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SRHRを本気で考える

注)このnoteは、株式会社ネクイノ代表取締役の石井健一が株式会社ネクイノメンバー向けに書いているnoteです。そのため、使用している用語に通常で使われているものと意味合いが異なる場合があります。

0.はじめに

僕たちは、2018年6月からスマルナというオンライン診察プラットフォームを運営しています。このサービスは主に「ピル」というソリューションをテーマとしてユーザーである消費者と医療者の間に橋をかけていく、というコンセプトでプロジェクトを進めています。そういう僕たちなので、なにぶん「ポジショントーク」的な部分が少なからず含まれていますが、このテーマについては一回自分の頭の中を整理しようと思っていたので、この機会にまとめてみようと思います。

性と生殖に関する健康と権利
(a)すべての個人とカップルが、子どもを産むか産まないか、産むならいつ産むか、何人産むかを自分自身で決めることができること
(b)安全に安心して妊娠・出産ができること
(c)子どもにとって最適な養育ができること
(d)他人の権利を尊重しつつ安全で満足のいく性生活をもてること
(e)ジェンダーに基づく暴力、児童婚、強制婚や、女性性器切除(FGM)などの(f)有害な行為によって傷つけられないこと
(g)強要を受けることなくセクシュアリティを表現できること
(h)誰もが妊娠・出産、家族計画、性感染症、不妊、疾病の予防・診断・治療などの必要なサービスを必要な時に受けられること
JOICFPより引用

1.SRHRとは?

Sexual and Reproductive Health and Rights(性と生殖に関する健康と権利)の略で、1994年にカイロで開催された国際人口開発会議(ICPD/カイロ会議)の「行動計画」により提言されました。
詳しくはJOICFPのHPを見ていただくのが一番ですが、僕なりに少し噛み砕いて解説をしたいと思います。

2.権利?

まず、最初に考えなければいけないこと。これは「権利」である、ということです。「権利」とは

権利を有する者は、原則として権利行使の自由を有する。しかし、その権利行使がある限界を超えて行われ、他人の利益を不当に妨害した場合(ある企業が企業活動の結果、周辺住民に公害を及ぼした場合など)には、それは許されるべきでなく、これを権利の濫用という(民法1条3項)
引用:コトバンク

と言うことで本人がそれの行使を望む場合、権利の濫用に当たらない限りそれを行使して良い、と考えるのが「標準的」です。

でも、残念ながら今の日本において特に生物学的女性側の性と生殖に関する健康と権利、については文化的な背景もあって殆ど充足されていない、って考えるべきじゃないかな、って思ってます。今回は、(a)(b)(c)(d)についてひとつずつ、ケースも交えて書いていきます。

(a)すべての個人とカップルが、子どもを産むか産まないか、産むならいつ産むか、何人産むかを自分自身で決めることができること

結婚式での新郎新婦への質問。
「子どもは何人欲しいですか?」

孫を望む祖父母(親戚含む)から
「子どもはいつ?」

質問の前提が「産む」前提になってます。パートナー間で将来的にどうしていこうか、自分はこう思う、ってコミュニケーションではなく、あくまで「外野」からこう言ったメッセージが送られることそのものがSRHRが社会実装されていない一つ目の根拠。こう言う議論をするときに、「子どもをうめない人に失礼」って論調がでることがあります。そう言った配慮ももちろん大事ですが本当に伝えたいことはそこじゃないです。これは「本人」が決めること、です。

もう一つ。

「子どもができたら結婚したらいい」

これは主に生物学的男性側の意見であることが多いんですが、結婚する=責任を取る、って言う文化を良し、とした時代があったのは事実です。でも、結婚することだけが責任を取ることにはならないし、妊娠してから1年弱の間パートナーの体には変化が起こります。そして、妊娠中には体調の悪化なども当然あるでしょうし、パフォーマンスが低下します。さらに、産後すぐに職場に復帰してバリバリ働くことってものすごく難易度が高く、大切なパートナーのキャリア(これは社会人を想定して書いています)形成に大きな影響を与えること、ここまで考えて「責任を取る」ってなかなか言い切れないと思います。少なくとも僕はそこまで言えません。もちろん、社会人として活躍する意外にそれぞれの方のライフプランや人生があります。そういった本人の希望や未来に大きな影響を与えるようなイベントについて、「結婚して責任を取る」・・・そうじゃなくて、「お互いがその形を望むのであればその未来を一緒に考える」どちらかがそうではない未来を望むのであれば「そうならない未来を一緒に考える」ほうが健全だと思いませんか?

(b)安全に安心して妊娠・出産ができること

僕の主張は一貫して、「日本の医療水準は最高で、世界に誇る」です。日本の妊婦を対象とした制度もそれに準じていて、「あるべき医療に辿り着けた」殆どの人にとって日本は安全に安心して妊娠・出産ができる国であると思います。(参考:妊婦死亡率の国際比較2019)その一方で、

ちょっと古いデータ(2009)ですが妊婦の500人に1人が「未受診妊婦」であったり、予定外妊娠によって誰にも相談できず独りで出産・生まれた子どもを遺棄するような案件も毎年のように発生しています。(このとき、どうして母親側だけが逮捕されるんだろう、と言う点についてはどこかでまた書きたいです)
ですので、日本における妊娠・出産については「医療インフラにたどり着けている人には世界最高水準、一方で何らかの理由で医療インフラへたどり着けない人の存在が大きな課題」と言えるかと思います。

(c)子どもにとって最適な養育ができること

僕にも25年前くらいに高校生だった時代があります。(高校生に限らずですが)多くの高校生にとって、自分やパートナーが妊娠するというシチュエーションは想像しにくいものであり、
①そうならないための知識と相手を大切にする文化の醸成
②万が一そうなってしまった場合にすぐ手を差し伸べられる環境
この2つは(b)の課題を充足させるためにも急いで社会実装しなければならないテーマだと思っています。スマルナが自治体や教育機関と連携して取り組んでいるのもまさにこの領域です。(宣伝みたいになってしまってすみません)

(d)他人の権利を尊重しつつ安全で満足のいく性生活をもてること

この章では
◉セックスの回数・質に問題がある?
◉情報に大きな偏りが存在し、異なった方向に文化が醸成されている?
という点について書きたいと思います。

これは完全に主観ですが、日本ていう国は「人々がセックスをする前提」で社会制度構築がされてないんじゃないかな、って思ってます。僕はあくまで「この領域の専門家」ではありませんので、公開されているデータで少し主張を補完したいと思います。

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引用:デュレックス社の日本語版Webで該当のデータが見つからなかったため社会実情データ語録さんより引用

なんなんでしょう、このハズレ値感。もちろん2006年の報告なので「今と違う」可能性はありますが、それにしても・・・「これは少子化になりますよね」と苦笑しかでない結果。

これももちろん課題なんですが、このnoteで伝えたいのは「他人の権利を尊重する」って部分で、この課題って多分性差の問題(生物学的男性が悪い、同女性が悪い)っていう単純な話ではなくて、脈々と日本において大事にされてきた価値観とか文化に準ずるものをメジャーアップデートしないといけない時期にしてるんだろうな、と思います。

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性交(セックス)についての知識の入手方法(複数回答)
出典:日本性教育協会「青少年の性行動」(2006年)n=2,179
保体編集部ONLINEさんより引用

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性交(セックス)についての知識の入手方法(複数回答)
出典:日本性教育協会「青少年の性行動」(2018年)n=4,276
保体編集部ONLINEさんより引用

12年の差分で変わった点・変わらなかった点
◉変わった点
学校(先生、授業や教科書)の重要度が増えている
インターネットやアプリ・SNSからの情報取集が増えている
◉変わらない点
友人や先輩からの情報、男性はアダルト動画からの情報収集比率が高い

などの点がデータとして上がっています。とはいえ、インターネットやSNS、学校などにおいても少しずつ「学ばなければ」という雰囲気の変化が見られているようで、セックスが「ない」前提の社会から「ある」前提の社会へ少しずつ地殻変動が起こってきているのかも知れませんね。

3.ここまでのまとめ

SRHR=性と生殖に関する健康と権利とその実現について僕はまだまだ勉強の入り口に立ったに過ぎません。この領域の問題解決に10年単位で関わっておられる方もたくさんいらっしゃる中で、僕の見えている世界の中で少し考えをまとめてみました。

一つだけ、強く主張したいのは「日本は遅れている」という悲観論に立って戦略を立てる、という立ち位置は僕の主張とは異なっていて、日本は「ヘルスケア」という大きな社会課題を解決するために、その戦術としてこの領域が(たまたま)後回しになってきた、というのが言語化すると一番しっくりきます。
他のヘルスケア領域における課題解決と同じように、課題としてしっかり定義し、必要なリソースを投下していけば必ずこの課題の解決に最短距離で向かえると信じていますし、その課題の解決に向けて微力ながら自分も積極的に関わっていきたいな、と思っています。

ということで、文字数も多くなってきたので、(e)から(h)についてはまたどこかで書いてみようかな、と思っています。

2021年11月18日
株式会社ネクイノ
代表取締役 いしけん

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