EXPG NYの閉鎖とコミュニティの在り方
ニューヨークでトイレに行きたくなったら、どこに行きますか?
ケータイのデータ使い切ってしまってネットが超遅い時、どこに行きますか?
夏のうだるような暑さの中、コーヒー買うのももったいないし、時間があってぶらぶらしている時、どこに行きますか?
マンハッタンの真ん中より少し下、そして右寄り、ちょうど2番街の2丁目(日本語の呼び方にはなかなか慣れない)の角、、、の隣のビルがEXPG NYというダンススタジオがある場所です。
EXPGという名前にピンと来る人もいるかもしれませんが、EXPGの運営母体はLDHというExileのマネジメントを始め、ストリートカルチャー全般に渡るビジネスをグローバルに手がけている企業です。
そんなEXPG NYが2021年3月末を以て、スタジオをクローズすることになりました。
なぜわざわざスタジオがクローズすることを記事にしているのかというと、EXPGはニューヨークに数あるスタジオの中でも、ストリートダンスコミュニティにとってすごく重要な場所だったと思うからです。
そんなことを考えていた思考の過程を、この記事の中で楽しんでもらえたら幸いです。
コミュニティとは何か
あなたにとって、「コミュニティ」とはどんなものですか?
人によって定義は異なるでしょうが、僕にとってコミュニティというのは、「自分と同じパッションをシェアできる人が集まれる場所」と定義しています。
ストリートダンスという僕のパッションは、物理的に同じ空間で踊り合ってシェアするネイチャーのアートなので、物理的に集まれる場所が必要不可欠です。
世の中にはオンラインコミュニティもたくさんあり、きっとダンスに関わるものもたくさんあると思いますが、僕にとってはダンスコミュニティというものはフィジカルに場の空気を共有できる必要があります。
コミュニティの主体はそこに集まる人であり、主催者でもそこに長くいる人でもありません。
つまり、自分の意志でコミュニティに参加した人が、時間の経過や経験値の向上とともに、主体的にコミュニティに参画し、自分のパッションをシェアしていくような場所、それが可能である場所が、健全なコミュニティであると考えます。
EXPGの果たしていた役割
そんなコミュニティの在り方を考えた時に、EXPG NYほどニューヨークのストリートダンスコミュニティに対して広く門戸を開いていた場所はなかったように思います。
ニューヨークのダンススタジオはたいてい雑居ビルの中階層にあり、外からではそこにスタジオがあるのかどうかもわかりません。
またお金のある立派なスタジオは通りに繋がるドアがあったりしますが、入り口に受付の人が複数人待機していて、気軽に入れるような空気ではなかったりします。
そんな中でEXPGは、良くも悪くもゆるーくゆったりした雰囲気が流れていて、中に入ってクラスを見学することもできたし、ロビーのテーブルにはいつも誰かがたむろっていて、外からロビーを覗いて友達に声をかけに行ったり。
「行けば誰か知り合いがいる」
そんな場所でした。
トイレを借りに寄ったり、Wi-Fiが使いたかったり、友達との待ち合わせをしたり、色々な理由でニューヨークのストリートダンサーが集まることができる場所がEXPGというスタジオでした。
インストラクターとレッスンを受けに来る生徒が気軽にテーブルを囲んでだべっていられる。ニューヨークのストリートダンサーと、海外からニューヨークに集まるストリートダンサーが交わる場所、コミュニティセンターとしての一つとして、果たしてきた功績はとても大きかったと思います。
今回閉まることになったEXPGというスタジオは、そういう場所だったんだなあと、これからEXPGがないニューヨークのシーンを考えた時に、「ああ、行く場所なくなったな」って思ったんです。
僕自身が見ているニューヨークのシーンなんて、その長い歴史から見ればほんの1ページにしかすぎないし、きっとニューヨーカーの多くは「まあそんなもんだよ、また別の場所ができるさ」なんて考える人が多いと思います。
それでも日本人ダンサーの一人として、ニューヨークのストリートダンスコミュニティに貢献してきたEXPGというスタジオに対して、感謝と畏敬の念を抱いています。