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瞬間がほどけるまで

 雨上がりの街角で、誰かが水たまりをひょいと飛び越える。その姿は一瞬だけ宙に浮き、次の瞬間には消えてしまう。けれど、アンリ・カルティエ=ブレッソンの写真には、そのかけがえのない一瞬がきれいに焼き付けられていて、何度見ても不思議と胸の奥が疼く。あと少しシャッターが遅れていたら水しぶきしか写らないし、逆に少し早かったら踵が地面を離れる前だったかもしれない。その刹那がそこにあるのは、たぶん奇跡でもあり、撮る人の深い集中でもある。

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