Trial Skills Workshop
今回は、10月11日にAustinで開催されたTrial Skills Workshopについて書こうと思います。
Workshopは、法廷実務に従事している現役の弁護士が模擬証人尋問を行い、それに対しJudgeが講評を行うというトレーニングの場です。
今回、私は、模擬証人役のボランティアとして参加しました。冒頭の写真は、証人席から見える法廷の景色を撮影したものです。
背景
背景について書いておくと、Trial Skills Workshopは、National Conference of Bankruptcy Judges (NCBJ)の年次会合の一環として行われたものです。NCBJは、全米の破産裁判所の判事から構成される団体があり、毎年どこかの都市でConferenceを開いているようです。今年(第97回)はちょうどAustinでの開催になりました。
このConferenceは、いくつかのプログラムから構成されており、そのうちの一つが今回書くTrial Skills Workshopです。Workshopの主催者は、Austinを管轄する破産裁判所(United States Bankruptcy Court for the Western District of Texas)であり、NCBJや、American Bankruptcy Institute (ABI)がCo-Sponsorとして名を連ねる形でした。
参加の経緯
Professor Westbrook
今学期、Secure Creditというクラスを受講しているのですが、講師のProfessor Westbrookからクラス全体宛に、上記Conferenceがあること、及びConferenceの日はProfessor自身プレゼンをするため授業が休講になることのアナウンスがありました。同時に、せっかくだから学生もConferenceに参加する機会を活用したほうがいいということで、①Judgeの一人が学生向けに行うレクチャー(昨年のUCC改正について)を受講するか、②Workshopの証人役のボランティアを引き受けるか、どっちか選ぶことができる旨、知らされました(どっちも任意。)。
ボランティアの方については、以下の勧誘文言でした。要するに、現役の弁護士・判事が技術を磨くのを近くで見ることができるので、いい勉強の機会になるはず、とのことです。
私としては、単にレクチャーを聞いているよりは、もうちょっと積極的に関与できた方がいいと思ったので、ボランティアを選びました。また、尋問される立場であれば、英語のリスニングの練習になると思ったのも理由の一つです。なお、私自身は、弁護士のくせに法廷の経験は皆無であり、今後も法廷実務に携わる具体的な予定はないので、Trial Skillsそのものに興味があったというわけではありません(Workshopの現場では、こういう場に来る以上、法廷実務に興味あるんだろう?と、結構色々な人から言われましたが…。)。
Judges
ということで、Professorの案内に従い、今回のWorkshopをチェアする Judge Gargotta (Western District of Texas)(※)に、参加希望である旨連絡しました。
(※)なお、現在、今学期末の提出に向けて鋭意執筆中のPaperでは、Texasの担保法制について触れる予定ですが、そこで議論の対象とする著名判例の一つを担当したのがJudge Gargottaでした。このように、色々なものが線で結ばれると、特定のコミュニティに身を置いているという実感が持てます。
Judge Gargottaから、Workshopのロジ面を取りまとめてくださったJudge Bauknight (Eastern District of Tennessee)に繋いで頂き、その後は彼女とやり取りすることになりました。
Workshop概要
以下、開催場所等のロジ面や、具体的にどういう事案を扱ったかという内容面について書きます。
開催場所
Workshopは、DowntownにあるFederal District Courtで行われました。
なお、Austinには、このDistrict Courtとは別にBankruptcy Courtも存在します。建物も異なるようです。Bankruptcy Courtは、後述のとおり、近日中に別途訪問予定です。
開催趣旨
当然ながら参加者のTrial Skills(とりわけ尋問技術)の向上を図ることが本Workshopの目的ですが、Workshop冒頭で、Judge Bauknightが、「最近、Trialに入る前に当事者間でSettleする例をよく見るが、単に担当弁護士がTrial Skillsに不安があるからTrialを回避してSettleしているのではないかと思われる事案が散見される。本来Trialで尋問して解決すべき事案について、適正な解決をするには、個々の弁護士の能力を引き上げる必要がある。そのような問題意識からTrial Skills Workshopを開催している。」という趣旨のコメントをしていたのが印象的でした。そもそも、裁判所の発意でこのようなWorkshopが開催されるというのが、中々日本では考えづらいところです。法曹一元が浸透しているアメリカならではなのかもしれません。
参加者
参加者は、尋問担当弁護士、講評担当の判事、証人役から構成されます。
まず、弁護士ですが、全部で16人の弁護士が参加し、4人一組に分けられて、計4チーム作りました。なお、私が証人役として参加したチームは、一人欠席だったので弁護士 3人だけでしたが、3人ともシニア‐ミッドアソシエイトくらいで、倒産案件に日頃から従事している方々でした。
次に各チームに対し、講評を行うJudgeが3人ずつ付きます(なお、3人なのは、あくまでWorkshopだからで、現実のTrialはJudge 1人で担当するとのことです。)。合計12人のJudgeが来ましたが、以下のような顔ぶれでした。やはり地元Texasが多いですが、他の州からも多数参加されたようです。
AttorneyとJudgeに加えて、私のような証人役も合計8名いました。学生ボランティアは私だけでした。募集をかけたものの集まらなかったようです。私以外の証人役は、破産裁判所のLaw Clerk (最近Law Schoolを卒業して、現在Judgeのもとでインターンシップ的な形で働いている方々)が駆り出されているようでした。
なお、今回のWorkshopは、Networkingという意味でもいい機会になりましたが、アメリカのJudgeは、他のプロフェッションと同様、LinkedInのアカウントを持っていることが多いと思います。今回も、LinkedInでのコネクトを駆使しました。
事案
取り扱った事案は、ドラッグストアの運営会社がChapter 11(再生型の倒産手続)を申し立てたというものです。
Trialが行われることになった経緯ですが、申立会社が裁判所に再生計画を提出したところ、一部の債権者(無担保債権者。再生計画に従うと、債権額の5%しか回収できない)が反対しました。
争点は、2つです。
再生計画における事業価値(特に申立会社が所有するオフィスビルの価値)が不当に低く評価されているのではないか(best interest of creditors test under 11 U.S.C. § 1129(a)(7)の問題)
再生計画には、申立会社名義で所有されている自動車が意図的に漏らされているのではないか、仮に当該自動車が申立会社ではなく申立会社代表者個人の所有物だすると、代表者は、会社の資産を流用したのではないか(再生計画がgood faithで用意されたものかという問題。11 U.S.C. § 1129(a)(3))
以上の各争点を踏まえて、裁判所は、①申立会社代表者と、②企業価値評価人(過去に同社の企業価値を評価し、レポートを作成したことがある)の証人尋問を決定したという経緯です。
私は、このうち申立会社代表者役で証人尋問を受けることになりました。
ボランティアとしてやったこと
準備
上述の事案について、事前に全参加者宛に共通資料(裁判所に提出したPetitionなど)が配られています。なお、証人だけが知っている秘密情報というのはありません。証人が語るべきストーリー(主尋問の回答内容に対応するもの)については、Trial前に行われたDepositionの議事録が共通資料の中に含まれていただけです。DepositionはDiscoveryの一環として行われたものです。
事案についてある程度頭に入れた上で当日望む必要がありますので、記録を一読した上で、一応、時系列と、各当事者が主張する数字関係(会社の評価額など)を手控えとしてまとめておきました。
現場では英語でのコミュニケーションになるので、事前にしっかり読み込んだほうがいいかなとは思いましたが、多少記憶にゆらぎがあった方がリアリティがあると思ったのと、記憶喚起させるのも尋問担当弁護士の練習になると思ったので、それ以上に入念に準備することはしませんでした。
当日の流れ
申立会社代表者の尋問を午前中に行い、企業価値評価人の尋問を午後に行いました。午前と午後で、Judgeが入れ替わりました。
弁護士は、それぞれ主尋問(Direct Examination)・反対尋問(Cross Examination)を行いました。各尋問につき10分の時間制限がありました。
証人役へのリクエストとして、少なくとも1回は、impeach (弾劾)の練習ができるように嘘をつけ(事前に行われたDepositionでの供述と矛盾する供述をするなど)、と言われておりました。ということで可能な限り嘘をつきましたので、尋問担当弁護士の練習という意味では、だいぶ貢献できたのではないかと思います。
感想
映画やドラマで認識していたものの、証人の座る位置が日本の法廷と違うのは印象的でした。証人席の足元にはスピーカーがあって、尋問担当弁護士の声もJudgeの声も大変聞きやすかったです。
尋問の作法は、Leading questionや、Hearsayなどのobjection含め、日本と同じだと思います。
冒頭記載のとおり、私は法廷の経験がないのですが、やはり尋問は弁護士業の花形だと思うので、人生で一度くらいはやってみたいなと思いました。
Next Step
今回のWorkshopで知り合ったJudgeから、AustinのBankruptcy Courtに見学に来るようお誘い頂いたので、今度訪問しようと思います。