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『John B. Sebastian 』★★★★☆(4.0)-音楽購入履歴#10
Title: John B. Sebastian(1970)
Artist:John Sebastian
Day:2024/2/3
Shop:General Record Store shimokitazawa
Rating:★★★★☆(4.0)
グッドタイムミュージック、西海岸へ
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Lovin' Spoonfulというバンドは早すぎたアメリカンルーツロックともいえるバンドで、ブルースやカントリーやジャズ等のアメリカ音楽を混ぜ合わせ都会的なサウンドを構築した。
Lovin' Spoonfulが独特だったのは、ルーツ音楽の中でも特に20年代のジャグバンドやラグタイムを蘇らせたところにあって、その楽しげで心地よいサウンドは「グッドタイムミュージック」として親しまれることになった。
ジャグバンドとラグタイムは「スキッフル」や「トラッドジャズ」という呼称で50年代にイギリスでリバイバル流行していて
60年代イギリスに登場するロック第一世代、ビートルズやストーンズ、キンクスやThe Whoらはみんな青春時代にその辺を通過し、みんなスキッフルからバンドを始めていたり。
そうしてイギリスでブリティッシュビートが誕生し、それがアメリカに侵攻した影響でラヴィンスプーンフルは結成されるわけだけど、そんなラヴィンスプーンフルが大切にしたのが20年代のジャグバンドやラグタイムだったわけで。巡り巡るのです。
スキッフルをそのまま突き進めたのがキンクスだと僕は思ってるんだけど、
ビートルズなんかは1stを聴いてみても影響は50年代後半のR&Rと60年代頭のR&B、つまりはもっと近々のアメリカ流行音楽だったりする。
そんなビートルズが、特にポールマッカートニーが66年ごろから〝Good Day Sunshine〟や〝When I'm Sixty-Four〟や〝ハニーパイ〟といったトラッドジャズ的な曲を書きだしたのはラヴィンスプーンフルの影響が大きいだろう(〝Good Day Sunshine〟は〝Daydream〟のような曲を書こうとしてできたことをポールが公言している)。
ビートルズの例を含めてラヴィンスプーンフルは大きな影響力を持ったバンドであったが、60年代末にドラッグ系のスキャンダルで失速し解散してしまう。
60年代末なんて、ドラッグなんて当たり前も当たり前だったんだけど、ラヴィンスプーンフルは品性更生が売りというか、健全なことも込みで都会的でグッドタイムミュージックというか、
何にしてもドラッグと深く結びついていた西海岸のロックシーンとは一線を引いて、ニューヨークのグッドタイムミュージックなラヴィンスプーンフルは存在していたのです(あくまでリスナー達の認識として)。
だから少しのスキャンダルが大打撃になったとか。
ルーツロックは68年ザ・バンドのデビューによって世界的ブームになるが、その68年にLovin' Spoonfulは事実上解散し、ジョンセバスチャンは大都会ニューヨークから西海岸へ。
音楽的にはジョンセバスチャンならではの東海岸グッドタイムミュージックでありながら、西海岸のドラッギーでヒッピーな空気感を持っている、そんな東西ハイブリッド感をこのジョンセバスチャン1stソロアルバムに見ることができるわけです。
↓ラヴィンスプーンフルに関しては過去書いたブログ貼っときます↓
SSWブームの先駆けになるはずだった
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ジョンセバスチャンはラヴィンスプーンフルを抜けた後、すぐにソロ用の曲を書き溜めてレコーディングを開始。
プロデュースしたのはPaul A. Rothchild。
主にドアーズのプロデューサーとして知られる西海岸の重要プロデューサー。
ジャニスジョプリンの遺作『Pearl』のプロデュースも彼の有名な仕事の一つ。個人的にはLoveの『Da Capo』が彼の最高の仕事だと思っている。
ジョンセバスチャンはラヴィンスプーンフルを結成する前にエレクトラレコードのセッションミュージシャンとして仕事をしていたことがあって、ロスチャイルドとはそこで知り合った仲であるとか。
ロスチャイルドはローレルキャニオンの住人で、そこに住む精霊達とも交流があったようで。
(↓ローレルキャニオンについての過去ブログ↓)
68年、クロスビー、スティルス&ナッシュ(CS&N)結成のごくごく初期段階にロスチャイルドとジョンセバスチャンは関わっていて、
デイヴィッドクロスビーとスティーブンスティルス、そしてジョンセバスチャンの3人でのデモをロスチャイルドがレコーディングしたとか(結果的にジョンセバスチャンがグラハムナッシュに置き換わり、CS&N及びCSN&Yは天下を取ることになる)。
ジョンセバスチャンはスーパーグループへの参加を蹴ってソロアルバムへの道を選び、そのアルバムにクロスビーとスティルスとナッシュが参加した、という形になったわけだ。
ここで重要なのがCS&Nの始動よりも、ジョンセバスチャンのソロアルバムのレコーディングが早かったことで。
結果的に『John B. Sebastian』は70年にリリースされるわけだけど、実は68年秋の段階でレコーディングが終わっていたとか。
これがこの度初めて知ったことなんだけど、そうなると色々とこのアルバムの凄みが増すというかなんというか。
68年の末はロックの潮流の変換期で、サイケデリック時代からルーツロックやSSW時代に移ろうとしているところだった。
それはフラワームーブメントやサイケが頭打ちになりはじめたことや、何よりザ・バンドとジョニミッチェルの登場が大きいとされている。
フラワームーブメント下ではどのバンドもサイケにのめり込んでいったわけで、Byrds、バッファロースプリングフィールド、英ホリーズも例に漏れず最高のサイケデリアを展開した。
そんなバンドで活躍していたクロスビー、スティルス、ナッシュがそれぞれがグループを辞めてフォークカントリーなハーモニーグループCS&Nを結成した。
当時の流行の最先端だった西海岸の音楽スタイルの変化をもっとも顕著に表しているのがこのCS&Nというスーパーグループの結成で
この後70年ごろにニールヤングを含めた各メンバーのソロ活動や、ジャクソンブラウン、キャロルキング、ジェームステイラーらが続々と登場し西海岸SSWブームへと至るわけで。
で、このジョンセバスチャンの1stは70年にリリースされたので、そんなSSWブームの一端のように僕は思っていたんだけど、CS&Nより前にレコーディングが完了していたとなると少し話が違ってくる。
デイヴィッドクロスビーは
「ジョニミッチェルが西海岸に移り住んで全てが変わった」
と言うが(ジョニの1stは68年3月)
本来ならそれに続くSSWブームの先駆けとしてジョンセバスチャンの1stは語られてもおかしくなかったはずだったのよね。
何故70年までリリースが遅れたか、というのは権利的な問題というかレーベル間のいざござがあったりしたからのようで。
ラヴィンスプーンフルはカーマスートラというレーベルから全ての作品をリリースしていて。
そのカーマスートラの上には配給元のMGMレコードがいて。
一応ぎりぎり68年末にカーマスートラからソロ1stシングルとして〝She's a Lady〟をリリースしたあと、カーマスートラとMGMの関係が破綻。それなのにMGMがジョンセバスチャンに契約の残りを迫ったり、そんなことに巻き込まれたようで。
ジョンセバスチャン脱退後にラヴィンスプーンフルはドラムのジョーバトラーをリーダーに『革命』というアルバムを1枚残している。
これまた素晴らしいソフトロックなんだけど、そもそもはジョーバトラーのソロアルバムとして制作されたようで。でもレーベルの要望でラヴィンスプーンフル名義で発売されたとか。
同じようにジョンセバスチャンのソロもMGMはラヴィンスプーンフル名義で出すように要求してきたそうで、それを突っぱねて、
Repriseと新たに契約、そんなこんなしてたら1970年になってしまった、ということらしい。
しかもMGMはテープを受け取っていたので、勝手にアルバムをリリース。
すぐにRepriseが訴えて回収されたものの、この1stは少なからずMGM盤がジャケット違いで存在しているみたい。
さらにさらにその裁判の決着がつく前にMGMは勝手にライブ盤までリリース。もうめちゃくちゃ。笑
結局裁判に勝ったのでこのMGMの2枚は回収され、71年に改めてRepriseがライブ盤を正式にリリースしたとな。そのタイトルが『Real Live』で、「Real」と冠している部分にRepriseとジョンの憤りを感じますな。
そんなこんなでジョンセバスチャンのソロ活動はかなり最悪のスタートとなったわけで、かわいそうに。
そうはいってもこの1stはビルボードチャート20位まで上がってるんだけど、ほんとはもっと売れてたのかも。
ウッドストックフェスティバルに飛び入り参加
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そんなわけでレコーディング終了からアルバムリリースまでに空白が1年半ほどあって、
その期間の69年8月、ジョンセバスチャンは「ウッドストックフェスティバル」に観客の1人として参加。
サンタナの出番前に大雨が降り、ステージの水捌けに時間がかかってる間にジョンセバスチャンがギター片手に飛び入りで歌うことに。
タイダイを身にまとい、誰がどうみてもドラッグでハイになりまくってる姿は当フェスが「ヒッピーの祭典」であることを強調するものとなった。
このウッドストックでのステージ写真がアルバムのジャケットや内ジャケに使われることとなる。
どーなんだろーな、このウッドストック飛び入りがあって、アルバムが翌70年にリリースされたから20位までのぼったのか、
それともちゃんと68年冬か、69年頭にリリースされてたらもっと売れてたのか、
ってかちゃんとリリースされてたら正式にウッドストックからオファーきてたのか、
たらればを言っても仕方ないか。
まぁなんにしてもこのジョンセバスチャンの飛び入りはウッドストックを象徴する一幕となった。
もちろんその後のサンタナのパフォーマンスも。
アルバム概要
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サブスク等で何度か聴いていたが、個人的にはラヴィンスプーンフルの方が好きだったのでそこまで聴き込めてなかった1枚。
下北のセレクトショップ的レコード屋で見かけたのでLPで購入してみた。なんかざらざらした分厚めの紙で気に入ったのよね。
アルバムの基本的な参加メンバーはベースがハーヴィーブルックス、ドラムがダラステイラー、アレンジと鍵盤がポールハリス。
そしてクロスビーとスティルスとナッシュ。
ハーヴィーブルックスはディランの『追憶のハイウェイ61』にも参加し、そこで出会ったマイクブルームフィールドとエレクトリックフラッグを結成し、それからアルクーパーのスーパーセッションやらドアーズやマイルスディヴィスなんかでもベースを弾いた伝説的セッションミュージシャン。
このジョンセバスチャンのレコーディングの直前にキャスエリオットのソロ1stのレコーディングがあって、そこに参加してたのがハーヴェーブルックス、ダラステイラー、ポールハリス、そしてスティーブンスティルス、ジョンセバスチャン。
スティーブンスティルスはそこでハーヴェーブルックス、ダラステイラー、ポールハリスの3人をCS&Nのバンドメンバーに誘ったようだが、結局ダラステイラーのみが参加することになって、
でもポールハリスは後にダラステイラーと共にマナサスに参加してるし
ハーヴィーブルックスはスティルスとスーパーセッションで共演済みだし、
まぁとにかくキャスエリオット1st、ジョンセバスチャン1st、CS&Nの1stのレコーディングセッションが同じ時期に立て続けに同じ場所で同じようなメンバーで行われてたってことみたい。
そんなことでめちゃくちゃ西海岸ど真ん中のアルバムと言えるのよねん。
A-1.Red-Eye Express
ラヴィンスプーンフル時代と同じ方向性の音楽なんだけど、雰囲気は西海岸ヒッピーでドラッギー、この1stをよく表す1曲目。
ラヴィンスプーンフルをドラッギーにしたのがザ・バンドだと思ってたので、このアルバムは個人的に結構ザ・バンド的だと思っている。
A-2.She's A Lady
ちゃんと68年に1stシングルとしてリリースされた曲。
クロスビーとスティルスがギターで参加してて、幻のクロスビー、スティルス&セバスチャンともいえる。
短い曲だけど名フォークソング。少しばかりのサイケデリア。
A-3.What She Thinks About
アルバム中もっともロックでハードな曲。
中盤のパートでグラハムナッシュがコーラスで参加。そのパートがめっちゃかっこいいのよ。
A-4.Magical Connection
ビブラフォンが美しく響く不気味な曲。
南米的なコード感とリズムなんだろうけど、よくわからない、不思議。ラヴィンスプーンフルでは絶対書かなかった曲だろうな。
A-5.You're A Big Boy Now
打って変わってめちゃくちゃラヴィンスプーンフルな一曲。それもそのはずラヴィンスプーンフル時代の曲のセルフカバーらしい(サントラなので聴いたことなかった)。
ところでこのタイトルはどうしてもディランの〝You're A Big Girl Now(1975血の轍)〟を思うんだけど、ディランはこの曲からとったとかはないのかな。
B-3.The Room Nobody Lives In
キャスエリオット1stに提供した曲のセルフカバー。
B-4.Fa-Fana-Fa
ジョンセバスチャンお得意のジャグバンド的インスト曲。これがめっちゃいい。
もはやトイミュージック。
B-5.I Had A Dream
ジャグバンド、ラグタイムをやるのがラヴィンスプーンフルでジョンセバスチャンなわけだけど、ここではブロードウェイ的な曲もB面ラストに披露。9.The Room Nobody Lives Inもそうだけど。
とにかく20年代が好きなんだなこの人。
でもこっちもやれてRepriseなんだったらレニーワロンカープロデュースでランディニューマンとかヴァンダイクパークスとかと絡むジョンセバスチャンも聴いてみたかったぜ。
いやいいアルバムです。過小評価アルバムの筆頭なんじゃないかと思う。
68年秋にレコーディングが完了してたという時代的考慮も込みで★★★★☆(4.0)です。
レジェンドなのにレジェンドになれなかった感があるよねジョンセバスチャンって。
ロジャーマッギンとかもそうだけど、才能は他のレジェンドと大差ないのにな。
他のジョンセバアルバムも聴いていこうと思います〜