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ビットコイン・マイニングの「三体問題」(4)

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マイニング市場に影響がある3つの力とは:
1) ビットコイン半減期のタイミング
2)気候サイクル
3)ハードウェアのリリースサイクル
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3)ハードウェアのリリースサイクル
マイニング機材のメーカーは絶え間ない開発競争にしのぎを削ってきた。そしてこの市場ではかなりの長いあいだBitmain社のAntiminer S9が市場を席巻していた。2018年に提出されたBitmain社のIPO申請書類によると当時はBitmain製のASIC(専用チップ)を使った独自ブランドの機材は、市場の約74.5%を占めていたことが分かる。しかしそれ以降の2年の間に、MicroBT社のWhatsminerやCanaan社のAvalonなどの競合デバイスがBitmain社の牙城を崩してきている。(*写真はAntminer S9)

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2017年に市場シェアが約7.2%程度だったWhatsminerは2018年に9%、2019年には35%と拡大してきている。マイニング機材は基本はコモディティ製品になってきており、顧客サービス、納品タイミング、供給網の安定などの定性的な要素以外に差別化は難しいとされている。そして激しい競争を経てメーカーが注力してきたのはこの2つのスペックだ:単価と電力効率である。

(*マイニング機材とはひたすらブロックチェーンのハッシュ計算を行う計算機である。ASIC(専用チップ)がずらりと配置された基板が複数枚入っており、あとは電源と冷却用のファンなどがある。一般的なコンピューターの汎用性はなく、暗号通貨のマイニングに特化した専用機である。)

電気効率はJ/TH (Joules per tera-hash) で表す。つまり1テラハッシュ(1兆回のハッシュ関数計算)のためにどれだけエネルギーを使うかの単位である。J/THの数値が低ければ低いほど、同等の計算を行うために必要な電力は少なくなり、効率が良いと言える。マイニング機材(チップ)は世代を重ねる度に効率が改善されている。

(*下表では2021年2月時点での最新機種S19Pro(Bitmain社製)に世代が近づくほどJ/TH(Efficiency)の値が低くなっているのが分かる。S9iからM21Sへの移行を比較する際に総電力コストの値が上がる場合も見えるが、それは総計算量が上がっているからである。その場合でも実際にはTHあたりの電気代はEfficiencyの改善と共に下がっている。またRevenueの項目はBTCの値段が今と比べるとかなり低い前提の計算なので、今であれば数倍以上になるはず。)

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(*ここ以降は筆者が分かりやすくするために、大幅に書き直して要約している部分があるため、原文に興味がある方はこちらへ

電力効率の改善は利益に大きな影響がある。前述の通り、同等条件で同じ計算量ならば電気代が安い方が利益が出るからだ。また、ビットコインはマイナーの数が増えたり、機材を増強をしてシステム全体のハッシュレート(計算量=採掘速度)が上がると採掘難易度上がり、採掘速度を下げようとする仕組みのため、たとえ過去と同じ計算力を用いても採掘から得られるBTCが減ることもある。(*金塊に例えるとすると、仮に世界中の金の採掘ペースが速くなりすぎた時には、自動的に地中のより奥深くに金塊を移動させてペースを強制的に落とさせるのと同等の事をビットコインは自律的に、かつ柔軟に行えるのである。)この難易度(difficulty)は上下するが、全体としては上がり続けている。そうなると世代が古い機材ではマイニングから得られる収益よりも、電気代が高くなり、逆ザヤになることが考えられるため、最新世代の機材以外は駆逐されていくように直感的には感じられる。しかし条件によっては必ずしもそうではないのだ。説明しよう。

まず、今となっては古いマシンのAntminer S9だが、中国南部のように極端に電気代が低いエリアでは、BTCの市場価格が高騰すると電気効率が悪いS9でも利益が出る場合があるのだ。そして、古い機材は取得時期にもよるが、最新の物と比べると単価がかなり安い(S9は場合によっては1台あたり数十ドルで売られていた場合もある。それと比較して最新のS19は数千ドルである。)そうなると、機材のコストをリクープするまでの日数がかなり短縮されるシナリオが出てくる。このリクープ日数は経営的に重要なため、機材の単価も重要要素の一つなのだ。

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上記はある市場の条件下でのAntminer S9を購入した場合のシミュレーションである。横軸が電気代、縦軸がBTC市場価格だが、Neverと書いてある赤い状態では決して機材入手コストのリクープができない。しかしBTCの価格が上がったり、電気代が低い場合は白い領域でリクープ(日数で表記)が可能になる。たとえスペックが低くとも、すばやくリクープさえできるように条件が整えば、高価な新世代マシンよりも儲けが出やすい構造がありえるのだ。こういった理由で、ビットコインのマイニング機材は古い世代の機種が意外と寿命が長かったり、途中で需要が復活することもありえる。特に2021年初期のようにBTC価格が突然高騰すると、マイニング機材が古い物も含めて枯渇して、中古市場での価格もかなり上がるという現象が起こる。

半減期サイクルについての箇所でも解説があったが、目ざといマイナーは古い世代の機材をタイミングよく入手して裁定取引を狙える。狙い目なのはハッシュレートが比較高く(=採掘難易度が高い)、BTCの市場価格が比較的低い場合だ。こういう時期は、安く放出される古い世代の機種を入手するチャンスだからだ。本来であればBTCの価格とハッシュレートは連動するはずだ。BTCが高くなれば、利益が増えるためマイニングが活発になり、ハッシュレートが上がるからだ。しかしハッシュレートの上昇を後押しする、機材メーカー側の新規供給サイクルは必ずしもBTCの市場の動きにタイムリーに追いつけない場合がある。暗号通貨マイニングの分野に限らず、半導体設計にかかる時間とコスト、生産ライン確保のための先行投資は非常に高リスク・高コストのため、シビアな市場の需要予測が必要であり、その読みが外れる事がよくあるのだ。

チップの設計自体が終わっていても、チップを製造するための素材となる高価なシリコン・ウェハーは12〜13週間先にオーダーする必要がある。市場を先読みすることは困難であり、供給と需要とのギャップが生じる事は多いのである。現に2021年初旬の今はBTCの市場価格が高騰しているのに、マイニングの機材は圧倒的に足りないのだ。逆にこの高騰前に機材を安価に確保していた業者は大きな利潤を今得ているだろう。

マイニング用半導体の微細化はこのスペック競争の中心に長年あった。(*このリンク先の記事は分かりやすくてオススメです)。最先端の半導体プロセスを用いたASICは、より沢山の計算力をより少ない消費電力で実現するからだ。しかし、当初130nmのプロセスを用いたマイニングASICも激しい競争を経て、一気に最先端のプロセスに数年で近づいてた。チップの微細化が16nmから7nmに移行した現在、この激しかった競争はしばらく落ち着くだろう。以前の2年単位の大きな変化は少なくとも3から4年間のサイクルに変わるはずだ。商業化されている最先端である5nm以降の最先端のプロセスはコストが高く、リスクも高い上に、生産ラインを確保するためにはAppleやサムソンのようなスマホメーカーと競うことになる。(*そしてマイニングチップ業者はTSMCなどの「ファブ」と呼ばれる半導体生産企業から様々な理由で最近は嫌われている。)

*下のグラフを見るとCPU, GPU, FPGAから始まったマイニングは、ASICに替わってから半導体微細化のプロセスを130nmからほぼ最先端の7nmまでを7-8年間で駆け上がり、同時にシステム全体のハッシュレートも上昇し続けていることが分かるだろう。

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半導体を中心としたスペック競争が落ち着くと、今後はマイニング機材の安定性などがより重要度を増すことになる。機材が不良で稼働しなくなると、利益悪化に直結するからだ。例を挙げると、Bitmain社のAntminer S17は熱設計ミスが原因で30%近くの不良率があり、業界では非常に評判が悪かった。不安定な最先端の機材よりは、安定したものが求められるのは事業の性質上当然だ。

最新機材の導入には設備投資額が上がるため、今後もより大規模な工業化が進むだろう。単なるデータセンターから、よりマイニングに特化したインフラの導入が始まっている。また、安価なフレアガスを用いた電力供給、マイニング機材の寿命と効率を上げる液体冷却装置の活用、より効率的なオペレーションを行うための独自管理ツールの導入なども増えてきた。

こうした大規模工業化により、ビットコインを可能にする最も根本的なレイヤーであるマイニング事業が少数の業者に集約化していくことを我々は心配するべきだろうか?ビットコインの根底にある分散型であることの理想とメリットを失うのではないかという懸念は以前から示されてきた。(*例えば仮にマイニングが集約しすぎてしまうと、いわゆる「51%アタック」が理論的には可能になり、同じビットコインを2回使えてしまうダブルスペンド問題などセキュリティ的な問題が懸念される)

しかしハードウェア生産とはつまるところ規模が正義であり、高品質な複製をいかに効率よく行うかのゲームなので、規格化と管理の集約化によるメリットはかなり大きい。よってこの工業化の流れは止められないだろう。マイニングを実質的に分散化させるのであれば、物理的なレイヤーよりも少し下流のレイヤーでハッシュパワーを分配することに注力したほうが良いと考える。例えばStratum V2のような分散マイニング用の次世代プロトコルなどを使うことだ。つまり物理的にマイニングを行うところはある程度少数で集約されていても、そこから産まれるハッシュパワー、つまりブロックチェーンへの正規の書き込みをするコストと権利が分散されれば、集約による51%アタックなどの懸念されている問題が生じる確率はとても低くなるであろう。

10年間以上にわたる野蛮な成長を経て、マイニング業界は現在岐路に立たされている。本ブログで挙げた「三体の力」の絡み合いは短期的には予測不能な変動をもたらすが、長期的にビットコインがより深く・広く一般的な経済圏に統合されるにつれて、マイニング自体もより競争が激しくなり、資源集約的になることは予測できる。これまでのマイナー達は、経費をできるだけ抑えるだけで済んできたが、今後の利益率の低下により、マイナー達はキャッシュフローとリスク管理をより意識しなければならない。今後は、大規模産業化と金融化の2つの大きな流れが業界を形成していくことになるだろう。

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