アナリストとして大切にしていたこと

私がアナリストとして大切にしていたこと

プロ野球におけるアナリストの役割は年々重要になっています。しかし、データを分析するだけで現場の信頼を得たり、意思決定を支援したりするのは簡単なことではありません。この記事では、私がこれまでアナリストとして意識してきたことや、現場で学んだ経験から得た視点をお伝えします。あくまで私個人の考えや経験に基づくものですが、少しでも参考になれば嬉しいです。


1. 正しい問題を見つける

データ活用の出発点は、正しい問題を見極めることにあります。これを私は「DDARサイクル」の最初のステップである"Discover"と呼んでいます。この段階では、解決すべき課題を的確に特定することが最も重要です。

アナリストの分析フロー(筆者作)

現場には多くの課題が存在しますが、そのすべてを解決するのは非現実的です。限られたリソースの中で、どの問題に取り組むべきかを優先順位付けする必要があります。例えば、選手起用に関する相談が来たとき、その問いの背景にある「なぜその選択肢で迷っているのか」を掘り下げて考えるようにしていました。選手の能力比較だけでは見えない本質的な課題を見つけることが、最良の解決策につながります。


2. データは手段、目的ではない

「データは手段であって目的ではない」。これが私が常に意識していた基本的な考え方です。現場でデータを使ってもらうためには、その価値を実感してもらう必要があります。そのため、私はデータを分析結果として提供するだけでなく、具体的な行動に結びつける工夫を大切にしてきました。

例えば、試合後のフィードバックを視覚的にわかりやすく提供することで、データの影響を実感してもらう機会を作りました。このような成功体験を積み重ねることで、データへの信頼を築くことができたと感じています。


3. 現場とデータの橋渡し

現場(選手、監督、コーチ)とのギャップを埋めることは、私が最も重視していたポイントの一つです。データリテラシーやニーズは人によって異なるため、相手が何を求めているのかを的確に把握することが重要でした。

例えば、選手には具体的な改善提案を、監督には試合全体の傾向や戦術に関するデータを提供するなど、相手の視点に立ったアプローチを心がけていました。データは「現場にとってわかりやすい形」で提供されるべきだと強く感じています。


4. 事実に向き合い、心に寄り添う

データは客観的で冷静なものである一方、現場で使うのは感情を持つ人間です。データの結果が厳しい内容であっても、それをどう伝えるかによって相手の受け止め方は大きく変わります。

私はデータを伝える際、相手の気持ちや状況に配慮するよう努めてきました。たとえば、選手のデータに課題がある場合でも、「このデータをどう捉えますか?」と問いかけることで、相手が主体的に考え、前向きな行動につながるよう心がけていました。選手やコーチの経験や感性を尊重しながら、どのようにデータを提供するか、データを押し付けるのではなく、選手の強みを引き出す支援を心がけていました。


5. アナリストとしての責任と覚悟を持つ

アナリストの仕事は、重大な意思決定に関わることが多く、責任が伴います。その影響を理解し、結果に向き合う覚悟を持つことが大切だと感じています。

特に印象に残っているのは、ある投手の起用方法に関する判断に関与したときの経験です。その決断が選手やチームに与える影響を慎重に考え、結果が思わしくなかった場合でも振り返りを怠らず、次に活かす努力を続けてきました。


6. アナリストチームが模範となる

アナリストチームが現場の模範となる姿勢を持つことは、信頼関係を築く上で非常に重要です。透明性の高い業務フローや効率的なデータ管理、積極的なコミュニケーションを通じて、信頼される存在となることを目指していました。

また、常に学び続け、最新の技術や知識を取り入れる姿勢を示すことで、データ活用の文化をチーム内に醸成していく努力も続けてきました。


「ヒトをかしこくする」という目標

私がアナリストとして目指していたのは、「ヒトをかしこくする」ことです。「ヒトをかしこくする」という目標は、単に選手やスタッフがデータを使いこなすだけでなく、意思決定の質を向上させ、チーム全体が成長する文化を作り出すことにあります。アナリストとしてデータを提供する際には、この目標を念頭に置き、相手が自ら成長できるようなサポートを常に意識していました。データを使って選手やスタッフが自ら意思決定を行い、より良いパフォーマンスを発揮できるようになることが、私の仕事の本質だと考えています。


まとめ

この記事では、私がアナリストとして大切にしてきた視点をお伝えしました。データは単なるツールであり、それを活かすかどうかは人の関わり方次第です。だからこそ、信頼関係を築き、共通の目標に向かって歩む姿勢が重要だと感じています。

データを活用することに興味がある方や、現場での課題に向き合う方々に、この内容が何かしらのヒントやきっかけを提供できれば幸いです。


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