森元斎さん(長崎大学大学院准教授) 『国道3号線』 インタビュー・4
嫌韓意識は未だ反抗期の感情
杉本 で、最初に話した通り、反対の地図というか、地図を反転させてみたらいいと思うんですけども。先ほども大陸、半島側の話もしましたけれど、確か平成天皇が自分たちの祖先は朝鮮半島の渡来人から生まれた、みたいなことを言われたことがあったと思います。それが谷川雁さんが言うように日本は朝鮮から来た王権なんだと言う話を裏付けているような気がしたんですよ。
あと僕のセラピストの先生が、結構厄介なことを色々、言う人なので(笑)。要するに嫌韓思想の問題に対して、「あれは兄弟喧嘩。近親憎悪なんだよ」と。オモテウラの関係で、「追い出された側の人間が、その故郷へ帰れない不満をぶつけているだけだ」みたいなことを言っていて。「流石にそれは…」と僕は当時思ったんです。大概いろんな予言をその人から聞いてきましたが、その時は流石にそれは陰謀論めいているんじゃないの?と思いましたけど。でも結構今はそういうことなのかも知れないな、って。この本を読んで思ったりしました。その辺は谷川雁さんとかも読んでいたのかなあ?その人もいま70代後半に入っている訳ですけどね。谷川雁さんも、その直観はどうして持てたんでしょうね。
森 谷川さんを読んでいたかどうかはご本人に聞いてみるしかないですよね。
杉本 ははは(笑)それは僕もわからないです。最近コロナで会えてないので、直接今度聞いてみますよ。
森 でも、セラピストということで元々精神分析がご存知であれば、オィデプス・コンプレックスは完全にそうです。
杉本 ああ、そうです。そんな感じです。
森 同性の親に対する敵意と異性に対する愛。
杉本 父を憎み、母を奪いたいという。
森 それを考えると普通にそう言うのだろうな、という(笑)。
杉本 ははは(笑)。そうか。
森 それを一挙に解消している時期なのかどうか、2000年くらいから今にかけて、まだまだ反抗期なのかも(笑)。
杉本 ははははは(笑)。
森 (笑)
杉本 厄介な反抗期だなあ(笑)
森 それが解消できるときにようやく大人になるんでしょうね、という感じはします。
杉本 うん。見立てはどうですか。アメリカもちょっと大変な状況にあるんですけど、そのアメリカの厄介な状況が収拾つかなかったら、兄弟喧嘩してる場合じゃねえなという風になりますかね?
森 「それはそれ」、なんじゃないですかね(笑)。
杉本 ははは(笑)大きなことはね。森さんの勘定の中には入っていないでしょうから。ただ、議論としては「あ、なるほどね」とは思いましたね。
森 韓国とか北朝鮮の方が先に大人になりつつあるという感じがしますけどね。
杉本 北朝鮮の方にも感じますか?それは。
森 まあ日本が持ちたくて持ちたくてたまらない核を先に持っちゃいましたからね。
杉本 ははは(笑)
森 先に大人になりました。
杉本 大人って、そうなるといいものなのかどうかというのは分からないね。必ずしも子供が大人になるのも。子供も厄介だけれども、大人も変な方向になると変な大人になって。それもごく当たり前の話なのかしら。
森 どうなんでしょう。日本はしばらく子どもなんじゃないですかね。
杉本 明治以降からこのかた、やっぱり「なり切れてない」という感じはしますか?
森 革命を一度も起こしたことがないですからね。
杉本 確かに。前にお話を伺ったときに、日本は右翼革命しかないですもんね、と言われて。僕はその時は一瞬「うん?」と思ったんですけども、確かに右翼革命でしたね、戦前ってね。
森 上からの革命でしかないので。下からの、というか自分たちで自立した空間を作ろうという機運はあったとしても、それで政権を取ったりということは一度もないので。
杉本 うん、確かに。あと事実として戦前にテロが成功してるのは右翼側にいる人たちですもんね。
森 まあいつまで経っても子どもなんじゃないですかね。
杉本 (苦笑)なるほど。じゃあどうでしょうね。それはそれとして、自分たちの生活空間というか、コミューンみたいな考え方を今後も追求して行きたいと思いますか?
森 そうですね。引き続きという感じですね。今は長崎が面白い。長崎もちょっとDJしてみようかなという感じです。
杉本 (笑)。*岡野雄一さんみたいな人にお話を伺いたいですねえ。
森 岡野雄一さんには、お会いしましたよ。
杉本 どうやらお会いしたことがあるようですね。Twitterで見たことありますけど。
森 熱いおじさんでした。
杉本 いやでも、「ペコロスの母」で多少予習したんだけど、やっぱり「簡単じゃないわー」という感じです。ああいうふうに自在に母親のイメージの中に遊べたらと思いますけど、全然大変です。いやあ、本当にありがとうございました。貴重な時間をいただきまして。本当に。あと何か言い残していることとかありましたら。とにかく売れて欲しいですよね、この本は。
森 あ、重版が決まりました。
杉本 あ。(拍手)。良かった良かった。これ最初は何部くらい刷ったんですか?
森 内緒です。(笑)
杉本 でも良かったです。よかった、よかった。貴重なDJになってくれたおかげで関心が広がりました。本当にありがとうございました。
森 ありがとうございます。ではまた。
(2020.11.5 zoomにて)
*岡野雄一1950年、長崎の斜面の町に生まれ育つ。20歳で上京、小さな出版社で編集の仕事に携わる。40歳でUターン。タウン誌編集長を経て、フリーランスの漫画家、シンガーソングライターとして活動中。雑誌や会報などに掲載した漫画を集め、2009年に『ペコロスの玉手箱』を自費出版。2012年1月に自費出版した『ペコロスの母に会いに行く』が、長崎の老舗書店で2カ月間売り上げ1位を記録。その後作品の映画化、続編『ペコロスの母の玉手箱』など。現在も新聞隔週連載など、三作品を執筆中。
(インタビュー後記)
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