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稲穂健市の知財コソコソ噂話 第16話 新しいタイプの意匠の動向

 意匠権の保護対象は長らく「物品」に限定されていましたが、2020(令和2)年4月施行の法改正によって、画像意匠(物品から離れた画像自体)、建築物、内装のデザインが新たに保護されるようになりました。
 もちろん、画像や建築物や内装であれば、なんでも登録できるわけではありません。画像意匠については、①機器の操作の用に供される画像か、②機器がその機能を発揮した結果として表示される画像であることが必要です。建築物の意匠については、①土地の定着物で、②人工構造物である必要があります。内装の意匠については、①店舗、事務所その他の施設の内部で、②複数の物品、建築物または画像により構成されるものであり、かつ、③内装全体として統一的な美感を起こさせるものであることが必要です。
 初期の登録例は特許庁からニュースリリースも出されて話題となりました。画像意匠の登録第1号は、車両から路面に照射される画像〈「車両情報表示用画像」( 意匠登録第1672383号)〉、建築物の意匠の登録第1号は「ユニクロPARK 横浜ベイサイド店」〈「商業用建築物」( 意匠登録第1671773号)〉、内装の意匠の登録第1号は「羽田空港 蔦屋書店」〈「書店の内装」(意匠登録第1671152号)〉です。
 改正法の施行から4年が過ぎましたが、これら新しいタイプの意匠は、どのくらい出願され、どのくらい登録されたのでしょうか? 実は今年10月4日、特許庁が「改正意匠法に基づく新たな保護対象等についての意匠登録出願動向」で具体的な数値を公表しています。それによると、出願件数は、画像6246件、建築物1732件、内装1146件で、登録件数は、画像4448件、建築物1266件、内装800件です(10月1日時点で取得可能なもの。なお、出願件数には審査中のものも含まれます)。
 それでは、実際にどのようなものが登録されているのでしょうか?
 画像意匠については、パソコンやスマートフォンでソフトウエアを起動する操作を行うためのアイコン用画像も数多く登録されており、そのひとつに2025年の大阪・関西万博のロゴマークがあります〈「アイコン用画像」(意匠登録第1687581号)〉。また、ユニークなものとしてコロナ禍の世相を反映したソーシャルディスタンス(社会的距離)をとるように促す画像〈「情報表示用画像」(意匠登録第1678243号)など〉があります。
 建築物の意匠については、第11話 でご紹介したように、高さ80mを超えるタワーマンションの一部も登録されています〈「マンション」(意匠登録第1674418号)〉。その他意外なものとして、「橋梁」(意匠登録第1678309号)があります。
 内装の意匠については、屋内にある各種の売り場も登録されています。携帯電話ショップの内装〈「電気通信事業の店舗の内装」(意匠登録第1681947号)〉、「化粧品売り場の内装」(意匠登録第1690192号)などです。また、「コインランドリーの店舗の内装」(意匠登録第1729618号)も登録されています。「船舶の乗員室の内装」(意匠登録第1716112号)のように、不動産に限らず動産でも大丈夫です。自動車の内装に関する登録もあり、三菱自動車の「車両用内装」(意匠登録第1772616号)のほか、伊フェラーリの「自動車用内装」(意匠登録第1726492号)や、中国第一汽車集団の「車両用内装」(意匠登録第1743698号)など、外国企業による登録例も目に付きます。

左から意匠登録第1687581号、同1678309号、同1716112号

『発明 THE INVENTION』(発明推進協会)2024年12月号掲載


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稲穂 健市 Kenichi Inaho
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