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画像生成AIにハマった2人の末路

注意:この記事はフィクションです。
Attention! This article is a fiction.

「フォロワー数、アクセス数、リアクションともに伸びていない」
私は焦っていた。
副業で始めているSNSのアカウントが停滞した状態なのだ。
これ以上伸びなければ支援先からの資金がなくなるばかりか、SNSを始めるにあたって買いそろえた機材の返済が滞ってしまう。

「会社の同僚から生成AIのことを聞いたので、試してみようか。」

私は藁にもすがる思いで画像生成AIのアカウントを開設した。

アカウントの開設は思いの他順調だった。
すべて英語だったが、英語は慣れているのでスムーズに進んだ。
アカウント登録後、すぐに使い始めることができた。
自分が生成したい画像を英語で入力すれば生成できるので、便利だと思った。

「ここでフォロワーに映える画像を生成してみよう」
そう思い、私は画像生成AIのサンプルを探した。
面白いスタイルの画像がたくさん並んでいて、目移りしそうだった。
個人的に好きなものも多く、後で見てみたいものがあった。

探していく中で、ある画像に目を移した。
私に似た画像が生成されていたのだ。

「誰が作成したのだろう」

そう思い、私は作成した人にチャットで連絡してみた。

返信は思いの他速く帰ってきた。
ただ、回答が奇妙だった。

ギャラはいらない代わりに、
毎日指定した条件の写真を4枚以上送付すること

ギャラがいらないというのはお金がない私にとってはうれしい。
だが、後半の内容がイマイチ腑に落ちない、というか不気味である。
「こいつ、まさかストーカーなのか」

お金のない中、贅沢は言っていられない事情があり、私は妄想癖からの依頼を受け入れることにした。


「またひとつ、つまらぬものを生成してしまった」
私は自分史上最高傑作の画像を生成した。
他人に公開するためではなく、自己満足のためである。
そもそも、この画像を誰かに公開することはできない。
推しのSNSアカウント管理者からSNS映えする用に入手した写真をもとに画像生成AIで作成したものだからだ。
画像生成AIを無料で使用すると公開されてしまうため、クライアントからの依頼を機に商用利用可能なサブスクリプションサービスに加入した。さらに、誰にも悟られないように隠し場所で生成している。
ただ、それでも過去に生成した画像は隠すことができない。そのため、推しのSNSアカウント管理者から連絡が入る可能性があり、びくびくした毎日を過ごしている。

ある日、推しのSNSアカウント管理者からチャットで連絡が入った。
「いよいよばれてしまったか」
断腸の思いで私はチャットを確認した。

こんにちは。
今日から画像生成AIサービスを始めました。
サンプルを探している中で、私によく似た画像が載っていました。
相談したいことがありますので、折り返し連絡をお待ちしています。

内容を読む限り、ネガティブな内容ではなさそうだ。
ただ、ポジティブな内容というわけでもないので、
様子を探ってみようと思った。
いったいなぜ問い合わせが入ったのだろうか。
今日会社の同僚に生成AIを紹介したからなのだろうか。
今日の出来事を思い出しながら、返信の内容を考えることにした。


「生成AIの活用は便利なのだけれど、面白くないのだよな」
と同僚が言った。
「何でそう思うの」と私は言った。
「生成AIの活用というと、例えば、ビジネスメールのテンプレートを作成したり、議事録や打ち合わせの要約をしたり、企画書や事業計画書のたたき台を作成したり、スプレッドシートの関数の使い方を調査したり、というように仕事でのパフォーマンスを高くする目的でしか使えないのだよね」
私には腑に落ちないところがあったので、同僚に質問することにした。
「パフォーマンスを高くすることができれば時間を有効に活用できるじゃないか。それのどこが不満なの」
「時間を効率化したら私の仕事がAIに奪われてしまう。そうしたら私の存在価値がなくなってしまうよ。どうしたらいいのかわからなくて」
「存在価値って何」と私は尋ねた。
「私はここで仕事をすることで給料をもらい、日々生活している。仕事が奪われてしまったら私はここにいる必要がなくなってしまい、給料がもらえなくなってしまう。そうなってしまったら自動車や住宅のローンが返せなくなって私の人生は終わってしまう」
「生成A Iに仕事が奪われてしまったら、別の仕事を創造するなり転職するなりすれば良いのではないか」と私は尋ねた。
「今からキャリアチェンジをするか、転職しろ、と?そんなことしたら人生が破綻してしまうわ……」

確かに、同僚の言っている不安は理解できる。私も仕事では生成AIの恩恵を受けており、良い面を感じている。
一方で、生成AIによって仕事を奪われてしまう、という不安もある。
私も生成AIを活用していく中で、実際に「この仕事はAIの方が向いていてパフォーマンスが高い」と感じる場面に遭遇する。
だが、生成AIを活用することに大きなメリットを感じている私にとって、
同僚の発言に納得できないところがある。
不安という感情が大きくなってしまい、
見えなくなっているという方が良いのかもしれない。
ただ、この感覚は私も以前体験していたものかもしれない。
生成AIを使っていくうちにわからなくなっていたのかもしれない、と思い、
同僚に質問し、源泉を辿ることにした。

「では、仕事を奪うのが生成AIではなく、私だったら」
「あなただったらどうぞ、お願いします、というかもしれないね」
「では、人間ではどうぞと言えるのに、生成AIには言えないの」
「それは、生成AIが冷たくて怖いから言葉がかけづらいの……」
「なるほど、冷たくて怖いのですね」
「ええ、そうよ。生成AIは冷たくて怖く、何か難しいことを言ってくるイメージがあったから。何か使いづらくて……」

確かに、同僚の言うことは納得できる。生成AIは冷たくてドライな印象がある。チャットで会話しながら使えるようになっていると言いながらも、やはりドライな印象はある。ドライな面が同僚にとっては扱いづらい面があったのかもしれない。

「あなたは生成AIに関してどう思うの」
同僚が尋ねてきた。
「生成AIは冷たくでドライな点は否めないね。ただ、付き合い方を工夫すれば、生成AIは最高の相棒になるよ」
「へぇー、そうなの。どんなふうにすれば良いの」
同僚は関心を持ったようで、前のめりになり私に質問した。
「生成AIを仕事以外の場で活用してみれば良いと思うよ」
「ん」
同僚は疑問に思ったので、私は話を始めることにした。

「インターネットの情報では、生成AIを仕事上の目的で利用することが多いという印象がある。生成AIを仕事で利用するということは良いことなのだが、利用者からすれば人間の仕事を生成AIに置き換える作業に加担しているだけ、のような印象がある。実はこの不安も生成AIがドライな印象を与える一因でもあるのだ」
「言われてみればそうかも。生成AIを使うことは工場の生産ラインのようなイメージしかなく、機械的でドライな印象があると思っていたので」
と同僚はうなずいた。
「仕事を遂行する上ではドライな使い方でも良いかもしれない。だが、使う側からするとずっとドライなまま使っていくことが良いことなのかは疑問だね」
と私は熱を込めて言った。

「確かに。生成AIはドライな印象しかないと思っていたわ。音楽やバラエティ番組のようなもっと人間に寄り添ったジャンルでもできそうだと思うのにね」
と同僚は言った。

「生成AIを実務的な仕事でしか使えない、ということは実際にはなく、生成AIは感情を伴う分野、例えば、エンターテインメントでも十分活用できるよ」
「そうだよね。動画配信サービスで生成AIを活用できると便利で面白くなりそう、と私も思っているから。もしそんなサービスがあったら使いたいね」

「実際、私も生成AIを始めたのは個人で画像生成AIサービスを利用したところから始めていて、画像生成AIを利用した中で培ったノウハウを仕事に活用しているので、いくつかのサービスを組み立てていけば実現できそうな気がするね」

「面白い人生になりそう」

「だから、人生を楽しみたければ生成AIを使ってみることをおすすめしたいね。わずか数分でAIがアウトプットを出してくるから、試してみない手はないね」

「なるほど」

「そして、お気に入りのサービスがあれば、課金してみることもおすすめするね」

「課金か。お金がないからお気に入りのところから課金してみようかしら」

「個人でも生成AIを使ってみれば生成AIのメリット・デメリットがわかるので、生成AIとの向き合い方の距離感が把握できるよ。そして、個人では自分の好きなものを生成すればいいので、自作でエンターテインメントの画像や動画、音楽を作成できるよ」

「自作のエンターテインメントか、楽しみだね」

同僚は生成AIを活用することに興味を持ち、早速始めたようだ。
私は引き続き色々なサービスを活用することを進めた。


「同僚が生成AIに興味を持った、ということなのだろうか」
「そして、推しのSNSアカウント管理者が同僚だったとしたら……」
今日のことを思い出していくうちに、私の妄想は膨らんでいった。
その後、私はチャットの件の相談内容を一度確認することに決めた。
その後、次のように返信した。

 こんにちは。
 チャットの内容を確認しました。
 相談内容に関して一度お伺いしたいと考えています。
 差し支えなければ相談内容を教えてください。

チャットした後、すぐに返信があった。

 ありがとうございます。
 私に似ている上に、私の好みにあっていて一目ぼれしました。
 あなたに画像生成の依頼させていただきたいと考えています。
 ギャラに関しては相談させていただければとおもいます。

推しのSNSアカウント管理者から朗報が来て、私は舞い上がった。

「今日は同僚と会話することができた上に、依頼が来るなんて」

依頼を受けることは決まっていた。
ただ、ギャラをどうするかである。
正直言うと、ギャラはいらないと思っている。
お金の問題というわけではなく、あくまで私の満足の世界で進めたいからだ。
そして、それ以上に私の自己満足の世界を創り上げたいからだ。
私は次のように返信した。

 ありがとうございます。
 仕事を引き受けたいと考えています。
 ギャラはいりませんが、ひとつ条件があります。
 画像生成に使用するため、毎日あなたの写真を4枚以上送ってください。
 どのような写真が必要かは毎日8:00のチャットで連絡します。

その後、次のように返信があった。

 ありがとうございます。わかりました。
 ギャラなしはありがたいです。
 写真は毎日送るようにします。

このようにして、私は生成AIで毎日推しのSNSアカウント管理者の写真を請け負う仕事を受注した。同時に、私の妄想の写真館プロジェクトが始まった。


翌日、私は同僚と会話する機会があった。
無論、生成AIのことである。

「昨日はありがとう。私も画像生成AIデビューを果たしたわ」
「おめでとうございます。画像生成AIで色々楽しんでみてね」
「ありがとう。ただ、私は画像に関して詳しくないの。色々サービスを使いながら覚えていくわ」
「それは世界が広がるね」
「そうね。そういえば、画像を探している中で、私にそっくりな画像を見つけたの。すごく身近な感じがしていて、私のことを知っている人が作ったような感じがしたの。そういうことってある」
同僚が不思議に思っていた。おそらくあのことだろう、と思い、私は答えた。
「色々サービスを活用する中で、推しの人物の写真をもとに生成AIで編集するということは頻繁にされているよ。その中でたまたま似た人物が登場することはあるよ」
「なるほど。よく似た人物は出る可能性があるのね。ありがとう」
同僚は納得した様子だった。

同僚がSNSをしていることを聞きたかったが、これ以上深入りしたいわけではなかったのであえて触れなかった。ただ、今の回答で納得したということは、SNSを運営していることが高いように思えた。おそらくあのチャットを送ってきたのは同僚なのではないか、と思うようになった。


女はお金を貯めるために、妄想癖の強い依頼者に毎日自分の写真を4枚以上送ることになった。SNS映えするようになり、クライアントが付くようになった。お金が貯まってきたので、さらに写真を増やすように男に依頼した。

男は自分の満足のために、依頼者への写真を制作し納品しながら、自分の妄想のための写真を納品分の10倍以上も制作することになった。お金がないので、本業の給料の中からねん出しつつ、まったく興味はないが他の人物の妄想用写真を生成して生計を立てている。

こうして、2人はもう止められない、そして抜け出すことができない画像生成AI活用に進んでいくことになった。


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