Bill Evans "Waltz for Debby"
音楽と言えばメタル一辺倒だった自分が、ジャズを聴き始める切っ掛けになったのが、ビル・エヴァンスだった。
このアルバムに出会った時のこともよく覚えている。
それまでメタルばかり聴いていた大学生の頃、ふと違うジャンルのアルバムを聴いてみたい欲求が生じた。とはいっても、どのアーティストやアルバムを聴いていいのか、皆目見当が付かない。
そんな時に、仲の良かった後輩がジャズ好きだったので、何枚かCDを貸してほしいとお願いした。たしか3, 4枚借りたはずだったが、その中にWaltz for Debbyが入っていたのだ。
早速聴いてみると、1曲目のMy Foolish Heartから耽美的なメロディがひたすら続く。初めて聴いた時から一発で気に入ったのを覚えている(他に借りたアルバムの事はあまり記憶にない)。
このアルバム、ジャズ初心者のお勧めアルバムにほぼ必ず名前が挙がるアルバムであり、確かに一聴目から分かり易い。
しかし、何度も聴いていると、演奏自体に緊張感があり、全く聴き飽きないことに気付く。ただ耳障りが良いだけではないのだ。
そして、エヴァンスを語るのによく使われる「リリシズム」のある演奏が、自分にとっては特にツボだった。
エヴァンスを聴いていると、メロディは美しいのに、どこか孤独さ、淋しさを感じさせる部分が必ずある。実際、彼の人生自体にそういった一面があり、最後には酒が原因の肝硬変で亡くなっている。
そういった破滅的なところを含めて僕は好きになり、彼のアルバムはその後20枚以上購入した。
一般的にはスコット・ラファロが在籍したファースト・トリオを全盛期として取り上げられる事が多いが、その後もどの時代においてもエヴァンスの演奏のクオリティは高く、特に晩年に収録されたいくつかのアルバムは死に向かっていく破滅的な美しさをも感じさせる(”You Must Believe in Spring"が特にお勧め)。
自分にとってビル・エヴァンスは、夜、静かな暗い部屋の中、一人でウイスキーを飲みながら聴きたくなるアーティストだ。