか止まらない。これが【よわくて ニューゲーム】の意味するところです。口内炎をとってみても、その影響は雲泥の差です。普段なら「きになるなあ…」で済まされることが、この状況にあっては「いやまじさ…もう無理…」に変わります。

そして多くの患者さんが命を落とす危機にさらされます。

じゃあ、果敢にも【よわくて ニューゲーム】に挑んでいる患者さんたちに、我々がお手伝いできることはないのか? ということになるわけですが、それこそがまさしく「輸血」なのです。

今の所、赤血球と血小板については「輸血」という形でお手伝いすることができます。白血球に関しては抗菌薬をがんがん投与して、清潔な病棟で過ごすようにすればなんとかならなくもないです。

Q. なぜ「輸血」が必要なのか?

A. 【よわくて ニューゲーム】をしている患者さんたちが少しでも楽に闘えるように

という点まで述べてきました。

じゃあ、なぜ「輸血」にこだわらなければならないのか?

「赤血球も血小板も、今の技術では人工的に造ることはできないから」です。人工的に造ることができない以上、人に救いを求めるしかありません。そして赤血球も血小板も「なまもの」だということも頭に留めておいていただきたい。赤血球の有効期限は21日間、血小板に至っては4日間です。

じゃあ今、日本で【よわくて ニューゲーム】をしている患者さんはどれくらいいるのか? という点ですが、他の理由を含めて輸血を必要としている患者さんは1日あたり3,000人と言われています。

以上、まとめます。

Q1.  なぜ「輸血」が必要なのか?

A1. 【よわくて ニューゲーム】をしている患者さんたちが少しでも楽に闘えるように

Q2. なぜ、輸血にこだわる必要があるのか?

A2. 血液が人工的に造れないから

Q3. 1日にどれくらいの輸血が必要なのか?

A3. 3,000人

と、いうわけで、気がついたら真面目な話に戻ってしまっていました。

病との孤独な戦いを強いられるということは、肉体的にはもちろんのこと、精神的にも想像以上に疲弊します。そのような中で届く輸血パックというのは、まさに文字通りの生命線なのです。



 多くの場合、というか確実に、献血してくださった人も輸血を受けた患者さんも、お互いの顔や名前を知ることはありません。けど間違いなく言えることは、献血をしてくださった誰かのおかげで命が救われていて、かつ輸血を受けた患者さんはその誰かに「ありがとう」と思っている、ということです。


「…ねっ? 献血っていいことでしょ? だから献血してください!」

とはもちろん言いません。と、いうか言えません。

ですがこれだけは胸を張って言わせてください。


献血によって、間違いなく誰かが救われています。
今日も、そしてこれからも。



そのことを伝えて、この文章をおしまいにします。