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Spring 2024 授業振り返り③ - Bankruptcy

今回は、春学期に受講したBankruptcyの授業を振り返りたいと思います。結論としては、当初予想したとおり多くの学びを得ることができ、大変満足でした。


選んだ理由

今学期の時間割をプレビューした際の過去記事に書きましたが、担当するProfessor WestbrookのSecured Creditを先学期受講した経緯があったので、その流れで決めました。知識面での連続性と、教授への信頼感が決め手です。

なお、Secured Creditはまあまあ勘所があるとしても、Bankrutpcyの方はあまり日本法実務のバックグラウンドがないというのが実情です。基本的な事項は、ファイナンスに関連する限度で理解しておりますが。なので、Secured Creditのときよりも一層新しいことを学んでいる面が強く、なかなかついていくのが大変でした。

概要

クラス

先学期のSecured Creditは40人くらいの割と大きなクラスだったので、今回もそのくらいの規模になるかなと思っていましたが、蓋を開けてみると私含め11人というゼミのような規模感でした。これに伴い、Callの仕方も変わり、毎回by nameでレポーターが指定されます。割り振りですが、学生は3グループに分かれて各グループが週ごとにローテーションでその週を担当するという感じでした。これにより、3週ごとに集中的にコールされる週がやってくることになり、Secured Creditのときよりはだいぶコールされたと思います。

教科書

先生が共著者の一人に名を連ねる"Law of Debtors and Creditors"が教科書です。[1] 持ち運びの便宜の観点から電子版にしましたが、Final Examの準備として知識をレビューする際は検索しやすい方がいいので、追加で紙版も買いました。

また、授業に必要な倒産関連のStatuteがまとまっている条文集も指定されます。Final Examではこれのみ持ち込み可です。

予復習

上記の教科書がAssignmentと題する章に分かれていて、毎回、1つのAssignmentをこなしていきます。Assignmentは、Reading部分(30ページくらい)と、Problem Setから構成されますが、Readingは各自読んでおく前提で、授業ではProblem Setをベースにした問題演習だけします。Assignmentの量は毎回ほぼ均一だったので、ワークロードを均すことができましたし、Professorが自ら書いた教科書だったので進め方も予測しやすかったです。1週間で50分*3コマですが、手元の記録によると、週あたり15時間程度予復習に使っていたようです。50分という小さいコマを分散するというスタイルは、集中力を維持しやすくよかったと思います。

教科書以外にも、興味深い裁判例・事例が公表されるとタイムリーに授業で取り扱うなど、常に現実の実務との関連性が意識されており、飽きることがなかったです。

Final Exam

試験概要

ゼミ的な雰囲気ではあるのですが、成績は基本的にFinal Exam一本で決まります。教授はTime-pressureの中でこそ実力を測れるというお考えのようなので、2時間で2問(事例問題1問、ポリシー関連の論述1問)という試験形式でした。ただ、私は、非英語圏でしか教育を受けた経験がないということで、Accomodationとして追加の1時間を頂きました。

試験に持ち込めるのは条文集だけなので、日頃からこの条文集を手懐けておく必要があります。サブスタンスを理解するのはもちろんですが、どこに何が書いてあるかすぐに引けるようにしておくのも大事です。この辺は日本の司法試験と一緒だと思います。ただ、持ち時間が限定的であることに加え、回答にあたって条文を正確にCiteすることは特に求められていないので、コンセプトさえ理解しておけば十分でした。

最後に試験が控えているというのは、やはり学習効果の向上に資する面があります。日常の勉強でもアウトプットを意識せざるを得なくなりますし、試験直前に全てレビューすることで学んだことをinternalizeすることできます。

事例問題の対策

過去問をいくつか見たところ、先学期のSecured Creditと同じような感じでしたので、対策方針を立てるのはそんなに難しくはなかったです。すなわち、具体的な事例を前にして迅速・的確にIssue Spotingできるように訓練し、各論点に対応する基本的なルールを習得しておくのみです。ただ、先学期と異なる事情として、今学期は学期末に向かうに連れ他の授業でのプレゼン・レポートやら、職探しやらが佳境になり、このFinal Examの準備にとれる時間はとても少なかったです。

そんな中、Issue Spottingの練習として、過去問を3年分やりました。また、知識の習得という意味では、今回も(先人たちが残してくれた)Outlineをベースにしつつ、Bankruptcy Codeの条文を読み直しました。

なお、事例問題で出るような論点は限られていることが分かってきたので、以下のような論点表を作っておきました。これを条文集に書き込んでおき(←条文集への書き込みは許可されています)、本番で論点がどうしてもわからなかったとき、あるいは抜け漏れ防止のため、これを見ることにしました。

Parties
- Debtor
- Creditors
    - Secured/Unsecured
    - Allowed amount; estimation 502(c); bifurcation 506(a)
    - Supplier Secured Creditor
    - Reclamation 546(c)
    - Administrative expenses 503(b)(9)

Eligibility
- Business
    - Subchapter V (7.5M)
    - Traditional Chapter 11
    - Chapter 7
- Individual
    - Subchapter V
    - Chapter 13, 109(e); Means Test 707(b)
    - Chapter 7

Involuntary Filing 303

Jurisdiction
- Federal v. state; subject matter jurisdiction, removal, mandatory abstention
- Article III judge v. Bankruptcy judge

Administration
- Automatic Stay 362
- 363 sale
- DIP Financing 364
- Administrative expense 507(b)
- Priming lien 364(c)
- Executory Contract 365
    - Exception
    - Default cure
    - Assignment
    - Constitute default 365(g)
- Key Employee Retention 503(c)
- Avoidance
    - Preference 547
    - Fraudulent Transfer 548
    - UTVA
    - Statutory lien 545

Plan
- Classification of Claims 1122
    - Suppliers
- Consensual Plan 1129(a)
- Acceptance Ratio 1126(c)
- Best interest test 1129(a)(7)(A)(ii)
- Feasibility test 1129(a)(11)
    - Subchapter V exception
- Cramdown 1129(b)
- Absolute Priority Rule 1129(b)(2)(B)(ii)
    - New Value Corollary
    - Subchapter V exception

Individual Debtors
- Exemption (individual) 522
- Discharge (individual) 727

Subchapter V against Regular Chapter 11
- No absolute priority rule
- No disclosure
- No committee
- No impaired class rule
- House mortgage can be stripped
- Exclusive rights to propose a plan
- Mandatory trustee (trustee-lite)
- Discharge upon completion of payment
- Easier to find debtor’s counsel 1195

Ethical Issue
- Conflicts of Interest
- Employment by trustee 327
- Multiple creditors
- Sole owner v. company
- Solution
    - Disclosure 329
    - Independent lawyer

ポリシー問題の対策

もう一つ出題されるポリシー関連の問題については、要するにBankruptcyをめぐる政策の当否等について問われるのですが、どう準備するか難しかったです。ただ、授業で扱ったトピックから出題されることはアナウンスされていたので、以下のいずれかではないか?とヤマを張ってみました。結局当たらなかったですが。

  1. Venue, Forum Shopping(後述)に関する改正案

  2. FTXの事案における弁護士倫理上の問題点 [2]

  3. Subchapter Vの上限を元に戻すかどうか [3]

  4. US Trusteeが倒産手続きにおいて果たすべき役割 [4]

  5. Third party releaseのあり方について(後述)

  6. HoustonのとあるBankruptcy Judgeのスキャンダルに関して法曹倫理上の問題点 [5]

成績

Aでした。毎回のアサインメントに苦しめられつつも、全部のクラスに出席して、常に知的好奇心を刺激され続けた授業でしたので、嬉しかったですね。あとは、今後の弁護士業務のどこかで活用する機会があることを楽しみにしています。

面白い論点

最後に授業の中で得た面白い気づきについて記録しておきます。今後何らかの場面で深掘りする機会があると嬉しいです。

Forum Shopping

現行制度上、Affiliateが倒産手続きを申し立てている裁判所(venue)であれば、それに関連する形で別法人も同じ裁判所に申し立てられるというルールになっているため、倒産申立用にAffiliateを作ってしまえばどこの破産裁判所でも破産を申し立てることができます。これに加えて、破産裁判所によっては、大規模な倒産案件は特定の判事にしか割り振らないというプラクティスを採用し公言しているところもあります。これらの事情があることから、申立代理人としては、Debtorにとって有利な解釈・運用をすることで知られている判事が所属する破産裁判所に事件を持っていくのがストラテジーということになります。[6]

以上のプラクティスについての評価は分かれるところで、大規模破産は専門性が高い事件類型であるのは間違いないのでポジティブに評価する向きもある一方、公平な事件処理という観点から改善すべきという意見もあるようです。以下の記事が詳しいです。

なお、Forum Shoppingというコンセプト自体は破産に限るものではなく、いろいろな事件類型(特に政治色の強い案件)で問題になっています。以下の提言は、Forum Shopping一般へのネガティブな評価を前提に、解決策としてRandom case assignment(個々のDistrictの中で特定の判事にだけ事件を振るというのを禁止する)を唱えるものです。

BankruptcyとFederalism

合衆国憲法上、倒産は連邦マターになっていますが(Article 1, Section 8, Clause 4)、債務者の免責財産(exemption)などは州法の規律に従うことになっているため、結局、property lawを中心にFedaralismの問題は不可避のようです。ちなみに、TexasのExemption statuteは、他の州のstatuteや連邦のBankruptcy Codeと比べて、随分Debtorに優しくできているようですが、これは多重債務を理由に逃げてきたのが最初の世代の入植者であり、彼らにフレッシュスタートを与える必要があったという歴史的背景によるようです。

Bankrutpcyの議論の仕方

倒産法に関するアカデミックな議論のありようは日米で大きく異なる面があるような印象です。これは日本の倒産法が民訴学者によって論じられているのとは異なり(ドイツの影響?)、米国の倒産法はむしろコーポレートやらファイナンスやらのバックグラウンドがある学者が論じていることによるように思います(扱っている事象の性質に鑑みると、後者の方がある意味自然)。というのもあってか、授業で使った教科書も実証研究に関する記述が豊富で、非常に生き生きしていて面白かったです。

また、倒産に限った話ではないですが、Statuteの作りが非常に実務的です。Bankruptcy Codeについては、理論的美しさに沿って書かれているというより、やたらspecificなルールが突然放り込まれていたり、数多の利害(大人の事情、ロビイング)が幾重にも積み重なったことが窺い知れるような見た目になっています。結果的に初学者にとっては非常に読みにくい法律になっていますが、歴史を理解すると、むしろ読みやすくなってくるので不思議なものです。日本の法令で言うと、銀行法などの金融規制が近いように思います。

BankruptcyとMass Tortの交錯 (Purdue判決)

倒産手続きの一つの「使い方」として、薬害などのMass Tortにより多額の不法行為債務を負った会社がChapter 11を申し立て、その手続きの中で被害者救済を実現していくという実務があります。この文脈において、債務者会社の代表者(←代表者自身は倒産を申し立てていない)の免責を合意することができるかという論点が存在し、この点について最近、連邦最高裁が判決を下しました(Purdue判決)。結論としては、現行制度上は、債権者全員の同意がないと免責不可とのことです。多数決原理で権利関係を処理していくのが倒産手続の基本的なアイディアなので、そもそも免責の当否を決めるフォーラムとして、倒産手続きは適切ではないということになります。もっとも、Bankruptcy Codeに明文の規定を置けば可能とも言われており、現に、数あるmass tortの中で特にasbestos関連のものだけは、明文の規定が存在します(524(g))。過去にロビイングがなされた結果のようです。

以下の記事では、Chapter 11がどのようにしてMass tortの処理に使われるようになったかの歴史が解説されています。


[1] 共著者の一人であるElizabeth Warrenという人は、現在民主党のSenatorを務めていますが、倒産法研究に限らず、金融規制の分野でも著名な方です。リーマン・ショック後のウォール・ストリート改革においてCFPB (Consumer Financial Protection Bureau)の設立を主導した人物としても知られています。

[2] Chapter 11申立中のFTXに関する事案です。申立代理人としてSullivan & Cromwellがついているのですが、申立前後におけるその振る舞いが、弁護士倫理上正しかったのか?というのが話題になっています。当該事案に関するケーススタディとして以下の論考があります。

[3] Subchapter Vは、通常のChapter 11を債務者フレンドリーな方向で簡易にしたものです。ただ、債務上限額が一定額以下であるという条件があります。この上限額がコロナのときに、時限立法で7.5Mまで引き上げられた(=よりSubchapter Vを利用しやすくなった)という経緯があります。この時限立法がつい先日効力を失ってしまったのですが、恒久化すべきではないかという議論があります。

また、以下の記事によると、現実のChapter 11のうち相当数がSubchapter Vを利用していたとのことであり、この実態に鑑みると、恒久化が望ましいようにも思われます。

https://www.creditslips.org/creditslips/2024/03/about-44-of-chapter-11s-are-subchapter-v-cases.html

[4] 管財人もtrusteeなのでややこしいのですが、US trusteeは管財人とは全く違う存在です。Department of Justiceに所属する組織であり、時にbankrutpcy watchdogなどとも言われます。一般債権者含め公益を代表する立場で倒産手続きに関与することが期待されており、その権限はBankruptcy Codeのここの条文においても明記されています。事件数に対して倒産判事の数がかなり少ないので、倒産判事の機能(アンパイアとしての役割)を補完する存在として位置付けられているようです。

[5] かなりスキャンダラスなのですが、United States Bankruptcy Court for the Southern District of Texasの判事であったJudge David Jonesが、自分が担当した倒産事件の申立代理人(Jackson Walker)のパートナー弁護士の一人(Elizabeth Freeman)と交際関係にあったにも拘らず、その関係性を開示しないまま、手続きを進めていた、という事例です。その後Judgeは職を辞しました。関係者多数であり、スキャンダルに端を発する訴訟等も複数走っているという状況です。法曹倫理上の問題点について論じたものとして、以下の論考があります。

[6] このストラテジーにおいて格好のターゲットになっているのが、上記脚注でも出てくるSouthern District of Texasです。とりわけ、倒産申立前に、倒産申立用エンティティに負債を移すというコーポレートアクションを噛ませる場合、負債移転+倒産申立の2段階になることから、このスキームはTexas two stepsとも呼ばれます。

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