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【編集後記】 Dance for Cielo | 変わりゆくニューヨークで消えていく場所に対してできること(前編)

2021年7月17日に、YouTubeに一本の動画をアップロードしました。

"Dance for Cielo" と名付けたこのプロジェクトは、2018年に地価高騰の煽りを受けてクローズしてしまったCieloというクラブと、このクラブで長くに渡ってイベントのオーガナイズをしていたVoodoo Rayという方への追悼の意味合いを込めて作りました。


ずっとあると思っていた場所

Cieloというクラブは、2013年にミートパッキング・ディストリクトというエリアにオープンしました。

チェルシーの南、ユニオン・スクエアの西端というアクセスの良いエリアで、最近では地図の左端にある"Little Island"という新しい人工島がオープンしたりしている、観光色が強いエリアです。

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今でこそ、高級ホテルやクラブ、ブランドショップがひしめくブティックエリアになっていますが、元々このエリアはMeatpacking=肉詰めという名前の由来の通り、食肉工場地帯で、治安も悪いエリアだったようです。

ニューヨークは年々色々なエリアで再開発が進んでいて、治安を良くして経済活動を活発化して、世界一の都市としてのブランドを保つ努力を続けているように思います。

その一方で、再開発されると綺麗になって高級化(ジェントリフィケーション)が進むので、元からそこにあったローカルビジネスや、そのエリアに住んでいた地元の人達が家賃の安いエリアに撤退してしまうという側面があります。

Cieloはまさにそういったジェントリフィケーションの煽りを受けて、15年の歴史を閉じてしまったクラブです。

2018年にクラブがクローズした後も、ビルや外観はそのまま残されていたので、チェルシーに住んでいた僕はたまに散歩がてら近くを通っては外観を眺めて、昔の思い出に浸ったりしていました。

僕がCieloに通っていたのは2012年~2018年くらいで、Cieloの歴史の中では後半戦くらいしか経験していません。それでも僕にとってこのクラブは、自分がニューヨークのハウス・ミュージックにハマったきっかけになった場所であり、世界的に有名なDJであるLouie Vega(ルイ・ベガ)がホストするイベント(The Roots NYC)が毎週開催されていたり、ニューヨークのハウスダンスシーンの創世記から活躍していたダンサー/イベントオーガナイザーのRaymond "Voodoo Ray" Urtarteが主催していたイベント(Funkbox NYC)も彼が亡くなる2017年までの数年間はこのクラブで毎週行われていました。


なくなる場所に対する既視感と危機感

コロナ禍も一年が過ぎた2021年4月、Voodoo Rayの誕生日に合わせてCieloの壁面に描かれた彼の肖像画があることをインスタで知りました。

2021年の初めにブルックリンに引っ越したこともあって、ミートパッキングエリアに気軽に行くこともなくなっていたけれど、マンハッタンに行く機会に合わせて久しぶりにCieloに足を運びました。

肖像画はすごく美しくて、ニューヨークのハウスヘッズに彼がどれだけ愛されているか、そしてそれが彼の人柄だったり、コミュニティに対する貢献から来ているんだろうなと思うと、改めて尊敬の念を感じます。

そして久々に訪れるCieloはやっぱり好きなクラブだったなと、たくさんの思い出がフラッシュバックします。

そんな時に一つの異変に気づきました。Cieloのビルに内装工事が入っていたのです。

自分の知る限りではずっとクローズしたときのまま放置されていたビルだと思っていたので、コロナの状況が改善してきていよいよここもリノベされてしまうのだと強い焦燥感に駆られました。


その気持ちの原体験は10年前に訪れた5pointsでした。

2011年に初めてニューヨークに住んだ時に、クイーンズにある5pointsというグラフィティのメッカだったビルを見に行きました。

当時ヒップホップヘッズだった僕は、ヒップホップの生まれた場所であるニューヨークで、誕生から40年近く経ってもこんなに荒いままの空気が残されている場所があるんだと、今から考えても完全にニューヨークのことを勉強不足だったにしても(もちろん今も勉強し続ける日々ですが)、感動してたくさんの写真を撮ったことと、その時の衝撃が心に残っていました。

その後日本に帰国した直後の2013年に、ビルのオーナーがビルをリノベーションしてマンションに建て替えることになったと知りました。

あんなに色濃い文化が残っていた素晴らしい場所だったのに、なんで失くしてしまうんだろうと悲しさと疑問が残ったことを覚えています。

今は、以前に比べるとアメリカという国の歴史やニューヨークという街の性質に対する理解が深まっているので、なぜこういうことが起こるのか想像はできるようになりました。

アメリカという国が小さな政府であるため、行政の予算も少ないし、5pointsの保全以上にお金が必要であると誰もが思う改善点がたくさんあります。

またニューヨークという街自体、人も流行も変わり続ける場所なので、昔から住み続けている地元層(古いものを大事にしたい人たち)と、新しく移住してくる移民層(ニューヨークに期待するものが便利さと快適さである人たち)に二分されていて、移民層の方が経済的に裕福であることから、移民層の望むニューヨークに変化しやすいという要因があります。

こういう背景を考えた時に、Cieloの内装工事を見て、「ここもすぐになくなってしまうかもしれない」と焦りを感じたのでした。


後編はこちら

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