生き残った植物園
バンゴール大学の付属植物園 Treborth Botanic Garden の活動目的は、在来植物と小動物の保全保護、市民の憩いの場や自然環境保全に関する情報提供の場となること。
前者について、在来種(Natives)とは何か、ということが鍵になる。この植物園では以下のように定義している。
Natives:伝統的にブリテン島の植生であったもの
Naturalized aliens:ブリテン島外部から移入されたものであるが、現状の環境下では天然更新が可能なもの
Introduced:ブリテン島外部から移入されてもので、現状の環境下では天然更新できないもの
見せてもらったリストだとそれぞれの項目の下に具体的な植物名が記載されていて、植物の同定ができる方であれば、これはもともとあった樹種でこれは違うんだ、というのがよく分かる。ここの植物園の森林部分では、多くがNaturalized aliensに該当する植物だった。
例えばTurkish oak。18世紀に導入されたオークの一種なのだが、在来のそれに比べて成長速度が速いために普及が進んだということ。パッと見オークの木なので在来種と思いがちだが、とんでもない巨木に見えるものが200年そこそこだという実例を目の当たりにできた。Introducedの代表例はNorway spruce。北ウェールズでは天然更新しないということでIntroducedに該当していた。「まさか」と思って植物園のキュレーターの方に確認したらYesとのこと。
後者のいわゆるアウトリーチについては、ここの植物園はとても力を入れている。その理由は、この植物園の運営がボランティアの協力なくしては成立しないということにある。大学の付属施設なのだけど、植物園の設立当初にあった園芸学専攻が学生の減少で廃止となり、そのあおりと財政難で2004年に一度廃止の決定がされた。
それに対し、学生有志と地元の植物愛好家が反対運動を繰り広げて、予算規模は縮小するけれども、植物園は継続ということに方針変更となり、今にいたっているそうだ。常勤職員一人(キュレーター)とパートタイムの職員が一人で施設の管理から研究を行う学生(園芸学専攻は無くなったけど、生物学や環境保全の専攻は人気があり学生も多い)まで面倒を見ているのでとても手が足りず、ボランティアの助力なくして運営がなりたたないのだそう。400名が登録していて常時活動しているのは20名ほどなのだとか。ボランティアといってもその道のプロが多いようで、子供向けにと作られた観察用の池は子供が落ちないように実にうまく設計されていた。定例の観察ツアーやコンサートなどの催しはほとんどこういったボランティアの手で運営されているそうだ。
植物園に予算が回らない、という話は日本でもこれから普通に聞かれるようになると思う。植物園を運営することの成果は数年で現れることはない。100年はかかるとみていい。そういう仕事に国がお金を回せなくなったときに、だれがそれをサポートしていくのか、ということを真剣に考える時期に来ている。
オリジナル記事公開日:2012年7月27日