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年金部会での発言録

勿凝学問346


何を話したのかを忘れる前に、自分のためにメモを


第21回会議(2024年11月25日)

基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整の早期終了(マクロ経済スライドの調整期間の一致)について

○権丈委員 大変な資料作り、本当にお疲れさまです。
 今回、基礎年金の水準論の話が資料の中にはないですね。そこはとても評価できると思います。基礎年金の水準論の話というのは、2004年改革で、年金の政治的な持続可能性を確保するために、給付建てから拠出建てに切り替えるというぎりぎりの厳しい決断をしたときに、実はこの国、日本の年金というのは、その問題を表には出さないという決断をすることによって、日本の年金の持続可能性を高めたというのがあるわけですけれども、さすがに年金局はその話、基礎年金のあるべき水準はこうだとかいう話は使わなかったというのを、私は高く評価しております。
 そこで今回は再分配効果というロジックで資料をつくってきた。ただ、既に公的年金の中で広範囲で行っている再分配をさらに表に出すことによって、国庫負担の支出先として競合する例えば子ども・子育てとか介護などと、優先順位を戦えるのかというのはある。
 今日の議論で、調整期間の一致というか、国民年金財政と厚生年金財政を統合するというのが基本的な考え方であるわけですけれども、そういう話に関して、私は一度もよい政策と思ったことはなく、トロイの木馬によるトロイの破滅を予言したカッサンドラの不吉な予言のようなことばかり言ってきたわけです。今日もそういう話になると思います。
 まず、積立金を一緒にするという政策の原動力は、資料1の8ページの中ほどに「王道(適用拡大と45年化)の改革路線と比べて」と書いておりますように、厚生年金のマクロ経済スライドが早々に終了して、基礎年金だけが続いていく状況になったときに、野党などからの批判に耐えられないという政治的理由がどうもあると私は見ています。
 動かしている原動力は、年金論ではないなと。年金論を論じる今日の年金部会で仮に全員が反対しても、この話は進められるのだろうと見ています。
年金論者や年金部会は、昔からデフレ経済にも耐えうるようにマクロ経済スライドのフル適用を言ってきたのですけれども、それを政治は拒んだ。その結果が主な理由となって調整期間のずれが生じたわけです。そうした政治が、今は積立金を統合するとそれが国庫負担増の呼び水になって、調整期間のずれを修復できるという手段に着目している。だから、予言という意味では、この話は年金論とは関係なく前に進むのだろうと見ています。
 ただし、7月3日の財政再計算のときに、年金局長は、「マクロ経済スライドによる調整を経てもなお比較的高い給付水準を将来にわたって確保できる見通しになった」という言葉を使い、同日に厚労大臣は、「基礎年金の拠出期間を延長し、国民に追加的な保険料負担を求めてまで給付水準を改善する必要性は乏しい」と発言しているわけです。それでも調整期間の一致をやるのは、政治的理由があるからだろうなと私には思えるわけです。
 ここで資料1の6ページに「兆円単位の額を国庫に抑えられていたら、あとは政治に委ねられるものは仕方がない。果たしてこれから今回の財政検証の試算、投影どおりに進んでいくのか。政治の投影はできないので予測するしかないけれども、今後の年金に関する予測という意味ではどういう展開になっていくのか」という私の発言があるわけですが、ここで不吉な予測をするとすれば、追加的な国庫負担と引き換えに国庫負担2分の1の原則が壊されるおそれ、そして一度壊されると歯止めなく進められるおそれがある。そうなったとしても、再分配という視点から見れば、例えばクローバックの導入というようなものは、再分配の強化となって現れてくるかもしれないので、年金局が今つくっているロジックと矛盾はしない。
 さらに不吉な予言をするとすれば、今出ている資料1の改革をやるとすると、45年化の改革の芽は消えます。資料33ページにオプション試算の組合せ試算がありますけれども、足元の61.2%が、この適用拡大と調整期間の一致とそして45年化をやっていくと経済が順調なケースでは68.8%になる。過去30年投影の場合でも63%代になり、今の所得代替率を超える。このように45年化という王道の改革を早々に放棄した政治が、モデル年金の所得代替率を、法律にある下限の基準50%をはるかに超えるために汗をかくわけがない。
汗をかくというのは小野委員の言葉なのですけれども、年金は汗をかかなければいけなかったけれども、それをやらなかった。そこで生まれた調整期間のずれを国庫負担という形で今ごまかそうとしているのだよねっと、この話が出てきた当初から言っていたわけです。
適用拡大を④の10時間以上20時間未満のところまでしっかりと行っていく方針を明確に立てましょうという是枝委員の意見に私は賛成です。しかし、年金を動かしている政治には、そうしたインセンティブがないです。
ゆえに45年化も、さらなる適用拡大も、調整期間のずれという政治問題が解決すると葬られることになるという、私はカッサンドラの予言みたいな誰も信じない不吉な予言をずっとしているわけなのですけれども、今年の7月3日の政治的判断を見て、この予言は本当に当たるのかもしれないなと思った次第です。
 以上です。

経団連の出口委員の発言を聞いて

○権丈委員 出口委員と私は似ているところがあって、国民年金、基礎年金のほうで今どんな状況かというところ、予定以上に給付水準が高くなっているということは、こういう議論をする上では、みんなで共有しておいていいのではないかと思います。
 そして基礎年金、これは政治が決めるのでどうしようもないわけだけれども、出口委員がおっしゃっているように、国民年金、基礎年金のほうで何らかの要するに汗をかくというようなこと、そしてその原因をつくった人たちが、ほかのところからお金を持ってきて埋めたらいいという着想というか、発想というか、この展開というのは、私は何か違うよなと思う。年金が抱える問題はしっかりと年金で解決しておかなければいけなかったのだけれども、それを我々が幾ら報告書に書いて、いろいろと言っても動かないという展開になっていたということは、我々はみんな共有しておいてもいいのかもしれないと思います。
 以上です。

在職老齢年金制度について

標準報酬月額の上限について

○権丈委員 高在老の支持者が多いのは、資料2の2ページの図を見て、高所得者の年金を減らすのは再分配なのだから良いことではないかと判断しているところがあるのでしょうね。しかし、この制度の問題は、2019年の『年金部会における議論の整理』にあるように、「同じような所得を得る者の間での公平性の問題」とか、また、「繰下げ受給しても在職支給停止相当分は増額対象にならない」という理不尽さにあるんですね。
どうして対象は賃金だけなのですかとか、本当のお金持ちがいるところの役員報酬とかは何で対象ではないのですかという疑問に対する理由がない。ほかにも、どうして繰り下げても減額されたままなのですかという疑問にも理由もない。そういう素朴な疑問に答えることができないから、みんな初めてこの問題に直面した時にえっと思うことになる。65歳になって、みんなそのことに気づいていって、年金への不信感を高めていったりする。
 そういう理不尽さがこの高在老が抱えている問題で、資料2の4ページに、「高在老の対象者は働くことはあまり苦と感じず、就業調整をしないだろうが、この制度の理不尽さに不満を持ちながら従わされているのが現状ではないか」という言葉があります。つまり、昨年12月に話したように「みんなおかしな制度だと思いながら泣き寝入り状態なわけです。この泣き寝入りはなかなか検証できない」と私は見ています。年金事務所で制度を教えてもらってはじめて理不尽さに気づいた時、一人で制度に抵抗してもどうしようもないですからね。でもみんな年金制度への不快な思い、嫌悪感を抱きながら大方働くんですね。
 この引用に続いて、「この不満を緩和・解消するために、現行の標準報酬月額の上限を超えて賦課した保険料を財源に高在老の改革を行うことが考えられる」とありまして、これかはなり前から言っていたことです。この意味することは、アメリカのように公的年金の中に再分配効果を組み込みたいのならば、昨年12月の第11回年金部会で話しているように、現在の標準報酬月額以上の報酬に年金保険料を賦課して、その財源を高在老改革の財源とする、ということを私は意図していました。昨年12月に話した日本型ベンド方式、つまり今の上限以上の「保険料が全部、自分の給付の算定基礎になるわけではない意味では一種のベンド方式」を考えていました。高所得者問題は高所得者間で解決することにして、高所得者優遇だという批判を封じる。
今の高在老は65歳以上になった時のその時点での賃金とか年金額そのものが基準だから話がおかしくなっています。アメリカでは、生涯拠出してきた平均標準報酬月額を基準として乗率を下げていくわけで、日本の高在老とは全く意味が違う。
 標準報酬月額の上限を上げて高在老撤廃の財源を得ようと長く言っていると、7月の財政検証で、標準報酬上限を引き上げると、拠出と給付の間にタイムラグがあり、その間の積立金の運用などを介して、将来の年金受給全体の給付水準も上昇することが示されたわけです。
もちろん今の高在老を撤廃するためには4500億円の財源を必要として、標準報酬月額を98万円まで上げる必要がある。それは政治的に難しく、上限の引き上げはある程度に留めて、高在老を適用する収入を引き上げるというのはあるのかもしれないけれども、そうであれば標準報酬月額の上限引上げと生涯の平均標準報酬を基準としたベンドポイント方式を組み合わせなどを考えることによって、今、働いている今年、今月の賃金と年金月額にリンクした高在老は撤廃するところまで持ち込んでもらえればと思います。
 高在老に不満を抱いている人たちの多くは、恐らく再分配そのものには不満があるのではなく、年金減額への理由が、保険料率を少し下げるために財源が必要だったから、その財源措置のために繰り下げても支給停止分は繰下げ増額の対象にならないというような、理由が財源措置だからという以外にないことへの理不尽さに不満を持っているのだと思います。繰下げた先の5年後、10年後に、高所得である保証はないわけですし。
 Work Longerが経済社会政策の最上位に位置づけられる今の時代に、それを実行していこうとするとペナルティーが課される。しかも正当な理由もないというような政策は、私は早急になくしていったほうがいいと思います。
 ただ、なくそうとすると高所得者優遇の声が起こって改革が極めて難しくなる理不尽な制度をつくった先輩たちの失策を完全に帳消しにするのは難しくて、昨年12月の年金部会で言ったように、「高在老というゆがんだ制度を政治に求められて過去につくってしまったから生まれた」傷痕がこれからも残るのですけれども、何度もチャレンジしては高所得者優遇だという声に潰された高在老の理不尽さの見直し、それは年金局には頑張ってもらいたいと思います。
 先ほどのマクロ経済スライドの調整期間のところは、私はトロイの木馬だよと言って、年金制度、いろいろなものを壊してしまうよという話をしたわけですけれども、これは年金局に頑張ってもらいたいと思っていますので、応援していきたいと思います。よろしく。
 以上です。

参考 第11回会議(2023年12月26日)

 3つ目になりますが、その上で一人一人の年金給付に反映される標準報酬月額以上の月額のある一定の幅の人たちに年金保険料を賦課して、その財源を高在老改革の財源に用いたいとは思っています。高在老をなくすには規模が要するに届かないわけですが、そのために使う。頑張っていけば届くかもしれないけれども、高在老はみんながおかしな制度だ、賃金だけが対象となるなど不公平な扱いだとみんな思っているのですが、この前も言いましたように、この層の人たちは働き続けます。だから、労働経済学者が就労に悪影響を与えているかどうかを検証していっても、これは結果が出てきません。

 だけれども、みんなおかしな制度だと思いながら泣き寝入り状態なわけです。この泣き寝入りはなかなか検証できない。そうした問題を高所得者たちが高所得者の所得で解決して、Work longerという高い優先順位とインセンティブが両立して、長く働こうとしている人たちへの現在のペナルティーを消していくことに優先的に使っていくことが考えられる。これは保険料が全部、自分の給付の算定基礎になるわけではない意味では一種のベンド方式になるわけですが、高在老というゆがんだ制度を政治に求められて過去につくってしまったから生まれた経路依存的な日本型ベンド方式という形でこれから標準報酬月額の基準を考えていくときには、この観点も私の中では考えていこうかなと思っております。

第20回会議(2024年11月15日)

○権丈委員 小林さんの後でもいいのですけれどもね。まぁ、今、話題の「年収の壁」でいろいろと盛り上がっているわけですが、目下、国のほうで支援強化パッケージがあって、先日は立憲民主党のほうから壁をなくすために補助金を出すという案が出ていました。
この種の話は、企業に補助金を出せば、いわゆる壁と言われる収入の屈折点は埋まる話であることから分かりますように、お金があれば解決する話です。つまり、市場経済の中で生きている民間企業が、人手が足りないなら自分で賃金を上げたり、ボーナスで社会保険料を還付したりすれば済む話で、そういうことをやっているところもあるということです。
 どうも、みんな人手不足とか成長戦略という言葉にはわくわくするところがあるようでして、年金局がつくった悪い制度が成長という正義をもたらす企業をいじめているという構図で物事を理解しているようなのですけれども、この話はなんていうことはなく、付加価値生産性が低い企業に補助金を与えるているだけの話なんですね、我々、政治経済学からみると。
そこでもし何もしなければ、経営者は生き延びるために、アニマルスピリッツを発揮したり、起業家精神を発揮して付加価値を高めようとします。そうしたことをやっている前向きな企業は今、幾つもあるわけですが、そういう企業のライバルである低い付加価値生産性の企業に補助金を与えるというのが今、なされているわけですけれども、正直者がばかを見る政策ですね。
 こういう話が出てきた当初から、私は何もしないのがベストだ。それが国民経済や成長戦略としても一番いいと言っていたわけですが、絶対に避けたいのは、壁でもないのに人のお金を使って穴埋めをすることだということを、周りに話したり、年金局にもそういうことを伝えていました。その意味で、支援強化パッケージは落第点です。立憲民主党の今回の補助金を出そうというものも落第点。
もちろん、就業調整している人たちは、多くは社会保険への誤解と無知に基づいて就業調整をしている面がありますので、これに対しては広報活動を徹底すると同時に、その広報活動に企業にも協力してもらおう。以前にも話しましたように、新しく適用拡大がなされた対象者全員に公的年金シミュレーターを試してもらうように、企業側に義務づける法律をつくるぐらいのことはやっていいと思うし、そして就業調整を考えている彼らに、年収ではなく生涯収入という意識で自分のライフコースを決めてもらうという意識改革をやってもらいたいと思います。
 ここでも繰り返し話しましたけれども、労働市場が弛緩から逼迫に転じて労働力希少社会に入った事実は、それまでの常識を180度ひっくり返してしまいます。
労働力希少社会では人手不足倒産が起こります。起こっても、完全雇用は大体守られます。それで、数少ない労働者を企業が奪い合うわけですから、企業は被用者保険を完備していないと競争上不利になります。今は「年収の壁」を扱うテレビを見ていても、コメンテーターたちは被用者保険があるところに転職したほうがいいよという話をテレビの中でもやっているわけですけれども、だから、労働力希少社会に入った段階の私の言うことも180度変わってくるわけですが、中小企業を守るためにですね、(日商の)小林さんのところとかね、労使合意により任意包括適用の広報活動を、雇う側にも働く側にもしっかりと広報してもらいたいと思います。
 それで、常時5人以上の個人事業所の非適用業種を解消した場合でも、70万人の人たちが厚生年金を利用できないわけです。これを放置しておくと、市場がそういう企業を淘汰していきます。それでいいのですかということで、しっかりと任意包括適用を広報して、小林さんたちもみんなでそれを利用するという、そういう方向にいかないと生きていけなくなってきたんですね。
その話の延長線上で、今回出された49ページの検討の視点にある、事業主が被保険者の保険料負担を軽減する提案は、どの制度がベストかではなくて、今の支援強化パッケージとかよりはましだという話です。何が望ましいかではなくてですね、世の中から、壁だ壁だ壁だと言われて、本当は年金局のみんなは壁だと思っていないですよね。でも壁だと言われて、何か制度をつくれと言われてこの制度をつくったわけだけれども、今、年金局の彼らが提案しているのは、他からお金を持ってこようとしていないんですね。これは私は評価していいと思う。何よりも、壁でもないのに人のお金を使って穴埋めしない原則は守っているので、私は今の制度よりはいいと思う。
 事業主が被保険者の保険料負担を軽減するようなことをやるといろいろ問題があるのではないかという意見もあったけど、コーホートで見ると、この辺りの若い人たちが一体、誰がこれから第3号になろうという人になっていくのかというのがあるので、コーホートで見て、多分、この制度をつくっていって民間で適用していたとしても、40代、50代の人たちが多く利用して、そのあとの若い人たちはあまり利用しないですよねということですね。
 今回の年金局案は、20時間未満の厚生年金ハーフとか、岸田内閣が言っていた勤労社会保険との接続もいいと思います。年金局案も、厚生年金ハーフも労使折半を変えているから、それなりに批判されることは分かっているのですけれども、厚生年金ハーフの着想の源はドイツのミニジョブで、半分しか、使用者側しか払っていない制度をあの国はつくりました。ドイツは必要が制度の形を変えていったわけですが、私はドイツが持っている、そうしたプラグマティズムを高く評価していいのではないかと思う。原理原則にこだわらずということです。
 以前、厚生年金ハーフを小野委員から評価してもらったポイントは、20時間未満の厚生年金ハーフはマルチワークの人たちにも適用できるという点でした。今日はそういう話が複数事業所勤務者に対する被用者保険の適用等を続いているわけで、そこから来ているわけですが、この箇所に標準報酬月額とかいう言葉がいろいろ出てきたりして、いかにもアナログ感があるんですね。
全世代型社会保障構築会議の中間報告にも最終報告にも、「社会保障のDXに積極的に取り組む」とあります。医療DXはみんな有名ですけれども、結構、幅を持って、スペースを持って社会保障DXも書かれているのですが、2022年12月の最終報告書には、「社会保障におけるデジタル技術の導入を積極的に図ることによって、社会保障給付に要する事務コストを大幅に効率化する」。それで、「関係省庁が連携しながら、政府一体となって社会保障制度全体におけるデジタル技術の積極的な活用を図っていく」とあります。ぜひマイナンバーを用いればどこまでできるのかを含めて、デジタル庁と意見交換をしながら、複数事業所勤務者に対する適用あたりはどこまでできるのかを検討してもらえればと思います。時間はあると思いますので。
 第3号被保険者の検討に当たってについてですが、1985年の改革で一体、何をやったのかというと、片働き世帯の定額部分を2人分の基礎年金に読み替えたんですね。だから、1985年の改革で片働き世帯の負担と給付はなんにも変わっていません。夫が自分のものだと思っていた定額部分が半分になって、それが基礎年金として分割されて半分は奥さんのものになっただけで、2004年の共同負担規定で今度は報酬比例部分も半分になったというだけで、1941年の被用者年金創設のときからずっと賃金比例の保険料を払ってきた男性というのは、1階も2階も全部、自分のものだと思っていた年金給付が、いつの間にか半分になったというだけの話なんですね。男性って何かかわいいなと思うのですけれども、年金局はしっかりとこの辺りのことを説明してもらいたいと思う。
そして、前回も言いましたが、配偶者が第3号であるときの共同負担規定は離婚時だけでなく、平時でも徹底して、ねんきん定期便にも反映させてもらいたいと思う。そうすると、男性が抱いている3号はお得だという意識の壁、まあかわいい間違いなのですが、そういうものも崩れていくかなというのがあります。
 今日、学生のアルバイトの話が出てきているわけですけれども、これは表に出ない議論として外国人アルバイトの話が関わってきますので、これはやはり表に出していいのではないかというのがあります。なぜこういう制度がこういう形になっているのかというところで、かなり表に出ない話としてあるので、留学生アルバイトのところも学生アルバイトのところの議論として一緒にやってもいいのではないかと思っております。
 以上です。

第19回会議(2024年11月5日)

今日は「多様なライフコースに応じた年金の給付水準の示し方について」となっています。利用者に理解しやすい示し方という意味で理解すれば、示し方は公的年金の一種の広報のあり方とみることもできるのですが、広報のあり方を考える際のポイントは、今の時代、「文字だと人は見てもくれない」ということを前提にしても良いかと思います。
そういう意味で、年金の給付水準を示す際には、どんな場面でも、1ページ目に公的年金シミュレーターの紹介があった方が良いと思います。今日の資料では12頁に参考資料としてありますが、いつもこれを最初におく。次に来るのが、専門家や記者向けの文字が書かれた資料という感じになるでしょうか。
ただ、2019年の財政検証で作られた資料4は、公的年金の誤解を解き、正確に理解してもらうための資料としてかなり良質なものだったのですが、あの資料の重要性は理解されていなかった。世の中、そういうものだという前提で広報活動をした方がいいと思います。
そういう意味で、今日は東京都の活動を配布しています。
権丈委員提出資料
(ここにあり 第19回年金部会配布資料
彼らは年金を扱う部署ではなく、女性の働き方、ライフコースを自ら見直して女性にももっと活躍してもらいたいと願っている部署だから、年収や、年金の給付水準ではなく、「生涯収入」という観点から、動画を用いながら広報活動を展開しています。おそらく、年金を報道されている女性の記者たちもそうした観点だと思います。
東京都は、継続就業コースと出産して離職するコースでは生涯収入が2億円違い、そのうち3千万円が年金というような伝え方をしています。近視眼的認知バイアスを持つ人間が、間違った年金情報を信じ切って生きている世の中では、こういう情報の伝え方でないと、年金に関して、働き方の見直しという、今週、今月、今年の判断に届くようには理解してくれないのだろうと思います。年金局にも、是非とも「生涯収入」という観点も意識しておいてもらえればと思います。
東京都は、イフキャリという働き方によって生涯のキャッシュフローを可視化することができる試算ツールを使って一般公開しています。できれば、あのツールと公的年金シミュレーターを連携してもらいたい。
更に言えば、マイナポータルで自分が払ってきた年金保険料の履歴を全部見ることができますが、できればマイナポータルと公的年金シミュレーターを連携してもらいたい。そうすると、年金を勉強するぞっと構えることなく、いつでも、喫茶店でもレストランでも、賃金が高ければ、長く働けば、年金が増えるという自分の将来を見ることができるようになります。
年金局には、TikTokを作ろうとは言いませんが、文字による広報はハードルが昔よりは高くなっていることを、我々の世代は分かっておいた方が良いと思います。
年収の壁の話は、昨年よりも一層盛り上がっています。これはやり方によっては、被用者保険に加入することのメリットを国民に伝え、一層の適用拡大を政治的にサポートする動きになり得ます。やり方によってはですけどね。
昔、3号は廃止して1号の保険料を徴収しようと言っていた黒歴史が私にはあるのですが、共同負担規定の下に設計されている今の制度の合理性とその役割、そして昭和から平成、令和と世帯類型や労働市場が大きく変化しても対応できるタフな構造になっていることには、どうもがいても敵わないと思って3号廃止を言うのをやめました。
今日は、離婚分割の時効延期の話がありましたが、こういう話はどんどん報道してもらい、世間に、共同負担の話を理解してもらいたいと思います。個人的には、時効は3年から5年と言わず、永遠に請求できる方が望ましいと思うし、もっと言えば、離婚時に限らず、3号制度を利用している期間は自動的に年金権が分割され、それがねんきん定期便にも反映されるように共同負担を徹底してもらえればと思います。そうすると、3号制度を得だと勘違いして利用していた男性たちは、しっかりと制度を理解できるようになり、3号の利用は減るとみています。
今年5月の財政審の建議には、第3号被保険者は、「保険料を直接払わずとも、被保険者が負担した保険料について被扶養配偶者が共同して負担したものであるという基本的認識の下に」とあります。最近の報道では、「保険料を払わずとも」ではなく、「自ら保険料を払わずとも」に徐々に変わってきています。共同負担の理解が進んでいるのだと思います。
これまで年金局は、3号に対する批判に対して、適用拡大が進めば少なくなりますから勘弁してくださいというスタンスだったようにも見えましたが、せっかく盛り上がっているんだから、日本の公的年金は基本は個人単位であること、共同負担という規定を設けて配偶者に対するセーフティネットを例外的に準備してきたのだけど、それは夫の年金権を配偶者にわたす方法でやってきたこと、そして、仮に基礎年金の財源を消費税に求めても、負担の構造は、一人当たり賃金が同じだったら負担も給付も同じという制度設計と変わらないことなどの説明に、そろそろ本気を出しても良いのだと思います。がんばってください。

第18回会議(2024年9月20日)

○権丈委員 今、労働市場でいろいろと興味深いことが起こっていて、最低賃金の世界では目安50円よりも9円上げて59円とした県が公労使の全会一致で採決されたり、目安よりも34円も上げた県で使用者側の賛成者がいるかと思えば、一方で労働者側の反対者もいたりする。今までは考えられないようなことが起こってきているわけです。

 何が起こっているのかというと、労働市場が緩んでいた、弛緩していた状態から、逼迫した状態に転換してきたことが大きいと考えています。

 我々の用語で言えば、無制限労働供給を意味する水平的な労働供給曲線が反時計周りに回転し始めて、労働力が希少な社会に入ってきた。これは企業、特に中小企業が生き残る戦略を180度転換させます。例えば、無制限労働供給の時代には、企業へのコンサルというのは社会保険料を払わなくても済む方法とか、法律に抵触しないで賃金を下げる方法をアドバイスするのが顧客が生き残るための有益なアドバイスになり得ました。

 ところが、フェーズが変わって労働力希少社会に入ると、そうしたアドバイスをすればその顧客は数か月後には人手不足倒産しているかもしれない。顧客である企業が生き残るためには、労働者に魅力のある職場のつくり方とか、被用者保険の適用は労働条件のミニマムですよと、少々厳しいことを言うことのほうが、本当は企業に優しい有益なアドバイスだということになる。

 だから、東京都の最低賃金もそうなのですが、東商とか日商とかというところは関連企業から適用拡大に反対するようにとか、最賃を上げないようにと言われてくるわけですけれども、そういう政府への要望が通って、そこでできたルールを真に受けていたら、企業は人手不足倒産して、そこでの労働力はより生産的に活用してくれる経営者のところに移動します。そういうことが労働力希少社会では普通になる。

アダム・スミスはこうした市場の力を高く評価していたわけで、私もこの点は市場はすばらしいと思っています。

 今日は、『女性セブン』の「厚生年金にいますぐ入りなさい」という特集の記事を配付させてもらっていて、少々愛嬌のある勇み足ぎみのことが書かれている記事なのですけれども、ここに書かれていることがいかに世の中に広く理解されるかということが、適用拡大がなされる来月10月1日を前にして重要だと思っています。

権丈委員提出資料[1.1MB]

 この記事の最後のほうに、適用拡大が進んでも時間がかかるだろうから、既に被用者保険に入ることができる会社に転職したらいいと私は話していて、労働市場が弛緩していた、緩んでいたかつてでは言っても意味がなかったけれども、今は意味があります。

 それで、大手全国の6紙の新聞とNHKニュースを対象として「年金」と「年収の壁」というキーワードで検索をかけますと、2021年にはヒット数がゼロです。それで、2022年に野村総研が出した働き損レポートをきっかけとして報道合戦が始まってブームが起こるわけですね。そして、2016年の適用拡大時よりも2022年の適用拡大時のときのほうが3号で就業調整した人の割合は高かったという報告もありますけれども、その原因として2022年後半から年収の壁、働き損という報道が盛り上がっていたことが一つ考えられます。

 昔からこうした現象を私は「予言の自己実現」と呼んでいるのですけれども、今回はそうした喜劇、悲劇を避けたく思って今日は『女性セブン』の記事を資料として提出させてもらいました。

 ちなみに、『女性セブン』は9月号では今度、「女の年金は2歳繰下げをしなさい」という特集を組んでいました。

 それで、今日の議題に制度論としてコメントをするとしたら、強制適用の条件を満たしていなくても被用者保険に入ることができる任意適用の制度をしっかりと広報してもらいたいと思います。中小企業も、もう待っていられないと思います。そして、労働者には「見えない壁」を意識した企業が情報弱者の立場にある人たちに就業調整を誘導しているところが今もあるということを記者たちからもいろいろ聞いているわけですけれども、今はそうしたことをやっていると潰れるよという報道を、今回メディアには年収の壁のときの勢いで大展開してもらいたいと思っています。

 こういう状況をある程度解決していく話としては、先ほど小野委員が発言されていた厚生年金ハーフというのが私は妥当だと思っておりまして、論敵は法律学者になるというふうに昔から書いておりますので、それはそういうものだろうと考えております。

 次にシミュレーターのところにいきますけれども、人間は時間軸が関わることが理解できないという認知バイアスを持つ生き物です。そういうことをずっと書いているわけですが、そういう近視眼的認知バイアスがある限り、人間は自然状態では公的年金保険を理解できません。だから、長期的に考えると、その制度に守ってもらっているほうがメリットがあるのに、強制適用になっているわけですね。そういうふうに私はいろいろと書いているわけですが、人間が時間軸に関わることができない生き物である以上、今のところ考えられる有効な方法というのはシミュレーションによる可視化、及び好事例を用いた広報活動ということになるかなというのが昔からです。

 今日は年金部会での話ですが、医療介護の提供体制の改革も時間軸上の人間の弱点を克服するために、シミュレーションによる可視化及び好事例の広報活動という方法を取ることになります。そして、医療のほうでは2025年までの可視化、シミュレーションによる可視化というのは威力が小さかったですけれども、2040年までの人口減少を視野に入れた可視化には少々力が備わってきているかなというようなものを感じています。

 公的年金シミュレーターも人間の認知バイアスを克服する効果が絶大だと評価していますので、大いに展開してもらいたい。今、利用回数が500万ということらしいのですけれども、少ない。東京都も協力しているわけですけれども、これで500万というのは少ない。もっともっと大きな高めの目標を掲げてやってもらいたいと思います。

 2022年12月にまとめられた全世代型社会保障構築会議の報告書には、被用者保険適用に伴う好事例や具体的なメリットを事業所官庁、省庁、いろいろな省庁から全部協力を得て広範かつ継続的な広範啓発活動を展開すべきであると書かれてあります。

 この意図は、厚労省は年金の存在意義とか適用拡大の意義は十分に分かっている。しかし、他の省庁、本当はここは府省庁と書かなければいけなかったのかな。府がついているところがおかしなことをやったりしますので、他の府省庁と言うべきかもしれないんですけれども、分かっていないところがあるんですね。そこも巻き込んで勉強してもらうようにということが、全世代型社会保障構築会議の報告書に込められた意図でした。そういうことをぜひ他府省庁も巻き込んで、政府全体で適用拡大の意義とか、ひいては社会保障の存在意義を勉強する機会を設けてもらいたいと思っています。

 最後に1つ、東京くらし方会議の資料で公的年金シミュレーターを紹介しています。その資料で事務局がつくった原案には、エプロンをつけて三角巾をかぶった女性が2人登場してきて、それだけしかいなかったわけですけれども、私は座長権限を使ってエプロン女性を1人にしてもらって、スーツを着た女性と男性の漫画も加えてもらいました。公的年金シミュレーターを使ってもらいたい人たちというのは、今日の資料4の7ページの左のほうにある図の中でエプロンをつけて三角巾をした女性のほかにもいろいろあるはずなんです。そういうことも含めて、今の時代は本当にイメージとしてエプロンをつけた三角巾の女性にシミュレーターを使ってもらいたい、年金の意義を理解してもらいたい、本当にそれだけなのか。そういうようなところから、根本的にみんなで考え直していこうよというようなところを提案して終わりたいと思います。

 以上です。

第17回会議(2024年7月30日)


欠席 議題:遺族年金

第16回会議(2024年7月3日) 財政検証

○権丈委員 財政検証の公表に至る本日まで、年金局の皆さん、本当にお疲れさまでした。今の年金局の体制でしかできないいい仕事ではなかったのかなと思っております。

 あと、局長、いろいろとお疲れさまでした。

 2019年の第3回財政検証で資料4が出てきました。ようやく3回目で。資料4とその後に生まれた公的年金シミュレーターで初めてみんなの生活と具体的なつながりを持つ材料がそろったかなと思っております。

 これらが出そろうまでは年金論は財政検証の資料1の法定試算に基づいて、将来はこんなに下がるぞという怖いストーリー、ホラーストーリーで論じられてきていたのですけれども、実際には法定試算である資料1は年金不安をあおるばかりで、何十年も先のみんなの将来の生活とあまり関係はありませんでした。

 今回は資料4-1と2。2のところは、本当に数理課長をはじめ、ありがとうございます。それがあるために、今のワークロンガー社会において、厚生年金加入期間が長い男女の報酬比例部分が将来の給付水準の引上げに相当のパワーを持っていることが具体的にイメージできるようになりました。加えて、共働きともなると、そのパワーは圧倒的です。それはいい資料が出てきたなと思っております。ただ、それは厚生年金の世界の話で、したがって、政策課題としては厚生年金の適用拡大が最も優先順位が高いことに必然的になってきます。

 そこで、まず年金論のコメントをしておきたいと思います。適用拡大は、政府が掲げる勤労者皆保険の名にふさわしいように可能な限り進めてもらいたい。次に、年金は保険なのだから繰下げが合理的だよと素直に人に勧めることができるように高在老は見直してもらいたい。その際、資料1の11ページ、12ページの高在老撤廃と標準報酬月額の引上げによる合わせ技、それぞれの改革で所得代替率が上下する相殺効果も検討してもらえればと思っています。そうすると、高所得者優遇という声を封じることができるかなというのもありますので。加えて、繰下げを選択することを人にちゅうちょさせている加給年金も見直してもらえればと思っています。

 また、今回は参考試算として試算してくれたことにお礼を言いたいのですが、調整期間にずれが生まれたのは、大きな原因はマクロ経済スライドのフル適用を進めるという汗を年金制度がかかなかったからです。だから、45年化という年金自身で汗をかく道を諦めるとするのならば、せめてフル適用という汗は今もかいてもらいたいと思っています。

 次に、年金論ではなく政治論という話をさせてもらいます。今回の資料4で面白かったのは、資料4-1に初めて出てきた積立金の性質です。ここに書いてある積立金の性質という話は、実は適用拡大にもそのまま当てはまります。適用拡大というのは、実は積立金による財政調整なのです。1号から2号に移行する際に、その人は1号から積立金を抱えていくことはありません。だから、物すごく多くの人に適用拡大をすると、適用拡大をしないままに厚生年金の積立金を国民年金に移す調整期間の一致と財政的にはどんどん近づいていきます。そのことを今回の試算でも示されたと思います。是枝委員も先ほど指摘されていましたけれども、例えば過去30年投影の場合、資料1の7ページの860万人適用拡大の調整期間の終了が、比例・基礎共に2038年。10ページの調整期間一致では調整期間の終了が、比例・基礎共に2036年です。経済前提にもよりますが、似たような財政効果にどんどん近づいていく。もちろん、860万人の適用拡大というのはある種夢の世界ではあるのですけれども、適用拡大を使っている政策技術は積立金による財政調整だということは分かっておいていいと思います。

 ただ、適用拡大は厚生年金を利用できる人が増えることと、国保の関係で追加的な国庫負担はあまり考えなくてもいいという2つの長所があるために、適用拡大のほうが調整期間の一致よりも年金論としては圧倒的に優れています。この適用拡大と45年被保険者期間延長を合わせれば資料3-1の21ページになり、これが2013年の国民会議から言われていた王道の改革路線です。しかし、45年化のアドバルーンを上げると、「100万円の負担増」という報道で世の中は盛り上がる。年金の宿命とはいっても、この王道を進むのはきついと。財政検証の結果もホラーストーリーではなくなっている今、わざわざやる必要があるのかという政治判断がなされるのは理解できないわけではない。

 ところが、この王道の改革路線と比べて、調整期間の一致というのは年金論と言うと、私はえっと言いたくなるところがあるのですが、政治論としては長所があるというのがある。王道の改革を進もうとすると、マクロ経済スライドは厚生年金ではすぐに終わって、基礎年金では続いていきます。そのとき政治の世界で、5年前もそうだったのですけれども、基礎年金のスライドはやめるべきという話が出てくることが予想される。そのときどうするというのがあるのです。

 この5年間ぐらいはこうした政治問題を表に出さずに、これを長く低年金問題、基礎年金の水準問題、厚年と報酬比例と基礎年金のバランス問題という年金論に置き換えて論じてきたわけだけれども、その辺りはまあいいとしようと。ただし、適用拡大以外は基礎年金の給付水準が上がるためには、2分の1国庫負担問題が出てきます。兆円単位の額を国庫に押さえられていたら、あとは政治に委ねられるということになるのは仕方がないと思う。

 果たしてこれからの事態というのが、今回の試算、投影どおりに進んでいくのか。政治の投影というのはできませんので、予測をするしかないかもしれないけれども、今後の年金に関する予測という意味ではどういう展開になっていくのか。本日のコメントとしてはその辺りにしておきたいと思います。

 以上。どうも。

第15回会議(2024年5月13日)

○権丈委員 では、始めさせてもらいます。

今日の提出資料が配付資料の一番最後のほうにありますので、御覧になっていただきたいのですけれども、これは小野委員と私からの遺言のような資料になっているわけですが、昨年11月の第9回年金部会で小野委員が「ここまでしても社会の理解が得られないのはなぜか」と問題提起をされた資料を提出しています。

権丈委員提出資料(PDF:2701KB)

 私は、人が忘れてもらいたいこともいっぱい覚えているという特技があるので、本日もその特技を使わせてもらったのですけれども、小野委員には、昨年の「ここまでしても」というのは、2019年財政検証時の資料4にある16ページ、本日の資料の通し番号5ページでいいかと問い合わせ、「間違いないです」との返事をいただいています。説明する時間はありませんが、今日の通し番号5の意味をしっかりと理解しておいてもらいたいと思います。

 前回の年金部会で、2019年財政検証のときに一番意味があった資料は資料4だったという話をしたのですけれども、みんな資料の存在を知らなかったです。「ここまでしても社会の理解が得られないのはなぜなのか」という小野委員の問いの答えというのは、社会はここまでされた資料を知らなかったということになるかと思うのですが、そうした事実をベースに公共政策周りで起こっていることは一体何なのかということを考えてもらえればと思います。

 公的年金には認知バイアスが強く関わりますので、集団催眠にかかったような大衆騒動が頻発します。そうした題材の扱い方として大きく2つあるかと思います。

 炎上している理由はどうあれ、騒動が起こっているのだから、それを抑えるために制度を変えるという方法。いま一つは、その騒動を抑えるために、広報活動を強化して正確な情報を発信するという方法です。

 一昨年の全世代型社会保障構築会議の報告書は、例えば年収の壁騒動に対して、後者の、正確な情報を提供するという方針でまとめられています。日本の公的年金の歴史を長い目で見ると、大変な勢いで破綻論が言われ、関係者の多くが抜本改革を唱えていても、年金局は今の制度に自信を持って、よいところを守り、意味のある改革を漸進的に進めてきたと。そういう伝統が日本の公的年金、年金局の歴史にあると私は評価しています。

 その意味で、年収の壁とか3号問題というレントシーカーたちが仕掛けて騒動に関しても、これを鎮静化していくプロセスが徐々に展開されていくのではないかと期待しています。そうした方向にある未来を準備するために役に立つかもしれない「東京都のくらし方会議」が試算した生涯所得の資料を今日は提供させてもらっています。

 ただ、これまでの経験上、ブームに乗って大きく間違えた人たちは、そう簡単に論は変えず、どんどんアリ地獄に入っていって議論を混乱させるだけの存在になっていくという傾向があります。

 先日も某テレビ番組で、東京都くらし方会議の試算が紹介されていたわけですけれども、過去に年収の壁があるために成長が阻害されているとか言っていた人は、年金という遠い先のことを言われても、目の前のお金が大切という人もいるわけでして「やはりこの崖は見直さなければならない」と発言したりして、認知的不協和というこのアリ地獄への道に陥り始めていたわけです。このくらし方会議の試算は、別に年金という遠い先の話だけではなく、就業調整をすると目の前の日々の生活で、今年も、そして、来年もこれだけの所得を失っていますよという試算なのですけれども、過去に発言したことと整合性を持たせようとして、そういう意識が人間は働きますので、試算が意味することを素直に読み取ることができなくなっているわけです。

 世の中は大体、いつもそういうものだから、議論が収束するのには時間がかかるとは思うのですけれども、ただ、将来的には、壁だ、働き損だ、3号はお得だという話を真に受けて、年金局の人たちが苦労しながら進めてきた適用拡大の便益を放棄して、高齢期に後悔することになる人たちは減っていくと思います。年金局には正確な情報を世の中に示す活動を積極的に展開して、適用拡大をちゅうちょなく進めてもらいたいと思っています。

 先月出た『ルポ年金官僚』では、私は制度指示派と評されているわけですけれども、今ある制度は、3号制度も応能原則に基づいた夫との共同負担から成る設計になっているわけで、それを応益原則にするような、何といいますか丸山眞男が言う引き下げ平等主義をここでやる必要はないということも含めて、この国の年金は世の中の人たちが批判するほどそんなに悪くはないと思っています。

 抜本改革など口にしたことがない私が求めている改革というのは、政治的には難しいのだけれども技術的には容易で、論理矛盾も起こさないものばかりです。小野委員の以前の発言になるわけですが、年金側で汗をかくことが大切で、年金が汗もかかずに筋の通らないことをやろうとすると反対はしますけれども、レントシーカーたちと闘って来年の制度改正に向けて努力をしてくれるというのであれば大いにサポートしたいと思います。

 以上になります。どうもありがとうございました。

第14回会議(2024年4月16日)

○権丈委員 今日は資料を1つ提出させてもらっています。資料の一番後ろにあります。これは5年前に書いた文章でして、当時新聞で年金に関する誤報、誤った記事が出ていたわけですが、そのとき年金部会で当時の数理課長、本日出席されている武藤審議官が、当方の広報力不足でこういうことになって申し訳ありません、修正されていくようにさらに努力を続けてまいりたいと思いますという発言がこの文章の中にありまして、5年たっても努力不足だよ、みんなというような話が書いてありますので、見ておいてください。

 前回2019年の財政検証の後、私が一番活用したのは、法律で要請された試算とかオプション試算ではなくて、資料4という。これはもう「資料4」と呼んでいましたが、2019年財政検証関連資料でした。あの資料にある足下、2019年度の所得代替率を確保するために必要な受給開始時期の選択とかいうような資料というものは、若い人たちの年金不安を緩和するために不可欠の試算です。

 加えて、小野委員も以前この会議で触れられていた多様な世帯類型における所得代替率というあの資料も、この国の年金は世帯類型、片働きとか専業主婦とかいうのも全く関係なく、独立したものとして設計されていることを実証されている力作でした。残念ながらあの資料4の知名度は高くなくて、ぜひ今回はあのときの資料をアップデートするとともに、新たにいろんな工夫をして財政検証関連資料を作ってもらえればと思っています。

 例えば1年半ほど前から収入の壁騒動が起こりまして、先日数理課長と話していて、なるほどなと思ったのですが、法律では片働き世帯をモデル年金として給付水準をずっと定点観測していくということが求められているわけですが、法律の要請に基づく財政の現況及び見通し、要するに、財政検証の本体試算では女性が就業すれば世帯の年金が増えることを示すことができないというところがあるのです。しかし、今の制度は世帯類型と中立に設計されているので、2人で働いて1人当たり賃金を増やしたほうが年金が増えること。昔からそういう制度になっているわけですが、ただ、2009年に当時の野党民主党の要請で年金局はそういう試算をしています。モデル世帯の男性賃金を1として、配偶者である女性の平均賃金を、当時の男性に対する平均比率0.62として、共働き世帯の試算を年金局がいたしますと、当然共働きのほうが1人当たりが高くなっているので、年金も高くなるのですけれども、片働き世帯よりも共働き世帯の所得代替率が低く出ます。

 そこで、相も変わらず制度を知らない人たち、制度を知らない有識者がいっぱいいるのですが、あのときは八代さんが中心となって日本の年金は専業主婦世帯優遇であることを年金局が明らかにしたと大騒ぎしていました。だから、家計における1人当たり賃金が増えると年金額は増えて、所得代替率が下がるのは当たり前で、そうしたことを知らない人たちが有識者には大勢いるという辺りも前提として丁寧に説明しながら、新しい関連資料をいろいろと工夫して作ってもらえればと思っています。

 東京都のくらし方会議というところでは、年収という1年単位の視野ではなくて、女性が継続就業した場合、生涯収入を試算して、世の中で壁と言われている話などを真に受けないで働き続けたほうがいいよということを示す試算もしていますので、いろんな工夫をしながら、関連資料の中でやってもらえればと思っています。資料4を楽しみにしています。

 ここで本題の資料1に入りたいと思いますが、3ページの下の1つ目の※印に「(名目下限措置の撤廃)について試算をする」と書かれています。これはとても重要だという話をしておきたいと思います。人間というのは面白くて、名目運用利回りが高過ぎると言って公的年金を批判していた人に、間違えているよ、スプレッドが重要だろうと教えると、彼らは過去の過ちを認めることなく、それでも名目運用利回りが大切だという論をでっち上げていくのです。私は何人も見ています。これを「認知的不協和」と呼んでいます。同様に、昔から支給開始年齢の引上げを言っていた人に、マクロ経済スライドが導入された後は支給開始年齢の引上げは必要なくなっているのですよと言っても、そうですかと言って論を変えるようなことは決してしません。昔から言っている支給開始年齢の引上げを言い続けていくための理屈をつくっていきます。

 先週『ルポ年金官僚』という本が出たのですけれども、本の最終章で吉原健二さんは、めったに発動されることのないマクロ経済スライドで給付を減らす仕組みだけで乗り切れるという誤った認識を早く改めるべきと言って、原則支給開始年齢を70歳にすべきと言い続けられています。今の吉原さんがキャリーオーバーとか賃金徹底を理解した上で発言しているかどうか分からないのですが、どうして支給開始年齢の引上げではなく、名目下限措置の撤廃を言わないのか不思議であります。

 名目下限措置が存続する限り、彼らの言うことは100%おかしいと言えない側面はある。この会議でも名目下限撤廃とかマクロ経済スライドのフル適用というのは、東京商工会議所の小林さんとか経団連の出口さんとかも言われて、そして小野委員とか私も言い続けてきたわけですが、これは極めて重要な意味を持っていると思います。

 私の本にも書いていますが、2017年には日本退職者連合は政府要望の中で、それまでにあった「名目下限措置を堅持する」という文言を削っていて、名目下限撤廃を支持するという流れになっているのです。立派なものだと思うのですが。

 令和2年の年金改革のときに、与野党の協議の中で、野党がマクロ経済スライドの見直しというのを完全に放棄させようとしたのですけれども、与党はそこを踏みとどまって、何とか名目下限の撤廃も含むマクロ経済スライドの見直しの文言を残して、基礎年金の低下に対しては王道としての被保険者期間の延長、そのための財源確保を与野党で共に進める修正、附帯決議を与野党でまとめ上げています。

 ということで、不確実な将来に向けたリスクマネジメントの観点からも、そしてキャリーオーバー実行時のショックを緩和するためにも、インフレを経験している今だからこそ名目下限措置の撤廃。小野委員の以前の発言を借りると、年金制度は汗をかく改革。マクロ経済スライドの完全適用という改革というのは、支給開始年齢の引上げを言う昔の世代の人がいるわけですが、そういう世代の人たちに隙を与えないためにも、来年の年金改革の中で優先順位が最も高いのではないかと私は思っています。

 ということで1つ付け加えさせてください。資料2-2の25ページ、先ほど深尾先生が説明してくださったところの補足ですけれども、生産性の伸びに対して実質賃金が上がっていないというところで、GDPデフレーターとCPI上昇率の間、この部分は交易条件の悪化ですね。ほぼ。

○深尾委員 半分ぐらいが交易条件になるかと思います。

○権丈委員 この半分ぐらいがですね。これはある程度仕方がないところ、我々はなかなか動かすことができないところがあるわけで、下のほうに足を引っ張っている税・補助金とか雇用主の社会負担という社会保険料のところ、これは評価するのがなかなか難しいところがあって、この前も話しましたけれども、これが下のほうにあるからといって生産性の伸びが低くなっているという傾向があるわけでもないようなところがあると同時に、今日も国会で子育てのところの財源の話をしていますが、我々からお金を持っていって若い人たちのところにお金が回るわけですね。だから、賃金というものを見なければいけないのは年金の使命ではあると思うのですけれども、我々が生活水準とか社会のウェルフェアを考えていくというときに、消費税が上がったから賃金が下がった、だからよくないのだ、社会保険が上がったから賃金が下がった、だからよくないのだという流れ、一方というのはなかなか厳しいところがあって、所得再分配に使われているので、ある人からある人に所得が流れているというその側面ということを、このデータは年金の財政検証のデータとして読んで、ほかの全体のことを考えていく上では、税・社会保険料、そして消費税を含めたようなところは、所得再分配国家においては少し評価、見方というものを我々は注意しておかないといけないかなと思っております。

 以上です。
・・・
○権丈委員 先ほど資料2-2の25ページのところで、確かに1995年から2022年の間に日本における国民所得統計上の労働分配率というのは、95年ぐらいのときに高くて、1回下がってきますね。そしてまた上がってきてという形で、その差というものはほぼないという形で、日本の場合は労働分配率に差がないというのがあるのですけれども、どうも我々の実感として、非正規が増えてくる、低賃金層が増えてくるというと、何かぴんとこないものがあるなと思うわけですが、法人企業統計のほうの公営が入っていませんが、法人企業統計のほうを見ていくと、95年ぐらいから日本の場合は下がってきているというのがあるわけで、その辺りのところも考慮して我々は25ページを見ておく必要があるのかなというのがあります。

 だから、これだけ非正規が増えてきて、低賃金層が増えてきたときに、労働分配率が変わらずにというところは、確かに国民所得統計ではそうなるのですね。だから、それをどう解釈していけばいいかというのは我々のほうで解釈していかないと、玉木部会長代理が言ったように本当はまだ分かっていないというのがあるのかなと思っております。

 以上になります。

第13回会議(2024年3月13日)

○権丈委員 遺族年金の話をします。

 遺族年金改革の最大の障害は、私の中では、この遺族年金への関心の薄さゆえに制度を動かしてくれる政治家がいないことにあると思っています。年金部会で、遺族年金も繰り返し議題に上がるととてもよいと思っています。遺族年金を専門として研究されてきた百瀬先生たちは、2017年には、米、英、仏、独、スウェーデンで男女差が解消された1980年代から1990年代時点での各国の女性就業率と比べた場合、ほぼそれに等しい水準にまで上昇していると指摘していたのに、一向に変わろうとしないということは、みんな、分かっていると思うのです。前回も言ったように、時間軸をもって20年もかければ、不利益変更という批判をかわしながら、将来のコホートのライフスタイルに最適な制度に移行することができると思います。今回、その話に加えるとすれば、今はやりのドラマでも、先週の話題ではないのですけれども、もう最終回の話を先に決めることが大切かと思います。遺族年金の最終回では、結婚や離婚や養子縁組などのライフイベントへの選択が中立となる遺族年金をつくる。こんな制度で、人のライフイベントに影響を与えている今の状況は、腹立たしいと思います。男女が、一人一人、経済的に自立して、ジェンダー平等な遺族年金となる時代をつくる。そういう目標、理念、こういう考え方は、この問題を考えるみんなが共有できると思います。そうした公理・公準から演繹していくと、遺族年金は、ジェンダー平等、有期化、加給年金の廃止、寡婦年金の見直しは出ている。これを何年後に実現し、終えるか、先に決める。来年の年金改革をやる。そうしたバックキャスティングの視点でやってもらいたいと思います。支給開始年齢では、これは百瀬先生も言っていましたけれども、年金の改革が先行して労働市場の改革を促していったわけです。年金はそれぐらいの力があると思いますので、そう遠くない将来には、労働市場もジェンダー平等になっていなければならないということを年金のほうから発信していく。そう遠くない将来には、将来の配偶者の賃金のプラスに依存しなくても老後の生活が安心できる労働市場であるべきと、その方向に労働市場を変える力学として年金に活躍してもらいたいと思っています。遺族年金のフォーカス点については、みんな、全く同じだと思うので、ぜひしっかりと研究している百瀬先生のグループの人たちに、遺族加給年金検討チームをつくってもらって、百瀬先生は前回に寡婦年金の重要な問題も指摘されていたわけですけれども、それも含めて、数十年後になるのかな、最終回までの伏線が随所に組み込まれた日付つきの改革シナリオをつくってもらいたい。年金部会でそれを承認するというぐらいのことをしてもらいたいと思っています。もちろん賃金には男女差がないと困るというような人は反対するかもしれないけれども、さすがにそんな者はいないだろうと。所得制限の話が先ほど出てきていましたけれども、有期なのか終身なのかで所得制限に対するスタンスが変わってくるので、そこもセットにして議論してもらう。

 小野委員から共同負担の話が出てきていたけれども、共同負担規定は、小野さんと僕が考えているほうが、どうも重い意味を持ちますね。これはしっかりと踏み込んだ形で議論していったらどうかということがあります。

 もう一つ、加入期間の延長は、2000年の年金改革のとき、当初の野党案は、最大45年間の加入期間として年金額を算定することを可能とするため必要な法制上の措置を講ずるものとすると言うにとどまっていて、財源の問題には全く触れていない、無責任なものだったのですけれども、その後の与野党の協議になって、被保険者期間の延長という目標を同時に目指そう、そのために必須となる財源調達の議論を与野党で一緒に建設的にやっていこうという方向にまとめられていって、要するに、与野党の共同提案の修正案の中で、附帯決議には、45年とすることについて、基礎年金の国庫負担の増加分の財源確保策の検討を速やかに進めるという文言になっています。共産党は外れるのですけれども、それが与野党のみんなの賛成ということになっているので、この辺りのところは、野党にも念を押してもらいながら、政治の足並みをそろえてもらうことを、年金局の事務も、これから先、頑張ってもらいたいと思います。そうでないと、仕事がしづらくなる。この辺りのところで、足並みをそろえて、しっかりと基礎年金の国庫負担の増加分のことは速やかに検討を進めるということでありますので、よろしくお願いします。

 以上になります。

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