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緩やかな日常 (2021年7月30日「週刊金曜日」掲載)
— 以下の記事は2021年7月30日発売の「週刊金曜日」に書いたものです。—
緩やかな日常
静岡県沼津市、伊豆半島の付け根。目の前が海で裏手はすぐ山という自然豊かな場所に、ひっそりと存在する一日一組限定のキャンプ場がある。晴れた日は海の向こうに大きな富士山が顔を見せる。
夫婦と犬一匹、烏骨鶏数羽。昨年5月から土地をならし作り始め、地に根を張った手作りの生活をしながらゆっくりと営んでいる。廃バスを利用したレトロなバーも併設している。
宣伝をして客足を求めることはせず、あくまで「自分たちのペースで」と夫婦が言っていたのが印象的だった。それは最近のキャンプブームで密になりがちな、レジャー目的だけのキャンプ場ではないということだ。
ドラム缶風呂、バイオトイレ、計画中のサウナやツリーハウス。環境や生態系を意識し、やれることはすべて自分たちで行っている。DIYに裏付けされた「自然の暮らし」から作るキャンプ場は、それゆえに毎日が素朴で新鮮だ。
一日一組限定の客は、このプライベートな空間で、自らの新しい一日と、悠久なる時間を同時に過ごすことになるだろう。そして此処の夫婦の穏やかな雰囲気と、海と山の恩恵の余韻に浸りつつ、自らの日常に帰っていくのだろう。
のぐちけんご 写真家
The Old Bus 森のキャンプベースにて (2021年5月26日) https://theoldbus.net