森元斎さん(アナキズム研究、哲学者)インタビュー・6
学費が学生を縛っている
杉本 入ってから勉強しないとしてもと言いつつ、僕らの頃より圧倒的にしてるはずなんですよね。聞いたらものすごいみんなやってるみたいなんで。母校で平日構内人が歩いてないんですから。「え~?」みたいな。休み時間しか休んでません、みたいな話を聞きますのでね。びっくりですよ。高校ですか?みたいな。僕の知ってる大学じゃないんですけど、みたいな感じです。
森 それは最初の話に戻っちゃいますけど、社会的状況がそれを許さないというか、バイトに忙しくなっちゃったり、お金がないのでやっぱり学費払わなきゃいかんとか。
杉本 まだ続いていますかね?栗原さんがよく言っている借金問題と言いますか、奨学金問題。
森 そうですね。それこそ僕も800万で。
杉本 えっ!
森 日本学生機構に800万あるので。
杉本 まだ返さなくちゃいけないですか?
森 いえいえ。もう返すつもりないですけど。もう返せないですからね。そういうのは後輩とかに沢山いると思います。僕自身も半分ダラダラはしてましたけど、やっぱりその一方でバイトばっかりの部分とかはあったので。それでないと学費も払えないし。
杉本 だからその、どちらが優先されるべきといったら、やっぱり学問ですよね?それがバイトで足取られてしまって、いつ勉強やるんだろうと思っちゃうんですけど。
森 本当にもったいないですよね。
杉本 でもアルバイトしながら研究者になられたわけですからね。エネルギッシュに頑張ってこられたんでしょうね。
森 僕ですか? いやいや。どうなんでしょう。
杉本 で。なったはいいが。申し訳ないですけど。収入がない?
森 ないです。全然ないですね。もう、ねえ~。だからそれこそ栗原さんも書いてた気がするんですけど、『学生に賃金を』とかで。要するにあのとおりで大学生たるもの、ある見方としては潜在的な労働者なんだからそこに賃金を払うべきだというのはイタリアの大学生たちが大きく果たした運動で、それで賃金はもらえなかったけれどやっぱり学費をゼロにすることができた勝利というのはすごく大事だし、だから「これだけは守らなくちゃいけない」じゃなくて、大きく言わないと(笑)。大口は叩いたほうがいい。「革命だ」と常に言っておけばいいと(笑)。
杉本 ははは(笑)。「起こすぞ」ってね。
森 そう。起こすぞ、と。ビビらせるぞと。と言っといたほうが。実はいまボクシングやっているのは「ぶん殴るぞ」と言っておかないとダメだと(笑)。別に全然舐められてもいいんですけど、そこは重要な気はしますね。「革命だ!!」ぐらいは言っておかないと勝てないでしょうと。「最低賃金1500円にしろ」という運動があるじゃないですか。*エキタスですか?「低いじゃん、それでも」と思うんですよね。1500円なんてもうそれで最低賃金だったら低いよと。
杉本 私、810円(苦笑)。札幌、最低賃金810円なんですよ。
森 福岡、もっと低いですよ。
杉本 あ!本当ですか?
森 790円とか。
杉本 え?ウソ。
森 800円以内くらいじゃないですか。
杉本 ああ~。札幌のほうが少し高くなっているのか、いま。
森 まあ要はだって、スイスとかは最低賃金2500円とかですからね。
杉本 僕みたいに清掃の仕事やってても2500円もらえるんですかね?
森 そうです。最低賃金が2500円なので。例えばマクドナルド新宿店で働いたらたぶん時給はいくら1000なんぼかですよね。しかもあんなに忙しくないわけですよ。スイスのほうがもっとゆったりしてるから(笑)。
杉本 東京は場所が場所だけに、ものすごい忙しさですよねえ。人がひっきりなしで。
森 最低賃金1500円じゃ低いだろうとかすごい思うんですよ。だったらもっと最低賃金1万円を要求して、部分的に勝ちに行けばいいんじゃないかなと(笑)。1500円だと現実的すぎるんですよね。
杉本 バカみたいにいろんな人間、腹立つ奴もいるのに、ニッコリ笑ってこれだけ愛想ふりまいているんだったら、本当にカネ出せよ、って。なんでこんなにコンビニ賃金安いの?って思いますもん。最低賃金並みじゃないですか。いまは公共料金まで全部やりはじめちゃって。
森 うん。1500円というのがおそらく現実的に暮らせる額なんでしょうけれども、真面目に試算なんかしてどうするのと。それ以上の額を言わないとそれ以下になるので。絶対に。
他人が喜ぶのを見てうれしいアナキズム
杉本 あ、でもそれは政治学というか、アナキストとしてはやっぱりキチンと伝えたほうがいいですね。これがリアルというものだと。
森 そう。だから大口を叩け!と(笑)。僕だって、みんなに困ったらウチおいでといってますが、全員来たらもちろん困るわけですよ。
杉本 (笑)。
森 でも困るけど、でもそれは言っとかないと。その人に死なれたくないから。だから自殺するくらいならウチ来れば?となりますよ。それは絶対に。
杉本 それはそうですね。
森 仮に来なかったとしても、「ああ、福岡まで行けば何とか」と思ってくれるだけで僕はそれでいいんです。だから大口は叩きますよ。
杉本 おお。じゃあ私もいずれ。
森 ああ、ぜひぜひ。
杉本 まあ何とか私も。とはいえ、逆に私のほうが解放しなきゃね。お袋がいなくなっちゃったら。寂しいので。
森 だから「いつでもおいで」といえる環境をみんなで作ることが重要なんじゃないでしょうか。
杉本 ねえ~。余裕のある人はそれやらないと人生がちょっと後ろめたいですよね。
森 うん。でも僕なんか全然余裕がないんですけど(笑)。「や・る・ぞ!」と(笑)。
杉本 (笑)すごい。
森 すごくないですよ。言っちゃえば口だけなんですけど。その口だけでも言うことによって人を救いうるかもしれない。まあ来たら来たで自分だって何とかするし。
杉本 相互扶助を越えてませんか?(笑)。何か社会福祉のメンタリティまでに(笑)。
森 いいんじゃないですかね。
杉本 他人が喜んでいるのを見るのがうれしいアナキズムというのもあるでしょうしね。
森 そうですね。あとまあ、まあ何だかんだ言ってもだいたい大人なんだから、まあ自分で活路見出すんじゃないの?と思うんですよね。
杉本 いやあでも。本当のひきこもりというか、身を出さない人が住まっちゃったらどうします?
森 いやあそれはそれでいいですよ(笑)。
杉本 (笑)ははは。そうですか。メシだけはちゃんと食べに来る。そしてまた引っ込んじゃうとかね。
森 それはそれでいいです。
杉本 うん。いやでも。実際はそういう人はね……。
森 そうですね。だから、来れるだけでも一歩前進だと思います。
杉本 そうだと思います。うん、なるほどなあ。でも昔はね。戦前というか、明治あるいは昭和初期くらいまでいたのかなあ。「書生」とかね。幸徳秋水だって中江兆民の書生やってたりしてたわけだから。そういう文化がね。無くなっちゃったですよね。
森 そうそう。僕もね。厳密な意味では書生ではないですけど。数年間、*酒井隆史さんという学者がいて数年間彼の家に住んでたりとかしてました。
杉本 あ、されてたんですか。
森 はい。それこそちょっと前まで村澤さんのお兄さん(村澤真保呂さん)の所に毎週お世話になってたりとかしてました。何か別にけっこう簡単にできるかな?という気もします(笑)。もちろん入って行く方法にせよ、受け入れかたにせよ、いろいろあると思うんですけど、それ相応に人それぞれあるんじゃないかなという気はしてます。何か一緒に居るんだったら一緒に何かやるよと言ってくれるんだったらいつでも受け入れますよ、みたいなものってありますね。塾をやりたいとか、何かそういう人いないかな?とか思いながら。フリースクール作りたいなという気持ちもあります。
杉本 ねえ。これくらいのスペースがあれば。
森 そこの納屋とかちょっと改造して。
杉本 納屋もあるんですね。
森 2階2部屋あるんで。一応この棟も2部屋上にあって、よく人が泊まりに来てます。
杉本 全部で何部屋くらいあるんですか?
森 厳密に言えば9部屋ですけど、何部屋か大家さんの荷物がつっこんであったりするので使えない部屋もあります。
杉本 台風とか、やっぱり通過したりしますか?
森 もちろんします。だからここから雨漏りとかもしますし、けっこう問題はいろいろありますけど、いちおう雨風はしのげるので。
杉本 昔のね。昭和40年代くらいの僕が子どもだった頃ってこんな感じの家だったんですよね。