スタートアップで外国人エンジニア採用を採用するということ
10年ほど前、某大手IT企業が社内を英語化すると発表し、大きな話題となった。日本企業がグローバリゼーションを推進するためにやった大きな決断だ。
その会社の発表を皮切りに続々といろいろな会社で英語化が発表されるようになり、「英語 = 外資系」という固定観念がなくなってきた。
今まで日本語だけで生活してきた人にとって、英語化という言葉の意味は重く、その状況を風刺するかのごとく日本人が奮闘する姿のCMが出されるぐらいだ。
この当時は、英語化ないしはグローバリゼーションなんてまだまだ先の世界と思っていた人も多かった。
ましてや自分らの仕事が日本人以外に奪われるなんて想像だにしていなかっただろう。
しかし、そこから10年経った今はどうだろうか、多くの企業で外国人が働くようになり、外国人がマネージャーとなっている企業も増えてきている。
特にIT業界では、外国人と働くことが当たり前となってきている。
上記カップラーメンのCMが笑い話になっていたのは、とうの昔の話になっているということだ。
エンジニアの世界における英語
今回の話のテーマであるエンジニアの話に移ろう。
もともとエンジニアの世界は、進化し続ける新しい技術に追いつくために、英語は読み書きできて当たり前であった。ある意味、グローバリゼーションが近い世界だったと言える。
例えば、未知のエラーを解決するときは、通常インターネットにある集合知を利用する。そのとき、日本語だけの集合知より、英語を含めた集合知のほうが解決策が多いのは明らかだ。
ただ、エンジニアは英語の読み書きが当たり前の世界にはいるが、昔は仕事で英語を話す必要性はなかった。
では、今はどうだろうか。エンジニアの世界でも優秀な外国人エンジニアたちが日本企業で当たり前のように働くようになり、読み書きだけでなく話すことが当たり前となってきている。
エンジニアの採用も集合知と同じで、日本のマーケットだけに限定せず海外に採用の幅を広げると、採用候補を爆発的に増やすことができるのだ。
競争が激しい業界では、いかに優秀な人材を確保していくかが勝負の鍵となってくるので、海外エンジニアの採用が不可欠になってくる。
スタートアップにおける外国人採用
では、スタートアップにおける外国人採用はどうだろうか。
大手企業とスタートアップでは、企業体力や研修などを支える組織体制も違う。
そのため、スタートアップでは海外エンジニアを採用する余力なんてないと考える人も多い。日本語でコミュニケーションをしたほうが楽だし、社内ドキュメントを英語化する手間なんてかけられない。
確かにそのとおりである。スタートアップはとにかく余力がない事が多い。
せっかく優秀な外国人エンジニアを採用しても、余力がないゆえにコミュニケーションがうまくいかず、すぐ辞めてしまうということにもなりかねない。
実際、コミュニケーションがうまくいかなくて退職するという話は、外国人に限らず、日本人でもよくある話だ。
そして、日本に住んでおり外国人と触れる機会が少なかった我々にとって、外国人のほうが日本人よりコミュニケーションが難しく感じるのは仕方がない。
しかし実際は、コミュニケーションが難しいと感じる背景には、伝える側の勝手な期待と怠慢がある。
仕事で阿吽の呼吸を期待するのは逃げ
人に何かを伝えるとき、相手はこのくらいは理解してくれるだろうと期待して説明を省いてしまうことがある。
つまり、相手が察してくれることを前提に話を進めてしまうということだ。旧来からある「阿吽の呼吸」という言葉が意味するように、一緒に過ごす期間が長ったり、育ってきた環境が近ければ、細かく説明をしなくても通じる。熟年夫婦が「あれ」とか「これ」とか指示語だけでコミュニケーションが成り立つのも阿吽の呼吸の一つである。
そして、仕事においても阿吽の呼吸をベースにコミュニケーションをしてしまうことがある。
その結果、「指示が伝わっていなかった」とか「期待していたアウトプットと違う」という事態が起きてしまい、何度も同じ仕事のやり直しが発生したりする。
このような無駄は、ビジネスの成長を阻害させる要因になりかねない。
そのため、ビジネスの世界においては、曖昧性を回避するためはプロトコルを揃えることが必要不可欠だ。行間を読むような文章がビジネスではNGとなっているのもこれに関連する。
そして、会話のプロトコルを揃えることと同様に、仕事の進め方も「相手が勝手にいい感じにやってくれる」ことを期待するのではなく、プロセスを整える必要がある。
つまるところ、仕事においては、伝わるだろうという期待や説明するのが面倒くさいという怠慢はなくさないといけないのである。
プロトコルやプロセスの整備は、外国人の採用うんぬん以前の問題なのだ。
阿吽の呼吸に期待しない
阿吽の呼吸は文化が違うと全く通じない。
だからこそ、プロトコルを揃えたり、プロセスを整備することがより一層重要となる。
外国人を採用することで、その活動は加速度的に進む。
異文化の人たちと働くと、阿吽の呼吸なしで伝えることの難しさを知り、自分の言葉の曖昧さに気づくことができるからだ。
スタートアップは、気の知れた仲間で一緒に始めることが多く、阿吽の呼吸から抜けきれていないことが多い。
しかし、組織を成長させるためには、新しい文化を取り入れ、プロトコルやプロセスを整える必要がある。
外国のエンジニアを採用の選択肢に入れることは、優秀なエンジニアを獲得できるチャンスが広がるだけでなく、プロトコルやプロセスを一気に作るきっかけにもなる。
しかも、昨今の社会情勢がこの活動の後押しにもなってきている。
コロナの猛威の中、リモートワークが進み、インターネットが繋がっていてかつ時差が大きくなければ、一緒に働く人がどこの国にいても気にならなくなった。
どうせリモートワークから始めるのであれば、外国人エンジニアに日本にすぐに来てもらうのが難しくても、最初から自国で働いてもらうという選択肢も取りやすい。
そして、一回も対面で会ったことがなくても、プロトコルとプロセスさえ整っていれば、一緒に働くのは難しくない。
もし実際に採用してうまく行かなかったのであれば、それはプロトコルとプロセスの整備が十分でないからであり、自分らが解決すべき問題だ。
スタートアップにおいても、外国人エンジニアを採用し、多様性を受け入れることが、成長の一歩となる。
もちろん細かい障害はいくつかあるかもしれないが、だいたいのものは技術が解決してくれる。ドキュメントの英語化は、DeepLやGoogle Translateなどを技術を活用するという手もあるのだ。
できない理由を考えることは簡単だ。しかし、できない理由を考えるより、先のことを考えて、どうやったらできるかを考えるほうがよっぽど生産的である。
エンジニアが不足しており、獲得が難しい今だからこそ、優秀なエンジニアを採用するために、スタートアップも早めに選択肢を広めたほうがよい。
自由度はなくしてはいけない
最後に一つ補足しておきたい。
プロトコルとプロセスを整備することは、厳しいルールを定めるということではない。
厳しいルールに縛られていると自由度が低くなり、仕事で実力を発揮できなくなってしまいかねない。
なので、必要なルールは決めるが、エンジニア自身が自分で決められる部分を多く残しておくという柔軟性は失わないようにしないといけない。
例えば、スクラムでは、3つの作成物と3つのコミットメントが定められているが、それ以外は自由度がかなり高い。
生産性を高く保つためには、主体性を持つために十分な自由度を持った環境にする必要という考えがあるからだ。
どの部分が自由にできて、どの部分がルールとなっているかを切り分けて議論することが大事だ。
最後に
ここまでつらつらと述べてきたのが結局何がいいたかったのかというと、
「スタートアップで外国人エンジニアも採用してよかった」
ということだけである。
組織内で摩擦がまったくなかったわけではないが、確実に開発を前にすすめる原動力になった。
もちろんまだまだ完璧とは言い難く、改善すべきポイントはたくさんある。
しかし、もし私が「エンジニアを採用したい」という相談を受けたら、「海外も視野に入れたほうがいい」というアドバイスをするだろう。
それほどに、多様性を増したことにより得られた恩恵は大きかったといえるからだ。