『The Garden of Jane Delawney』★★★★★(4.5)音楽購入履歴#5
Title: The Garden of Jane Delawney(1970)
Artist: Trees
Day:2024/2/3
Shop:disk union shimokitazawa
Rating:★★★★★(4.5)
Treesといえば『On The Shore』
僕って例に漏れない男なんです。悔しいけど。
Treesは71年2nd『On the Shore』がとにかく有名で、ブリティッシュフォークファン/プログレファンから愛されまくっていて。ヒプノシスがジャケットを手がけたことも大いに関係してるんだろうし、もちろんプログレフォークとしての完成度の高さもあるんだけど。
それで僕はブリティッシュフォークに興味を持ったと同時に例に漏れず『On the Shore』を手にし、そして例に漏れず1stアルバムを蔑ろにしてしてきた男。ばかやろばかやろ
Treesは2020年にデビュー50周年Boxセットをリリースしていて。69年に結成して72年には解散した短命バンドがこういう周年盤を出すのもめずらしいというか、流石の人気だなぁと思うんだけれど。
そのBoxの内容は1stと2ndと未発表デモとかライブ音源とかなんだけど、僕はこれをApple Musicで聴いて、それでやっと1st『The Garden of Jane Delawney』に反応したわけで。もちろん以前からYouTube等でちらちら聴いてはいたけど、こんなに良かったっけ、って、『On the Shore』に引けとらんやん、って。
David Costaのライナーノーツ
僕が買ったこのCDは2008年に再発されたもので、そこにはギタリストのDavid Costa(デヴィッド・コスタ)によるライナーノーツが割としっかり書かれている。
輸入盤なのでもちろん全部英語なんだけど、iPhoneってのはほんとに便利で(iPhoneに限らんのか?)、写真で文字をスキャンして翻訳にかけれるんです。この機能のおかげで英文のライナーノーツをさらさらっと読めるようになったわけです。やっぱり自動翻訳では正しく理解できてるかは不安なところが多々あるのはあるんですけどね。
Treesで主に12弦ギターを響かせているデヴィッドコスタはTrees解散後デザイナー/アートディレクターの道を歩んだそうで、主にエルトンジョンのロケットレコード周りのアルバムアートを担当したそうな。
衝撃だったんだけど、クイーン『オペラ座の夜』と『華麗なるレース』のジャケットはデヴィッドコスタが描いたものらしい。他にもジョージハリスンやトラベリングウィルバリーズのアルバムやビートルズの『レットイットビー・ネイキッド』でアートディレクションを担当したとか。びっくり
このTrees1stのジャケットもコスタが描いたものであるが、2ndをヒプノシスが担当してそれで2ndが有名になったのは彼からしたら結構悔しかったろうな、と思ったり。
ちょっとその流れでTreesのメンバーの解散後を調べてみたところ
紅一点ボーカルのセリア・ハンフリスはラジオやアニメ等で声優として働いたらしく、イギリス国鉄のアナウンスとしても有名らしい。
Treesの楽曲のほとんどを作曲したTreesの核であるバイアス・ボッシェルは音楽業界に留ってて。Treesでは2ndで少しピアノを弾いた程度で基本はベーシストであったが、鍵盤奏者として80年代にバークレイ・ジェームス・ハーヴェストのサポートメンバーをやったり、90年代にパトリックモラーツの後釜としてムーディーブルースに加入したりしたみたい。ほえーーー
ノッティングヒルとサイケデリック
そんなことでコスタの当時を振り返ったライナーノーツを読みながらTrees1stを聴いてたわけだけど、やっぱり土地や背景というのは大事だなぁと思った次第でして。
Treesはブリティッシュフォークロック/プログレフォークの中でも割とサイケデリックな面が強いバンドとして知られていて。それは土地にも関係しているのだろうな、というお話。
Treesはノッティングヒル出身のバンドで。
映画『ノッティングヒルの恋人(1999)』で有名なノッティングヒル。ロンドン西部にある街。
60年代末のノッティングヒルは「イギリスのヘイト・アシュベリー」と呼ばれていたようで(ヘイトアシュベリーはサンフランシスコにある地区、カウンターカルチャー発祥の地、ヒッピーの聖地)。
地下鉄ノッティングヒル・ゲイト駅周辺でアンダーグラウンドサイケをやっていたロンドンヒッピーどもが「ノッティングヒル・ゲイト系」なんて呼ばれてるらしく(知らなんだ)。ノッティングヒルゲイトの首領と言われるのがデヴィアンツのミックファレンで、その関係でピンクフェアリーズやTwink周りだったり、有名どころで言うとホークウインドだったり。アングラサイケ系で、まぁロンドンプロトパンク的な存在のヒッピー達。
調べてみるとミックファレンは米プロトパンクの代表格MC5をノッティングヒルに招致したりしていたそうで、英米のパンクの土台達が共鳴していたのはおもろしろい。
↓僕が「ロンドンアングラ」と呼称していたのが「ノッティングヒルゲイト系」のよう。
そんな街でTreesは結成されていたこともあって、サイケ色が強いのかもしれない、ってこと。
コスタによるとTreesは英国伝統のトラッドフォークとロックを融合させたスタイルではあるが、バンドサウンドはかなりアメリカ的であるとのこと。
ノッティングヒルの輸入レコード屋の話もライナーノーツに書かれてあるが、そこにはバッファロースプリングフィールドやクリーデンスクリアウォーターリバイバル、クイックシルバーメッセンジャーサービスやIt's a Beautiful Dayのレコードなんかが並んでたらしく、イギリスのヘイトアシュベリーと言われていたというノッティングヒルだが、音楽的にもウエストコーストの、サンフランシスコ・サイケの影響が強くあったのかもしれない。ホークウインドは「イギリスのグレイトフル・デッド」なわけだし。
それで、Trees1stのサウンドを聴いてみたら、なかなかにシスコサイケ風なんですよね。
半数がトラッド曲で、半数がバイアス・ボッシェルの自作曲なんだけど、特にトラッド曲の全部に長いインストパートがあって、それがとてもシスコサイケ風なサイケデリックジャムなのです。リードギターのバリー・クラークの歪んで乾いたギターとかもウエストコースト感満載で。
めちゃくちゃ酩酊感あるんです。バイアスのベースが中心にあって、そこにコスタの12弦が絶妙に絡んで。
アルバム概要
ではそんなトラッド&サイケデリックジャムな1st楽曲のYouTube貼っときやす。
1.Nothing Special
これはオリジナル。UKフォークっぽい楽曲ではあるんだけど、めっちゃウエストコースト感あるんですよね。スワンプっぽささえある感じ。リードギターの音色でしょうか。
2. The Great Silkie
これがトラッド&サイケデリックジャムそのもの。しっとりとトラッドを歌い上げ、間にサイケデリックジャムを挟み込んでいる。
4. Lady Margaret
5.Glasgerion
6.She Moved Thro' the Fair
も同じくトラッド&サイケジャム。時折グレイトフル・デッド並の酩酊感あるんです。
ほいでバイアスによるオリジナルですが、UKフォークバンドさながらのトラッド風オリジナル。こっちはジャムとかないのでむしろトラッドよりもオリジナルのほうがトラッドぽいのよね。
タイトル曲の3. The Garden of Jane Delawneyはバイアスが64年には書いてた曲とのことだけど、美しすぎるトラッド風オリジナル。12弦も最高。アルバムタイトルにもなってる「ジェーン・デロウニーの庭」ですが、ジェーンデロウニーが何者なのかはわからないらしい。
7.Road
男女混成のトラッド風オリジナル。2ndでも男女混成は聴けますがバイアスののっぺりした声、いいんです。
8. Epitaphもめちゃくちゃトラッド風なオリジナル。いやーアシッドでいいですねー
ラスト9. Snail's Lamentはアルバム中1番トラッド感がないんだけどこれが極上のアシッドソング。カタツムリの嘆き。モビーグレープとか、その辺りのウエストコースト感満載です。
信じられない速度/1stと2ndの1年
Treesってバンドは69春に結成されて夏にCBSと契約して70年4月に1st、71年1月に2ndをリリースして解散した。
ほんとにこの時代のスピード感には驚かされるんですたびたび。69年に結成して、わすが2年で素晴らしい2枚のアルバムを残して消えていく。
バンドを結成したことのある人ならわかると思いますけど、これってやっぱり音楽に生活の全てを捧げたスピード感なんですよね。
DTMなんてもちろんない時代で、オーバーダブは少なからずある時代ですけどバンドは基本1発録り。結成から1年でこの1stのサウンド。四六時中メンバーと共に時間を過ごしてないと無理なんですよね。
僕も一応バンドをやってきた身ですが、バイトがどうとか予定がどうとかいいながら週に1回バンドで集まって、月1,2本ライブをしてたら知らない間に5,6年経って、解散して、また新しいバンド組んで、同じように生活がどうのこうの言いながら週1回集まって。
いや時代は関係ないか、今の時代にも音楽に全ての時間を使ってる人もいるかもしれない。
いやでも、ビートルズの8年とかえぐいじゃないですか。あの時代の時間感覚、成長と変化の速度。
それで今回1stを買って聴いたことで気づいたTreesの1stと2ndの間の変化の速度もすごいんですよね。
1stがシスコサイケに通ずるノッティングヒルサイケだというのはさっき書いたけど、2ndはやっぱりプログレフォークなんです。女性ボーカル、男女混声のプログレフォーク。個人的にはUKプログレフォーク3種の神器(スパイロジャイラ、チューダーロッジ、メロウキャンドル)を従えるような一枚。
バンドがかなり洗練されてジャムは減って構築系の楽曲作りに変化していっている。
顕著なのがセリア・ハンフリスの歌で、1stと2ndの間で経験なのか彼女の中でどれだけの時間が流れたのか、全く違う女性に変化している。
デヴィッドコスタはライナーノーツで、1stでの彼女の歌には「処女性があった」と述べている(セリアはこの表現は許さないだろう、と前置きしながら)が、2ndでは成熟した妖気みたいなものが漂っている。
どちらもUKフォークの神聖さを表現するのにマッチしているんだけど1stが妖精や天使の類いだとしたら2ndは精霊や女神といったところだろうか。セリアは50年生まれなので、19とか20歳とか、1年足らずでこんなに人って時間を進めれるのか、と。
(2ndでのセリア)
結果どっちも最高
そんなことでまぁまぁまぁ、1stは妖精とサイケデリックフォーク、2ndは精霊とプログレフォーク、どちらもどちらの良さもあるなぁという話です。これはどちらも★★★★★(4.5)とさせていただきます。
ただプログレフォークは他にもいるけど、トラッドフォーク&サイケデリックジャムは唯一無二な気もするんですよねー
あとプロデュースはUKフォーク系のプロデューサーとして知られるトニー・コックスなんだけど、トニーコックスってレスリー・ダンカンと結婚してたのね。びっくりびっくり