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『September Song』★★★★☆(4.2)音楽購入履歴#6

Title: September Song(2000)
Artist: Pascal Comelade(with Robert Wyatt)
Day:2024/2/3
Shop:disk union shimokitazawa
Rating:★★★★☆(4.2)

1番の儲けもん

September Song(2000)/Pascal Comelade(with Robert Wyatt)

2月3日に買った11枚のアルバムで1番「儲けもん」だったのがこれ。
というのもこれ以外は少なからず一度は聴いたことのあるアルバムで、まぁ良いだろうアルバムは当たり前に良くて、それほどでもないだろうアルバムはやっぱりそーよな、ってもんで。

パスカルコムラードは知っていたがこのアルバムに関しては全く聴いたことも見たこともなく、そもそも僕は実験音楽界隈はさっぱりなので(パスカルコムラードはトイポップの先駆者として知られるフランスの音楽家)。

大抵のレコード屋はジャンル別で陳列されてるわけだけど、パスカルコムラードはおそらくは「実験音楽」か「現代音楽」か「前衛音楽」か、もしかしたら「クラシック」か、そこら辺にあるんだろう。「フレンチポップ」にあったりもしたりするのだろうか。

まぁ何にしても僕がレコード屋で物色するのは「ロック/ポップ」なわけで、ディスクユニオンはもう少し細分化されていて「パンク/ガレージ」だったり「HR/HM」だったり「R&R/カントリー」だったりがあるんだけどその辺は無視してあとは「プログレッシブロック」のコーナーに足を運ぶくらいで。
この2月3日の下北ディスクユニオンもそんな感じで「ロック/ポップ」見てから「プログレッシブロック」に向かって。そしたらそこにこのパスカルコムラードの『September Song』があったんです。

「あれ、パスカルコムラードやん、なんでプログレコーナーにあるん」

と疑問を抱きながら手に取った瞬間に理由は判明。

「え、ロバートワイアットとやってるやん、変な組み合わせ。ほんで安いな、買ってみよ」

ロバートワイアットをゲストに迎えてたおかげでプログレコーナーに陳列され、それで出会えて、聴いたらめっちゃ良くて、これはこれは儲けもんでございましたというお話。

僕とパスカルコムラード

パスカルコムラード

パスカルコムラードの存在は僕の中に強烈にインパクトを残していて、多少なりとも音楽観を変えられたところはあって。にもかかわらず1枚もアルバムをちゃんと聴いたことがない、という僕にとって特殊なミュージシャンで。

記憶が正しければ僕がパスカルコムラードを知ったのは音楽仲間であり親友である“藁ちゃん”に「おもろいやつ見つけたで」と教えてもらったからで。
その時教えてもらったアルバムは今となってはなんだったのか思い出せない(青っぽいジャケだったことくらいしか)が、とにかくそれは10年ほど前(は言い過ぎか、でもサブスクがなかったはずなのでそれくらい前か)で。

教えてもらってYouTubeで検索をかけ、聴いたそのアルバムはもちろんよかったが、それよりも検索欄に並んでいたパスカルコムラードのライブ映像に僕は衝撃を受けることになって。それ以来何度もその映像を観ては唸ってきた10年。

特に衝撃的だったのが〝Russian Roulette〟〝I Can't Control Myself〟の2曲のライブ映像。

ちょっと『September Song』の前にこの2曲のライブ映像から紹介させてください。
動画のアップロード日が16年前なので、2007年とかその辺りの公演かと思うのですが正確にはわかりません。場所はスペインのバルトリーナ劇場みたいですが、この劇場がまたロイヤルで立派で、そこでトイミュージックをやってるギャップもいいんです。

ピアノがパスカルコムラード。
どうですかこのグルーヴ、ピッチのズレたスライドミニギターの轟音。
そしてやっぱり目を引くのはストローをハサミで切りながらトロンボーンのように吹いたり、シェイカー振りながらピコピコハンマーを叩くPep Pascualという男。実験音楽としてとかトイミュージックがどうとかではなく、シンプルに音楽の常識みたいなものを結構彼に崩されたんです。
この曲はポストパンクバンド「The Lords of the New Church」の曲のカバーらしい(今知った)。

もう一曲はイギリスの元祖ガレージで知られるトロッグスのカバー。なんかやっぱパンクって実験音楽と繋がってるんだなーって思わされることたびたびあるんですよね。
今度はパスカルがミニギター、さっきミニギター弾いてた人がミニエレキ、アコギ弾いてた人がドラム。こういう楽器の持ち替えとかも10年前見た時は影響受けましたね。この2本の動画から当時結構音楽観ぶち壊されてるんです。
ほんでやっぱりPep Pascualの風船笛ですよ。正直もうこいつのバンドやん、って感じなんですけど。真剣にやってるのがやっぱクールですよねー。いやー何度見ても楽しい動画。

このバルトリーナ劇場でのライブはソフト化したのかTVかなんかで放映されたのかよくわからないけどフル動画もあがっていたのでそちらも貼っときます(僕も時間ある時に観ます)!

(このサムネもやっぱpepやん)

トイポップのパイオニア

そんなことで僕にとってのパスカルコムラードはずっと奇天烈なトイミュージックを演る人だったわけです。実験的で可愛くてヘンテコな。

ロバートワイアットソフトマシーンを脱退した後にマッチングモールってバンドをやっていて、そのバンドでもそうだけど、特にソロになってから実験音楽に接近した音楽をやっていく。

それなのにこの2人のコラボが意外だと感じたのはやっぱりパスカルコムラードがガラクタ的でミニマルなトイミュージックをやる人って印象しかなかったことに他ならない。
ロバートワイアットはどちらかというとアンビエント的なニュアンスで心象風景を表現するタイプだからブライアンイーノ的な(といってもワイアットだってロックボトムくらいしか聴いてないんだけど)。

それでこの『September Song』を聴いたところ、もちろんトイミュージック的な要素は多々あるが奇天烈奇天烈してるわけでもなく、室内楽的な美しい面を多く見せられたわけで。
蓋を開けてみればワイアットとのコラボは冒頭タイトル曲一曲だけだったんだけど、2人の邂逅が全く意外なものではないことを知ったわけ。

ここからはWikipedia情報になるけど、パスカルコムラードは75年に1枚目のアルバムを発表してから現在まで80枚以上のアルバムを作ってるみたい(化け物やん)。
2000年リリースの『September Song』は40何枚目かのアルバムになるみたいだし、僕が愛聴してる動画は2007年とかのものだろうし、僕は本当にパスカルコムラードのほんのほんの一面しか見れてないんだろう。75年のデビュー作は電子音楽系であるらしいし。

まぁとにかく実験音楽家として様々なアプローチで音楽を追求してる人なんだろうけど、「トイポップ」のパイオニアとして評価されてるようなのでトイミュージックの割合が大きいのは間違いなさそう。「アヴァンポップ(前衛ポップ)」というジャンルにも含まれてるみたい(ほんとにこの辺は無知)。
なんにしても80数枚あるアルバムのもういくつかはこの先聴かなければ!とは思います。

ちょっとこの機会にフランスのトイポップ界隈とやらをいくつか探ってみたのですが中でもPascal Ayerbeってミュージシャンがビビッと来ましたですね。2001年デビューでトイポップの新星的な感じみたいです。同じパスカルでややこしいですがコムラードよりもよりトイトイしてて、子供の音楽感増し増しって感じです。要チェック!

ペラ紙ライナーノーツが広げてくれる世界

ペラ紙ライナーノーツ

ライナーノーツはペラ紙1枚。
パスカルコムラードが日本に来た話と、あと主にクルト・ヴァイルの話。

このアルバムのタイトル曲でありロバートワイアットとコラボレーションした〝September Song〟がクルトヴァイルの楽曲のカバーである。
恥ずかしながらクルトヴァイルという音楽家を知らなかったが、1900年に生まれて1950年に死んだドイツの作曲家であるよう。
ドイツではオペラの作曲家として活躍したようで『三文オペラ』が代表作だとか。

ユダヤ人だったクルトヴァイルはナチスによるホロコーストが始まる1933年にドイツから亡命、パリを経由してニューヨークに渡り、ニューヨークでは音楽性を変化させブロードウェイミュージカルの作曲家になったそうな。ガーシュインとかその辺と同じアメリカポピュラー音楽の最初期を支えた作曲家ってわけですな。

クルトヴァイルに影響を受けたミュージシャンは数多いみたいで、85年にリリースされたトリビュートアルバム『Lost in the Stars: The Music of Kurt Weill』ではスティングやマリアンヌフェイスフル、ヴァンダイクパークス、トムウェイツ、トッドラングレンにルーリードも参加している(ちなみにこのトリビュートアルバムで〝September Song〟を歌ってるのはルーリードだ)。

クルトヴァイルを知るにはこのトリビュートアルバムが優しそう。ってことで聴いてたんだけど、なんか聴いたことある曲やなーってタイトル見たら〝Alabama Song〟で、ドアーズの〝Alabama Song〟もクルトヴァイルのカバーなのね。
それでもう少し調べたらアラバマソングは1930年のオペラ『Rise and Fall of the City of Mahagonny(マハゴニー市の滅亡)』で歌われた楽曲であるようで、デヴィッドボウイもアラバマソングカバーしてるみたいで、ほんならボウイの『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars(ジギースターダスト)』のRise and Fallは絶対そのオペラから来てるやん、とか。

まぁなんにせよクルトヴァイルは偉大な音楽家なのね。ペラ紙ライナーノーツ1枚で、僕の世界は広がりました、ありがとう。

アメリカンスタンダードに触れていきたいと思う瞬間が最近多すぎるので、ゆるりと足を踏み入れていこうと思います。

アルバム概要

内ジャケと帯

アルバムは19分半全7曲と非常にあっさりとした内容。EPなのなも、正しくは。でも満足度は高いです。
クレジットでは鍵盤楽器に加えてギター、ウクレレ等の弦楽器やドラムやパーカスなんかもほとんどパスカルコムラードがやってるみたい。
全体的に左手パートを普通のピアノで弾いて、右手パートをトイピアノで弾いてる感じなのかな。一概には言えんけど、それが特徴的で面白いかと。
ほんでこの7曲全部カバー曲で、動画で観てた2曲もカバー曲やし、パスカルコムラードって自作しない人なのかしら?そんなことないよな。まぁおいおい聴いてゆきます。

1. September Song

クルトヴァイルのアメリカンスタンダードをロバートワイアットをボーカルに迎えて。
ソフトマシーンでもマッチングモールでもロバートワイアットの声って消え入りそうな儚さが特徴だと思うんだけど、歳とってこんな声になったんかー、ってのが最初の感想。
いやーでも美しいです。

2.Signed Curtain

マッチングモールの72年1stアルバムに収録されたロバートワイアットの楽曲をピアノとトイピアノでカバー。ロバートワイアットが参加したのは1曲目だけだけど、このカバーでなんとかアルバムとして「with robert wyatt」が成り立ってるのかな?どうせならこれも歌ったらよかったのに。
でもロバートワイアットの鬱っ気が上手く表現された名カバーです。短いけど。

3.Come Prima

とにかくこの曲が刺さりまくったことでこのアルバムを買ったことが「儲けもん」になったし、★★★★☆(4.2)という高いレーティングをつけさせてもらうことになった。東京から関西に帰る車の中で初めて聴いて天に召された。
原曲はイタリアンスタンダードであるみたい。
とにかく最高に美しい室内楽でありながら、僕の知るパスカルコムラードらしすぎるトイポップ。
前半はピアノとオルガンと鍵盤ハーモニカで緩やかに展開していき、後半はマンドリン的なトレモロシンセ(?)と3種のパーカッション回し(ギロ/ハイハット/キュキュッと擦るような音)で絶頂に達する。
こういう聴いた瞬間に世界がぱかーーんと開く曲、久しぶりに出会いましたです。

4. The Sheik of Araby

テッド・スナイダーが作曲し1921年に発表されたジャズスタンダードのカバー。聴いたことがありまくるメロディの曲で、ビートルズもアンソロジーでカバーしてた曲。
パスカルコムラードは中南米風なカリプソ風?なアレンジでカバー。良きです。

5.24 Mila Bacci

「イタリアのエルビスプレスリー」と呼ばれるアドリアーノ・チェレンターノの代表曲のカバー。世界的にはめっちゃ有名な人らしいけど、知らぬ。知らんことだらけだ。
パスカルコムラードはこのアルバムでイタリアの楽曲を3曲カバーしている。フランスとイタリアってそんな密接なのかしら。全く知らんもんなイタリアンポップ。興味津々。

6.Knockin' on Heaven's Door

言わずと知れたディランの名曲のカバー。だけどメロディパートがあるわけでもなくコード感が残ってるくらいのカバーなので、それならニールヤングの〝Helpless〟のカバーって言うこともできるやん、ってのは野暮か。
CDではちゃんとDoorになってるけど、AppleMusicとYouTubeでDootになってるのは誤字なのか意味があるのか…

7.L'Italiano

イタリアのSSWトト・クトゥーニョが83年にリリースした世界的ヒット曲(しらんけど)のカバー。原曲のPVみたいなのを観たけど、顔ジョージハリスンそっくりでした。
パスカルコムラードのカバーはMoogシンセでメロディ弾いて、アルバム内で唯一ドラムしっかり叩いてる。ビートは少し違うけど割とテンポ感とかノリは原曲ままなのかな。

全体聴いてみて思ったことは意外とシンセ使うんや、ってこと。で、トイミュージックとシンセが案外親和性あるんかも、ってこと。でもシンセあったらトイ楽器いらんやん、って思ってしまうところもあったり。

オススメアルバム教えてください

まぁそんなことでパスカルコムラードの『September Song』、★★★★☆(4.2)です。もうほとんど3曲目の『Come Prima』に捧げた星です。いやまぁ冒頭3曲かな!

とにかくパスカルコムラードもう少し聴いてみよーという気持ちにさせてくれました。しかし80枚以上アルバムあるみたいなので、どなたかオススメを教えてもらえないものでしょうか。3枚ほどに絞ってくれたら…
イタリア音楽もオススメ知りたいです…
お願いしますーー

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