【現地レポート】リモートワーク禁止、CSに10時間…「不合理」だが「合理的」なザッポスの組織づくり。
10月1日から10月4日まで、ラスベガスで開催されたHRテックカンファレンスに参加してきました。HRテックの最先端の知見が集まる場所で、毎年たくさんの学びがあります。
カンファレンスのレポートはこちらにまとめました!
昨年に引き続きザッポスへ
そして、昨年に続きラスベガスに本社があるザッポスに行ってきました。
↑ オフィスに入るとハロウィン仕様のデコレーションが
ザッポスと言えば、カスタマーサポートのクオリティが桁違いに高いことで有名です。社員が「たまたま靴の販売業を営んでいるに過ぎない『サービスカンパニー』」と答えるレベル。
そして、質の高いカスタマーサポートの源泉は「組織文化(カルチャー)」にあることでも知られています。
今回訪問して感じたのは、一見「なぜ?」と思えるような不合理な取り組みをしているということ。
しかしお話を伺うと、彼らのミッションの達成のためには合理的な取り組みだったのです。もう、惚れ惚れするくらいミッションドリブンな会社だなと感じました。
ザッポスはもはや「家族」
広大な土地に、まさに大学のキャンパスのようなオフィス。
ザッポスは、もはや会社じゃなくて「家族」なんじゃないかと感じるくらいです。
社員はめっちゃハグしてるし、社員が600人くらいいてもほとんど名前を覚えているという。すごいです。
オフィスを見てみると、恐竜が出迎えてくれました(笑)。
デスクは固定制。そして、デコレーションが自由にできるようになっています。アイドルのポスターを貼ってあったりします。
まさに、家にいるときの自分をそのまま持ってこれるような環境。
物理的なアプローチですが、心理的安全性を高めているんじゃないかなぁと感じました。
それから、福利厚生もすごいです。もちろん食堂があって、スープ・野菜・飲み物が無料。水族館みたいな仮眠室やマッサージ室、ジムもあります。ホワイトニングの費用まで会社が出してくれるとか…やっぱり、IT企業は人材の引き抜き合いなので、手厚いサポートがされているなと。
↑ シアタールーム
ここで、インターンの入社式などが行われます。
そもそも、アメリカの会社のオフィスって敷地が広大なので、社外にランチに行ったりするのって難しいんですよね。オフィス内ですべて完結できるようにすることで、結果として時間短縮になるし、社内の他部門のメンバーと会えるというメリットもあるので、投資対効果が高いと判断されているみたいです。
すべては ”To live and deliver wow!” のために
” To live and deliver wow! ”
これはザッポスのミッションです。
全ての施策が ”To live and deliver wow!” に紐づいています。
ミッションが、ザッポスの核となる「Why」になっているのです。
このミッションが社員に浸透することで、社員は幸せになることができるし、顧客に最高のサービスを提供することができる。
「EX(Employee Experience)からUX(User Experience)へ」
なんて言われたりします。
そして、社長が社員全員にメールでヒアリングを行い、「ザッポスらしさ」をコア・バリューとして具現化。10個にまとめています。
ザッポスのコア・バリュー
(出典:https://www.zapposinsights.com/about/core-values)
ミッションやバリューが浸透しているなと感じさせるエピソードで印象的だったのは、カスタマーサクセスの話。
顧客のたわいもない世間話に耳を傾けたり、10時間の電話対応という最長記録があるとか。普通ならありえないですよね。でも、ザッポスにとっては重要なことなのです。
顧客のためなら何でもやっていい雰囲気が根付いています。
↑ "Longest Zappos call was 10 hours"
(カスタマーサポート最長時間は10時間!)
時代の流れに逆行する「リモートワーク禁止」
先進的な組織づくりをしているザッポスがリモートワークを禁止していると聞いた時、正直驚きました。
しかし、”To live and deliver wow!” の浸透が最優先事項であるザッポスにとって、リモートワークを禁止することが極めて合理的な判断なのです。
テクノロジーの進化によって物理的な距離の壁が簡単に超えられるようになったとはいえ、対面でコミュニケーションを取ることによってしか得られないものがある。
まるで「家族」のようなザッポスにとって、直接会って話したり仕事をすることほど重要なことはないのだと思います。
リモートワークをすることが目的になってはいけなくて、例えば主婦が参画できるように、とか、遠方のメンバーが参画できるように、という目的があれば良いですが。
ザッポスにとっては、カルチャーを維持することが目的(Why)なので、リモートワークを禁止することは合理的な判断なのです。
カルチャー維持のための「入口」と「出口」の設計
仕組みの面でも、カルチャーを維持するための工夫が見て取れます。
「入口」、つまり採用の部分では2つ。
ひとつは入社前に1か月のインターン期間を設けること。
もう一つは、「能力採用」と「バリュー採用」の2つのプロセスを用意していることです。
面接だけでは図れない部分、カルチャーに本当にフィットするのかを確かめるためにインターン期間を設ける(もちろん給与は発生しています)。
そして、その後の採用フェーズでは、ただ優秀であるだけで採用することはなく、「バリュー採用」でカルチャーにフィットしていると判断された人のみ、ザッポスの一員として迎え入れられるのです。
↑「ジュラシックパーク」がコンセプトのルーム。
「能力」と「バリュー」、2つの採用をくぐり抜けたものしか、このルームでカスタマーサポートを行うことは許されない。
そして「出口」の部分では、退職時に2か月分の給与を支払うことになっています。通常の会社では2週間分くらいが平均の中で、2か月は破格です。
これによって入社してもしカルチャーに合わないなと感じた人が気後れすることなく辞められるようになります。「バックドアを用意する」と表現されていたりします。
ザッポスは、「合わないなら辞めていいよ」というスタンスなんです。
こんな形で「入口」と「出口」を設計して、カルチャーが維持される仕組みを作っているんです。
一見不合理でも”Why”に沿っていれば合理的
ザッポスの取り組みを聞きながら、スターバックスの戦略を思い出していました。
スタバは直営店方式を採用しています。通常、フランチャイズだとリスクが大きく避けられる。
それでもなぜ直営店方式を採用しているのか?
それも、スタバにとっての”Why”に沿った選択だからです。
彼らの”Why”は、広く知られているように「3rd place」。
家でも職場でもない、第3のくつろげる場所を作ることが、彼らの”Why”です。
スターバックスのミッション:
「人々の心を豊かで活力あるものにするために—
ひとりのお客様、1杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」
(出典:https://www.starbucks.com/about-us/company-information/mission-statement)
そう考えると、直営店をとして運営することで、各店舗は自立して価値を出さなければならなくなります。”3rd place”の実現を主体的に目指すようになります。
この選択が、あれだけスケールさせても接客の質が落とさず”3rd place”を実現させている一番の理由だと思います。
スケールさせるには不合理だが、”3rd place”の実現には合理的なのだと思います。
その組織にとっての”Why”に沿って戦略が決定する。
名著『ストーリーとしての競争戦略』でも重視されていました。
リモートワークを禁止したり、破格の退職金を提供したり…一見不合理にも見えるザッポスの取り組み。
しかし、ザッポスの中核を成す ”To live and deliver wow!” を実現するという”Why”。これに沿って”How”も”What”も決められている。
彼らにとって、自分たちの”Why”に沿っているから、合理的なんだと思います。
だからこそ、最高のカスタマーサポートが実現されているのだなぁと、痛感しました。
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