栗原康さん(アナキズム研究)✖️勝山実さん(ひきこもり名人)対談・3
一遍上人聖絵
(ここで栗原さんのパートナーさんが登場。しばらく勝山さんが発行している、Zine(ミニコミ誌)の豆本、『LOVE 寂聴』の話で盛り上がる)
栗原:勝山さんに会いたいと言ってたので。ぜひとも、と。
勝山:光栄です。
栗原:ぼくが勝山さんの名前を出したわけじゃなくて、かの女が*模索舎でたまたま『LOVE 寂聴』を買ってきて、“こんな面白いのあったー”と言って、ゲラゲラ笑いながら帰ってきたんですよ。うおお、勝山さんじゃん、って。
勝山:すごい偶然ですね(笑)。
ーーかなりパートナーさんも筋金が入っているひとのようですね。
勝山:あの豆本に反応するのは相当ですよね。そもそも模索舎に普通行かないですよ。勇気がなくてあの店には入れない人も多いですからね。
ーーお付き合い始めた当初からだいぶディープな話ができる人だったんですか?
栗原:元々、出会ったきっかけが*『山谷 やられたらやり返せ』という山谷の映画の上映会で。
ーーその上映会で栗原さんがしゃべったんでしたっけ?
栗原:はい。そこにたまたま彼女が来てくれて。ある意味、初めからディープなんですよ。
ーー(笑)そうですね。自主上映会に来てくれること自体が珍しいですね。ひとりで来られてたんですか?
栗原:ひとりで来てました。
勝山:すごいですね。
栗原:それに当時、彼女が住んでいたのが藤沢で、一遍の時宗は藤沢が本拠地なんですよね。
勝山:*「遊行寺」ですよね。
栗原:はい。ちょうどその年に『一遍聖絵(ひじりえ)』が本邦初で全編公開されていて。
勝山:やってましたねえ。
ーーもしかしてそれは、勝山さんが観に行ったものではないですか?
勝山:私も行きました。全部見られるのを、シリーズでやってたんですよ。
ーーそれはすごい。
栗原:三箇所に分けて。
勝山:場所も分けるし、期間によって展示物も入れ替えるので、全部見るには何回も行かないといけない。こちらの信仰心が試されているんです(笑)。そんなに簡単には見せないぞと。
ーー国宝でしょう? 日頃見れないですよね?
勝山:全部は見られないんじゃないかな。
栗原:一部だけです。ふだんはいろんな場所に保管されているみたいですね。
ーー聖絵展を観たあとに出した感じですか?『死してなお踊れー一遍上人伝』は。
栗原:そうですね。書いたのは観たあとです。
ーー確かその前から一遍を書きたいとは思ってたんですよね?
栗原:ちょうど震災の頃からですね。
ーーあ、そうでしたか。元々は一遍が感銘した、何という人でしたか……?
栗原:空也上人ですか。若いころから、*六波羅蜜寺にある空也上人像がめちゃくちゃ好きで。一遍にも関心はあったのですが。
ーー引っ張られちゃうわけですね。
栗原:でも真剣に読みはじめたのは3・11以降です。放射能がバアーっと来たときに、ぼくは愛知の友人をたよって逃げたんですけど、そのときなぜかポッケに入れていたのが岩波文庫の『一遍聖絵』。いま思うとなにかスピリチュアルなものもあったんでしょうね。「よーし、世界が終わったぞ」みたいな。
原発の爆発と逃走の思想
ーーそこは北海道に住んでると実感としてわからなかったんです。栗原さんの本を読んで、数日後には地元を逃げるという実感は本当に同じ日本に住んでいても「そうだったんだ」くらいな感じで(苦笑)。なかなかピンとこないところが正直ありましたね。
栗原:勝山さんは原発のころって、どんな感じだったんですか?
勝山:私はね、チェルノブイリの原発事故以来、原発にはすごい関心があったんです。だから、あの時に栗原さんみたいに「逃げる」人。考えることと、行動が一致するという人は、やっぱり偉いなと思いましたよ。私も「逃げなきゃ、嘘だろう」、まともな知識があって、普通の判断力があれば逃げる一手だと思いながら、ずっと家にいたんです。何か逃げるのは大変そうだな、っていうことでね。だから思想に反して、行動を起こさなくていいんだという理由探しをして、適当に落ち着いちゃうんです。1週間でも関西に逃げたほうがよかったのに。常日頃考えている思想を、まったく行動には移せなかったですねえ。
ーーまあ、ひきこもり名人ですからね。
勝山:言うだけ番長を、貫き通した感じなんですけど。
栗原:ある意味、勝山さんの「やるべきことをやった」ということですね。
(一同笑い)
勝山:あのときちょっとでも西の方へ逃げた人はリスペクトしますね。
(後編に続く)
2021.2.25 zoomにて
*模索舎ー ミニコミ(自主流通出版)・少流通出版物の取り扱いをしている東京都新宿区の書店。模索舎ホームページはこちら
*『山谷 やられたらやり返せ』ー1985年に発表された日本のドキュメンタリー映画。佐藤満夫、山岡強一共同監督。また山岡の遺稿集の書名。日雇い労働者達の過酷な労働と生活で知られる東京都の下町・山谷を舞台にしたドキュメンタリー作品で、彼らの生活の実態や闘争を描いている。また、釜ヶ崎など他地域のドヤ街の生活も描かれており、労働者(労務者)を描いた作品としては他に類を見ないリアルな作品となっている。(Wikipediaより)
*遊行寺ー正式な名称は清浄光寺(しょうじょうこうじ)。神奈川県藤沢市にある時宗総本山の寺院。通称の遊行寺でよく知られる。藤沢道場ともいう。
*六波羅蜜寺ー六波羅蜜寺 (ろくはらみつじ)は、京都府京都市東山区にある真言宗智山派の寺院。踊り念仏で知られる市聖(いちのひじり)空也(くうや)上人が平安時代中期の天暦5年(951年)に造立した。
栗原 康 (クリハラ ヤスシ) 1979年生まれ。作家、政治学者、大学非常勤講師(専門:アナキズム研究)。早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程満期退学。『大杉栄ー永遠のアナキズム』(夜行社)、『はたらかないで、たらふく食べたい』(タバブックス)、『執念深い貧乏性』(文藝春秋)、『村に火をつけ、白痴になれ』(岩波書店)『アナキズム』(岩波新書)など著書多数。
勝山 実(カツヤマ ミノル)1971年生まれ。毎日が屋内退避の超安全エコ生活の極意を求め、ひきこもり人生をまっとうする。著書に『ひきこもりカレンダー』(文春ネスコ 2001)『安心ひきこもりライフ』(太田出版 2011)『バラ色のひきこもり』(金曜日Kindle版:2017)