SUFONAMAはじまる
修士課程に在籍中なので、1年目と2年目の前半までは普通に授業がある。セメスター制で各セメスター30単位の取得が義務。
僕がこの冬学期受講しているのは、
Measuring forest inventory (6単位)
Remote sensing and image processing with open source software(6単位)
Non timber forest products(3単位)
Wild life management(3単位)
Global Environmental and Forest Policy (3単位)
International forest economics(3単位)
以上の科目。
森林の多面性が最近重要視されているけれども、その分だけ分析観点も多いわけで、それがこの幅広の科目構成に反映されていると思う。リモートセンシングの理論部分は電磁気学だし、一方で政治学や経済学の分野の科目もある。
一番ハードなのが最初の2つ。前者は森林にどのくらいの量の木材資源(バイオマス)が存在しているかを木を切らずに測定する方法を学ぶもの。日本だと森林計測学とでもいうんだろうか。inventoryというだけあってまさに在庫量。会社の中間・期末の棚卸でさえ結構大変なのに、一つ一つ種類も大きさも違う木があちこちに生えている森林の木材資源をどう計測するのかというのは地味ながらかなり大変ということがイメージしてもらえると思う。基本となるのは、一本の立木をどうやって計測するか、という点。それを行うために使われる器具の一つがレラスコープ(relascope)。これはある会社が特許を持っているらしく、見た目よりもずっと高価な代物らしい。これを使うことにより、測定者の周囲一ヘクタールに生えている木の胸高の面積の合計がわかる。さらに高さの測定もできるので、その二つを掛けあわせて資源量が出る、という理屈。いま、実際のフィールドでこれを使っているということはないようだけれども、理屈を学ぶにはアナログの器械がいい、ということで理論の講義と並行して全員でかわるがわる校舎の周りの木を測定したりしている。
同じ目的のためにもう少し簡単な器具もある。右下写真がそれで、デンドロメーター(dendrometer)と呼ばれるもの。精度は落ちるが、金属版を加工して作った簡単な器具のため、いつでも持ち運びをすることができる。なんでもこれはここの森林学部の先生がその昔に発明したとか。なお、別名があって「ゲッティンゲン式ビールの栓抜き」というのがそれ。実際栓抜きに似ているし、本当にそうやって使うこともできる。この講座の教授もチューターの方もまったく同じくだりを別の時間に言っていたから、その小話も代々受け継がれているんだろう。クラスメートはみんな大人なので、毎回「オー」とかなんとかちゃんと驚いてあげてた(笑)。
ところで、この在庫量の測定というトピックは、非常に地味だけれども、今、再び脚光を浴びていたりする。それは、二酸化炭素排出権の市場化を行う際に、各国に所在する森林の資源量を短時間で正確に測定することが求められているから。それがないと二酸化炭素の吸収量を推定することは不可能。リモートセンシングのような新たな技術も取り入れつつも、新たな測定方法の研究がかなり熱心に行われているらしい。
僕自身、当初は森林を学ぶに際してこういう分野が存在することすら知らなかったのだが、何回か授業に出席するうちにその重要さが理解できるようになってきた。在庫量をつねに適切に把握しておくことが店舗経営の肝だということを社会人経験の中で実体験しているだけに、その経験とこの授業の内容がうまくマッチングできている気がしている。まあ、派手さはないし、統計学の知識は必須だし、重箱のすみをつつくような部分も多分にあるので授業に追いついていくのは大変だけど、幸い担当の教授は丁寧に教えてくれるし、レクチャーノートは初回の授業で大部のものが製本されて10ユーロで販売されたりと、フォローはちゃんとしてくれるので助かっている。
修士課程のカリキュラムについては、いつか、日本やアメリカで開講されている修士課程のカリキュラムとの比較研究をしてみたい。初学者も視野に入れているドイツのカリキュラムと、基本的に学部で同じ専攻をおさめていないと進学できない日本のカリキュラムとはかなり違うとは思うが、その違いがどのくらいのものなのか。また、アメリカのカリキュラムは想像もできないけれど、日本やドイツとは比べ物にならないぐらい大規模な森林経営が一般的な国だから、授業の目指す方向がそもそも違うかもしれない、と思ったり。
オリジナル記事公開日:2011年12月4日