ロゴマークの刷新を通じた自社理念の強化と共有へのトライ - 後編
前編では、「ロゴマークが果たす役割」についての自分の学びを整理しながら、自社におけるロゴ刷新の目的を「プロダクトを提供していく内部のメンバー」に対して、「目指す理想像を実現するために自分たちが重要視する理念や価値観、行動を想起してもらう」ことと決めました。
ここからはその目的達成のために、どのようなプロセスを経てロゴマークを設計していったかを述べていきます。
目次
- 刷新のプロセス
- 理念と行動様式の言語化
- モチーフへの転換
- スケッチとブラッシュアップ
- 完成したロゴマーク
- まとめ
ロゴ刷新のプロセス
具体的には、以下のステップを踏んでいきました。
理念と行動様式の言語化
このステップでは、企業の独自性や特性を統合した概念であるCI(Corporate Identity)を構成する3つの要素に着目し「目指す理想像を実現するために自分たちが重要視する理念や価値観、行動」を明らかにしていきました。
CIを構成する要素として「MI(Mind Identity:理念、思想)」「BI(Behavior Identity:価値観や行動)」「VI(Visual Identity:視覚表現)」の3つがあります。
ロゴマークそのものを指す言葉として使われることが多いCIですが、本来はロゴはVIの中の一要素であり、CIとは企業理念(MI)をもとに一貫した行動(BI)や視覚表現(VI)を行っていく企業戦略のことを指しています。
記号が担う役割として「意味をつなぐ」というものがあると述べました。
ロゴマークに至っては、MIとBIを想起する手段としてVIがあるという関係構造であり、前者2つの意味をロゴマークにつなぐことができなければ、ただの飾りになってしまいます。そのため、CEO倉橋、CTO柴山との対話を通じて、改めて企業理念と行動様式の言語化からはじめました。
MI(企業理念)
MIはMind Identityの略称で、ミッションやビジョン、企業理念のような思想的な特性を指します。
プレイドではミッションとして「データによって人の価値を最大化する」というミッションを掲げています。また、採用活動や社内に向けたメッセージとして「やりたいことで圧倒的な価値を生み出す」というものも発信しています。
今回は認識を合わせるため、前者は社会に対するありたい姿として、「アウターミッション」と呼び、後者はそれを実現する組織のあり方のため、「インナーミッション」と呼び分けることにしました。(いずれも造語)
アウターミッション「データによって人の価値を最大化する」
私たちはデータを民主化していくことで、価値創出と流通を再発明することを目指しています。
データは一部の会社が独占するものではなく、あらゆる人にとって価値となるもの。私たちは従来の淡白なデータの世界から、より人が扱いやすい直感的なデータに変換し、コミュニケーションのような人間の行動と直接的に繋げることで、人間の多様な感性や発想をミックスし、”データ”と”人”の双方の価値を最大化することができると考えています。
インターネットの構造的欠陥
このミッションと共に語られるのが「インターネットの構造的欠陥」の話です。
インターネットは従来の静的なファイルの送受信や文書の閲覧を目的としたものから、コミュニケーションするためのツールとして役割が進化してきました。
その反面、今のインターネットは相手のことをほとんど知ることができず、データが扱いやすく整理できていない状態になっています。こうした状況は未だ課題として顕在化してきていません。
私たちは、これらを表層に現れていない深いレイヤーにある問題であると考え、自分たちが解きにいくことで新たな価値を世の中に提案していきたいと考えています。
インナーミッション「やりたいことで圧倒的な価値を生み出す」
組織のあり方として呼びかけているこのメッセージでは、自分たちが理想とする世界観を信じ、狂気的に進んでほしいという願いが込められています。
世の中の意思決定の多くは他者の意思決定の影響を受けます。しかしそんなものは気にする必要がなく、自分が信じられる理想があるなら、そのために狂気的になることが圧倒的な価値になり、さらなる活動につなげることができる。という思想です。
自分達が理想とするものを信じることで「仕事の目的と自分の人生との重なり」が増えていく状態にしたいと考えています。そうした活動を通じて「メンバーそれぞれの自分自身の人生を豊かなものにしたい」という意思が込められています。
MIから得られたキーワード
以上の対話を通じて、3つのキーワードを得ることができました。
- 限りなく深いレイヤーの問題を解きにいく
- 信じた世界観に狂気的に向かう姿勢
- 「仕事の目的と自分の人生の重なり」を増やす
続いてBIの言語化に移っていきます。
BI(行動様式)
BIはBehavior Identityの略称で、メンバーの中で共有される価値観や行動様式などの特性を指します。
ここでは、ミッションを追求していく上で重要となる3つの行動様式を聞くことができました。
Backcasting:目的志向
1つ目は「Backcasting」です。
長期視点で設定した大きな目的から逆引きし、妥協せず着実に進んでいく。目的のためなら、途中の失敗や衝突もいとわず進んでいく姿勢を重視しているというものです。
Deploy Driven:出して学ぶ
2つ目は「Deploy Driven」。エンジニアリングで馴染みがあるDeployという言葉から着想を得たものです。
不確実性が高い世界だからこと、世の中に出して学ぶ姿勢を貫こうというもの。行動しなければ成功は生まれることはありません。悩んで動けなくなるより、動きながら学び、考えていくという姿勢を重視しようというものです。
Unlearning:学びの棄却
3つ目は「Unlearning」。「学びほぐし」や「学習棄却」とも呼ばれるものです。
人はだれでも間違うし、過去の経験にとらわれること、バイアスが存在することを認識した上で、必要であれば過去に得た知識や経験すら捨て去って進んでいこうという姿勢です。
以上3つの要素の関係構造として、まず大きな目的を定め、そこに到達するために行動しながら学び、必要であれば学びも棄却しながら進んでいく、という行動がチームとしても個人としても重要。という構造になります。
BIから得られたキーワード
以上の対話から得られたキーワードは3つです。
- 3つの行動様式の存在
- 理想から逆引きする姿勢
- バイアスや不確実性と付き合う姿勢
これらをもとに、VIの検討に移っていきます。
VI(視覚表現)
前述のMI、BIで言語化した特性を視覚的に表現したものが VIです。ロゴマークもVIとしての視覚表現の一つの表現方法になります。
目に見えない思想や指針という意味をロゴマークと結びつけることにより、マークが企業理念や行動様式を想起することや、コミュニケーションを円滑にし、日々の行動につながっていくことで一貫した企業活動を行うことがCI戦略が目指す目標となります。
モチーフへの転換
ここまで得たMIとBIから、以下のようなキーワードを抽出できました。
- 限りなく深いレイヤーの問題
- 信じた世界観に狂気的に向かう姿勢
- 「仕事の目的と自分の人生の重なり」を増やす
- 3つの行動様式
- 理想から逆引きする
- バイアスや不確実性と付き合う
このステップでは、「これらのキーワードをどのようなモチーフで表せるか?」を検討し、以下のモチーフをロゴマークの構成要素とすることにしました。
限りなく深いレイヤーの問題:氷山
氷山は海面上に出ている部分は一部で、大部分が海中に沈んでいることから、目に見える現象の裏には想像もしない本質が隠れていることを表すモチーフとして用いられています。
ここに、顕在化している課題ではない深層課題に取り組む姿勢という意味をつなげたいと考えました。
信じた世界観に狂気的に向かう姿勢 :赤色
赤色は暖かさや愛情、情熱を感じさせる色ですが、同時に恐怖を感じさせる面も持ち合わせています。これまでも企業ロゴでは赤を用いてきましたが、大きな目的に向かって向かい続ける狂気性を明示的に意味付けしたいと考え、要素として残す形としました。
「仕事の目的と自分の人生の重なり」を増やす&3つの行動指針 :3つの要素同士の重なり
仕事と自分の人生との境界が重なり合って曖昧になっていく様と、活動していく上で重要視する3つの行動様式を表すモチーフとして、「3つの要素」「要素同士が重なる様」をモチーフにできないかと考えました。
理想から逆引きする :矢印
大きな目標から逆引きする、その上で目標に向かって進むという行動をストレートに表すため、矢印のモチーフが利用できないかと考えました。
スケッチとブラッシュアップ
これらのモチーフを踏まえ、具体的なロゴマークの検討を進めます。
3月に実施したKARTEのVI設計時と同様、スケッチを元にいくつかの方向性を見出し、フィードバックを元に絞り込み、精細化していくプロセスを辿りました。
絞り込みの過程で、大きく4つのテーマが生まれました。
Forward Future:狂気的に前進する様
未来へ向かう矢印としての三角形を複数用いることにより、熱狂的に前進する様を視覚化したもの。
Empowerment Customers:利用者に顧客視点を与え、伴走する様
同じ方向を向いた複数の矢印を並べることにより、顧客に顧客視点を与え、より良い体験を提供するためのパートナーとしての企業像を視覚化したもの。
Backcasting:理想とする世界観から逆引きする様
作り上げたい理想の世界観から逆引きし、今必要な事を真面目に行う様を視覚化したもの。
Deep Issue:限りなく深いレイヤーにある、本質的なイシューを追い求める様
他人が気付いていない深いレイヤーのイシューを氷山に例え、本質的な問題に立ち向かう様を視覚化したもの。
色味を加えてブラッシュアップ
更に、カラーリングを施し、フィードバックを踏まえたブラッシュアップを続けました。
完成したロゴマーク
上記のプロセスを経て完成したロゴマークが以下です。
「3つの矩形」の「重なり合い」により、「赤く染まった氷山」が形成される様を通じて、「ビジネス×デザイン×エンジニアリングの3領域に特化するメンバーが、BIの3つの行動様式を伴ってコラボレーションしながら、深層課題に向かって狂気的に前進する組織」という意味に結びつけることを目指しています。
ロゴタイプについて
今回、ロゴタイプについての話をしないまま完成形をお見せしましたが、ロゴタイプに込めた意思として、プロダクトロゴと企業ロゴで同じ骨格の書体を用いることで、理念の一貫性という意味を繋ぎたいという狙いがありました。
そのため、プロダクトであるKARTEのロゴタイプのベースフォントとしているGothamを元に調整を掛けたものを企業ロゴのロゴタイプとしています。
具体的には、字幅、重心に対して若干の変更を加え、形状として少しアンバランスになるよう調整しています。
ここには「完全に決まりきらない、バランスしない」という形状を通じて、「不確実さと付き合いながら目的に向かい行動する」という、ロゴマークのモチーフで表せていない最後のキーワードの意味合いをロゴタイプに付与できることを目指しました。
まとめ
成果だけではなく過程を共有することが大切
ロゴマークなどのVIは、意味とつながってなくては機能することはなく、作り終えた成果物だけではなく、それに至った背景や成果物に込めた意味を合わせて伝えることで、共通認識の獲得に繋がるものだなと実感しました。
この2つのロゴマーク刷新の取り組みでは、刷新の目的からプロセス、成果物までを全て全社員が参加する昼会という社内イベントで共有し、更に記事としてまとめています。こうした発信をすることを通じて理解が深まり、認識の強化に繋がることで、理念を体現する行動の総量が増えていくのではと考えています。
以上が、ロゴマークが持つ役割と、それを踏まえ刷新したプレイド企業ロゴの設計プロセスになります。
更に言うと、これで終わりではなく、VIに至っては次々とアップデートされていく組織のありようと変化を捉え、あらゆる施策に定着させていくものだと考えています。
今回のロゴマーク刷新が、組織のありようの全てを表せたかと問われたらそうではなく、そこには「全てを表すことはまだできていない」という、より深層の課題も表されているとも言えます。
事業の進捗や組織の状態の変化を受けながら、「ミッション実現のために本質的に必要なことは何か?」を問い、行動や表現に反映させ続けていく姿勢が求められているように思います。
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