稲穂健市の知財コソコソ噂話 第1話 『それってパクリじゃないですか?』雑感
日本テレビ系ドラマ『それってパクリじゃないですか?』(水曜午後10時)が6月14日に最終回を迎えました。ビデオリサーチによると、「それパク」第1話の世帯平均視聴率は6.0%、その後は3~4%台を推移し、最終回が4.3%(関東地区、15日速報値)ということで、視聴率的にはいまひとつであったようです。「知財」という小難しいテーマに加えて、地味な展開が多かったことも要因と思えます。
いずれにせよ、有名俳優も多数起用された地上波のテレビ番組として、一般にあまりなじみのない知財の世界を描いたドラマが放映されたことは非常に画期的です。また、これまでの作品は、弁理士ではなく弁護士が中心に描かれるものや、弁理士が登場しつつも、恋愛など実務と関係ない話が展開されるものが多く、知財実務をストレートに取り上げていた点でも「正統派」の内容であったと思います。
出願人が特許庁前で審査官に突撃するシーンをはじめ、専門家から見ると不自然な描写も少なくありませんでしたが、原作となった同名の小説(奥乃 桜子著、集英社オレンジ文庫)の内容を膨らませつつ、専門的な内容をかみ砕き、一般の人でも十分楽しめるように仕上げていたと思います。
一般向けの作品を作っていくにあたって、やはり難しいと思うのが、①どこまで専門的な用語を使うか、②どこまで内容を正確に伝えるか、③どうすれば最後まで飽きずに見続けて(読み続けて)もらえるか――の3点です。特に①②③は独立したものではなく、同時に意識する必要があります。
その点では、「それパク」の第1話でいきなり「冒認出願」という専門用語が出てきたのには驚きました。第20回『このミステリーがすごい!』 大賞の大賞受賞作である『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』(南原詠著、 宝島社)では、「冒認出願」のことを「無断出願」と表現しています。著者の南原氏とYouTube番組で対談した際に 直接伺ったのですが、受賞後の改稿時に編集者から「冒認出願では分かりません」と言われて(怒られて?)、書き直したそうです。
そのほか「それパク」では、「分割出願」や「官能評価」など多くの専門用語が出てきます。「一般向けとしていかがなものか」と思ったりしたのですが、毎回見ていた知人(知財とは無関係)は特に気にならなかったそうです。たしかに、TBS系ドラマ『半沢直樹』や、ロボットアニメ「機動戦士ガンダム」シリーズでも、一般の人にとって意味不明な用語が頻出しますが、いずれも人気となっています。理解できない言葉が映像作品でさらっと流れても、視聴者はあまり気にしないのかもしれません。
なお、ある企業役員の方との会食時、給仕を担当された女性に出口まで送っていただいたのですが、その際に「それパク」が話題となりました。「知財のことを全然知らなかったので、いろいろと勉強になった」「名前だけは聞いたことのある知財部が何をしているところなのか少し分かった」「弁理士のことも初めて知った。すごい職業だと思った」などの感想を話してくださいました。今後も知財や弁理士をテーマにした映像作品が作られていくことに期待したいところです。
『発明 THE INVENTION』(発明推進協会)2023年9月号掲載
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