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【開幕記念】なぜヤクルトは最下位予想されるのか (専門家の予想、認知バイアス、投資との違い)

いよいよプロ野球が開幕します。開幕を記念して、いつもとは異なるNoteを書いてみます。

開幕前には順位予想というものが行われますが、なんということでしょう、ヤクルトの最下位予想が後を絶ちません。
なぜこのような予想になるのか、ヤクルトファンのベンチャー投資家として、A. 専門家の予想問題、B. 認知バイアス、C. 投資との違い、という観点から考えていきたいと思います。

ヤクルトの順位予想

まず2020年のヤクルトの順位予想がどうなっているか見てみましょう。

最新のプロ野球解説者の予想(日刊スポーツ2020/6/18)では何と25人中22人が最下位予想、3人が5位予想です。期待値5.88位。むしろ何かがおかしいくらいに圧倒的な支持率です。独裁政権の選挙でしょうか。

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A. 専門家の予想問題

果たして専門家の予想は正しいのでしょうか。2015年ヤクルトが優勝した年の順位予想を見直してみましょう。75人の解説者の順位予想は下記の通りです。なんと、75名中77%の解説者がBクラス予想、優勝の予想に至っては75名中たった1名です。

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専門家の予想が外れるのはプロ野球だけには限りません。New York Postで2015年に各試合の勝敗予想(どちらのチームが勝つか)を専門家が予想した結果の正解率はなんと平均51.6%。正解率が最高の専門家でも55.1%、最低でも48.8%。つまりほとんどコイントスと変わりません

僕がいる投資の世界でも将来予測が外れることは以前Noteで書きましたが、専門家の予想が当たるということはそこまで多くないのです。

B. 予想に潜むバイアス

さて、なぜその中でヤクルトがこれだけ最下位予想になるのか、投資家の観点から考えてみましょう。

投資を行う際の最大の敵の一つはバイアスです。順位予想には多くのバイアスが潜んでいます。

B-1: Confirmation bias + WYSIATI (What you see is all there is) (確証バイアス + 見たものが全てというバイアス)


人間は多く触れた情報を正しいと思い(What you see is all there is)、さらにその正しいという仮説をより高めるような情報をより自分から探すようになります(確証バイアス)。
アメリカでもメディアの分断が起き、見るメディアによって入ってくる情報が完全に異なります。知識層が読むメディアからだけではトランプの勝利など予想できませんでした。
スポーツはそのメディアによる情報の偏りが極めて強いです。デイリースポーツで阪神のニュースばかり(しかも開幕前はどのチームのニュースもポジティブ)見ていると阪神の優勝を疑わなくなります。

一方、ヤクルトのニュースは一般メディアではほぼ見ることがありません。解説者もヤクルトのような不人気球団をチェックする時間はないでしょう。そんな中ヤクルトには逆のWYSIATIとconfirmation biasが働き、ヤクルトの上位予想はなかなか難しくなります。だって山田以外誰がいるか知らないですし。

B-2: Recency bias (最新の情報への偏り)

人間は意思決定の際に最近起きた出来事から多くの影響を受けます。ヤクルトは去年圧倒的な最下位。順位予想は多くのケース去年の順位からはじめます。これは正直仕方ないかなと思います。

ただしヤクルトは過去20年で前年と同じ順位だったことは1度しかありません。この不安定性、それはそれでチームとしてどうかと思います。

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B-3: Social norm (社会的な雰囲気からのバイアス)

人間は社会的な雰囲気やプレッシャーからバイアスを受けます。順位予想でもデイリーや中スポの順位予想を見ると明らかにそのバイアスを感じます。

東海・北陸地方に主な読者を抱える中日スポーツの予想では解説10名に対してAクラス予想は9人(90%)。一方先に紹介した全国向けの日刊スポーツでは25名中Aクラス予想は6名(24%)です。
優勝予想は中日スポーツ解説者30%に対して日刊スポーツは4%

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順位予想で最下位にすると誰かの怒りを買うもの。日本にも数少ないヤクルトファンは、さらに心優しき人種です。そもそもほとんどいないし、最下位にされても大して怒りません。
ここはヤクルトを最下位にして世間の怒りを避けたくなります。極めて賢明な判断だと思います。

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以上、様々な認知バイアスがヤクルトの予想を最下位たらしめています。
監督自らに「質も量も全て劣っている」といわしめる戦力だけが問題ではない、はず、と思う、いやそうだ、そうに違いない。

かくいう僕も野球に関してはバイアスの塊です。僕は日頃仕事で関わりそうなニュースを読みませんが、ヤクルトのニュースは全て見ます(What you see is all there is)。まとめサイトでもヤクルトに都合が悪い記事は読みません(confirmation bias)。

野球に全てのバイアスをぶつけることで、投資の最大の敵であるバイアスや嫉妬が避けられています(はず)。ありがとう、ツバメ速報。

C. 投資との違い

さて、この順位予想には"オッズ"がありません。これが投資との違いです。チャーリーマンガー曰く株式投資はオッズがある競馬のようなもの。これだけヤクルトが最下位に予想される中、もし1位になったならそのオッズは何倍でしょうか、そしてそのオッズがあったならこれだけ多くの人が最下位予想するでしょうか。25名中22名が予想するヤクルトの最下位を当てたとしてもオッズはせいぜい1.1倍でしょう。

投資では皆が正しいと予想していることを当てても価値はありません。Non consensus right (誰もが賛同しないけれど、正しかったこと)こそが投資で最も大切なことです。これだけヤクルトが6位予想をされているなか、あなたの予想は何位ですか?

僕は4位です。

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いよいよ開幕

さあ、いよいよ開幕です。血も繋がっていなければ、会ったこともない男の人たちが野球をする姿を見て、自分の仕事に関わるわけでもないのに、勝手に一喜一憂する最高な日々が戻ってきました。プロ野球ファンの皆さま今年もよろしくお願いします。今年の塩見、梅野、長谷川、清水に注目してください。



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