ビットコイン・マイニングの「三体問題」(1)
以下はビットコインマイニング業界でリスペクトされているLeo Zhang氏の2020年6月のブログをご本人から許可をもらって一部訳しています。要約・意訳して一部は省いている箇所もあるため、興味のある方はオリジナルの英語版を読むことをお勧めします。ただし大体はカバーしたつもりです。全部でパート4まであります。
*の部分は筆者が説明のために入れた部分。
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「なにかが透明であればあるほど、それは謎めく。宇宙自体、透明なものだ。視力さえよければ、好きなだけ遠くを見られる。しかし、遠くを見れば見るほど、宇宙は謎めいてくる。」
劉慈欣「三体」より (早川書房邦訳)
ビットコイン(BTC)のマイニングとはハードウェアとソフトウェア、エネルギーと金融市場が絡み合う複雑な現象である。あらゆる部分が目に見えないルールによって支配されている。そして個々の部分のパフォーマンスは、多くの場合定量化が難しく、かつ予測がほとんど不可能な外部要因によって決定される。(*マイニングはビットコインの仕組みの根底を成す要素の一つで、安定化とセキュリティ上欠かせない。マイニングについてはこのNoteが良かったです。)
マクロな視点からは、マイニング業界全体を牽引する3つの主要な力がある:1) ビットコインの半減期タイミング 2)気候サイクル 3)ハードウェアのリリースサイクルである。これらがそれぞれビットコイン採掘者(マイナーと呼ぶ)の利益を構成する異なる要素に影響を与えている。その利益の方程式は以下である:
マイニングによる利益
=マイニング収益 ー マイニング費用
=(マイニング報酬+手数料)x BTC価格 x マイナーのハッシュシェア ー(電気代+ハードウェア減価償却費)
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*ハッシュシェアとは個別のマイナーのハッシュレート(計算量・採掘速度)を業界全体のハッシュレートで割った%である。システム全体の計算量の総和であるハッシュレートのうち、自分がどれだけの割合を貢献しているかを示す値であり、報酬として分配されるビットコインもこの値に比例している。
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1) 半減期のタイミングはマイニング報酬を決定(売上)
2)気候サイクルは間接的に業界の平均電気代を決定(費用)
3)ハードウェアのリリースサイクルはマイナーのハッシュレート、消費電力効率、そして減価償却費を決定 (設備投資)
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*半減期とはビットコインの仕組みで、1ブロックをマイニングをすることによって得られる報酬のビットコインが約4年毎に半分になることです。2012年、2016年、2020年と今まで3回の半減イベントがありました。つまり、過去と同じ計算量のマイニングをしても得られる報酬は半分になるので、実質上マイニングの生産コストは倍になる。半減期について詳しくはこちら。
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2012年の半減イベントの際は人々はまだ家でPCやGPUを使ってマイニングをしており、システム全体のハッシュレート(もしくはハッシュパワー)は世界中に分散されていた。上にあげた3つの力のうち半減イベントのみがこの時点では市場への大きな影響力を持っていた。最初の半減イベントでマイニングによる生産コストが倍になると、全体のハッシュパワーは激減し、一時的により利潤が高いLitecoinにマイナー達は移行したことがあった。そして4年後の2016年に2回目の半減イベントが来た頃にはマイニング用商業ASIC(専用チップ)が市場に出回り、大規模なマイニング事業者が稼働し始めていた。(*ASICよりもパフォーマンスが劣るCPUとGPUでビットコインを採掘できる時代は終わった)
2020年5月の3回目の半減イベントを目前にして、どういうことが市場で起こるかについて熱い議論が専門家の間で展開された。ビットコインの供給が抑えられることによる市場価格の上昇を予測した者もいれば、ネットワーク全体のハッシュレートが2,3割減になると言う者もいた。しかしこの3回目の半減イベントでは同時期に、気候サイクルの移行とハードウェアのサイクル移行(ASICの半導体の微細化が16nmから8/7nmに移行)も重なったため、3つの力が同時に働いたのだ。
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*三体問題とは、3つの惑星が重力の相互影響がある中どう動くを予測する問題で、複雑系システムになるため一般解はないとされている。冒頭に引用されているSF小説の「三体」もそれを参照している。Zhang氏は本ブログでビットコインのマイニング市場をこれに例えている。
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(2に続く)