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多様な住宅空調設備を評価するための暖冷房負荷計算の開発(1)~背景~

割引あり

本記事は、令和4年度国立研究開発法人建築研究所講演会で講演した内容をもとにしています。講演会では時間的な制約があったため、この内容をもとに、大幅に加筆(&修正)しています。

講演会の動画はこちらから視聴できます。

住宅の暖冷房エネルギーの消費量の予測に暖冷房負荷計算は欠かせません。この記事では、新たに暖冷房負荷計算を開発する狙い・意義・概要について説明します。

背景

シミュレーション

近年、住宅をはじめとし、建築物のエネルギー消費量を削減することが、ますます重要になっています。住宅のエネルギー消費量を削減するには、設備の使用時間を減らすなどのすまい方の工夫が重要であるのは言うまでもありませんが、加えて、同じすまい方でもエネルギー消費量が少なくなるような設計段階からの家づくり、例えば、断熱や日射熱の取得・遮蔽に配慮した外皮設計・高効率な設備の選定が重要です。

建設段階から適切な外皮設計・設備選定を行うための鍵は、シミュレーション(コンピューターを駆使したシミュレーションから簡単な手計算レベルを含む)を活用し、エネルギー消費性能を予測することです。

設計段階におけるエネルギー消費性能予測に最も活用されてきたのが、国が評価方法を定めた建築物省エネ法です。建築物省エネ法に基づく評価方法と計算プログラムが建築研究所で公開されており(注1・注2)、この計算プログラムを使用して適切な省エネ設計を行うのが一般的です。

住宅に関する省エネルギー基準に準拠したプログラム

建築物省エネ法以外にも、日照シミュレーションや防露シミュレーション、建築物省エネ法とは異なる評価方法・評価軸を持った省エネ評価プログラムが存在し、それらのシミュレーションプログラムは設計段階で適宜、使用されています。

では、なぜシミュレーションが必要でしょうか?

建築物は一度建設してしまったらやり直しがききません。そこで建てる前にきっちりとシミュレーションすることが重要になります。

建築物省エネ法

建築物省エネ法では、建物がどの程度、省エネなのかを評価する枠組みです。次の図を見てください。

建築物省エネ法の枠組み

右側(designed aplied building)の設計建築物・設計住戸と、左側(standard building)の国が定める標準的な仕様の建築物・住戸それぞれで一次エネルギー消費量をシミュレーションで計算し、標準住戸(左側)よりも設計住戸(右側)のエネルギー消費量が小さかったらよいというような枠組みです。

この計算をするときに重要なのが使い方の想定です。

次の図は、車のモード燃費です。

車の燃費の試験モードの例

車の燃費を測る際、停止していれば燃料消費量ゼロですから、ある程度、動かし方を想定して効率を測らないといけません。この図の縦軸は速さです。このようなスケジュールで車を動かし、燃費を測ります。

建物も同じで、誰も住まなければ(使わなければ)エネルギー消費量ゼロですから、何らかの使用スケジュールを定めて省エネ量を計算します。次の図は、建物の使用例です。

想定されている居住者のスケジュール

横軸は時刻です。このように、居住者がどの時間帯にどの部屋に在室するのかが決められています。このスケジュールに基づいて1日1日シミュレーションにより、使用されたエネルギー消費量を計算します。

実際の使われ方は多種多様で、人それぞれです。しかし、このように(実際には存在しない)「平均的な使われ方」を想定して、効率を計算する、これをベンチマークテストと言います。パソコンの速さを計測したりするやつです。車の燃費も同じとい言えます。そして、建築物省エネ法における一次エネルギー評価も、一種のベンチマークテストみたいなものであるというように考えることができると思います。

建築物省エネ法におけるシミュレーションプログラム

1時間ごとに計算しますので計算量は膨大になります。とても手計算で計算できるようなレベルではありません。そこで、シミュレーションプログラムを建築研究所で公開しています。

エネルギー消費性能計算プログラム(住宅版)

このプログラム上で、採用する設備などを選び、計算すると、一次エネルギー消費量が計算できます。

計算結果

一次エネルギー消費量の内訳として、これを用途と呼んだりしますが、暖房・冷房・換気・給湯・照明・その他、に分かれます。その他には、家電や調理で使用されるエネルギー消費量が含まれます。これらに加えて、太陽光発電やコージェネレーションによって発電される電気の量も重要になります。

さて、このうち、暖房と冷房のエネルギー消費量を予測するためには、暖冷房負荷を計算することが重要です。

暖冷房負荷

暖冷房負荷とは何か?について説明します。次の図は暖房負荷について説明した図です。

暖房負荷

冬を想定します。室外が0℃で室内が20℃だとします。熱は温度が高い方から低い方に逃げます。熱が逃げていくのが続くと室温下がっていくため、室内を20℃に保つためには、逃げていく分の熱を補填しないといけません。これを暖房負荷と呼びます。

暖房負荷の分と等しい熱を、エアコンなどの設備を通じて供給できれば、暖流負荷を設備の効率で割ることで、暖房エネルギー消費が計算できます。

暖房エネルギー消費量 = 暖房負荷 ÷ 暖房設備の効率

従って、暖房エネルギー消費量をきちんと計算するためには、暖房負荷をきちんと把握することが重要になります。

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