王様がきつい王様ゲーム
ある落語家に聞いた話。有名な落語家がイベントに呼ばれていたが、個人的な都合で当日キャンセルしたのだそうだ。しかし後日、興行主に出演料の請求書を送ってきたという。
普通の感覚なら「仕事もしていないのに、なんと非常識な」だろう。その話をしてくれた落語家も「師匠の破天荒エピソード」として披露したのだから、一般人が呆れることを想定していたはずだ。しかし、少しでも興業というものに関わったことがある身としては、分からなくはない話である。
芸能人を呼ぶというのは、本来それなりに功成り名遂げた者の「遊び」である。「遊び」は今風に言えば「王様ゲーム」だろうか。王様の命令はぜったーい。その代わり、王様は芸能人の生活の面倒一切を見てやる。どんなわがままでもきいてやる。これは「小金持ち」レベルだと王様のほうがしんどい。だからこその王様なのだ。大名や豪商が絵師や武芸者を召し抱えていた感覚の名残りだろう。興業の世界はまだそれが生きている。
芸能人ばかりではない、スポーツも似たところがある。以前勤めた会社の社長はボクシングが好きだった。ひいきのボクサーの試合のチケットを社員に配り、僕も試合観戦に行かされた。驚いたのは、試合の翌日、そのボクサーが腫れた顔でお礼を言いに会社に来るのである。会社の忘年会に来てくれたこともある。プロスポーツは金がかかる。ボクサーはスポンサーに「俺が電話一本かければボクシングの〇〇が飛んでくる」と言う権利を与えることで、面倒を見てもらっている。そのルールを理解することが、スポンサーなりタニマチになる資格と言えよう。それじゃ金持ちのペットじゃないか、と眉をしかめた当時の僕は子供だった。
ちなみに、その会社は社長のひいきボクサーのホームページを作ったのだが、お金を払ってもらえず社長はプリプリ怒っていた。これは社長が間違っている。欲しいものを何でも買ってやるくらいのことができなければ、一回や二回チケットを買ったくらいでスポンサー面をするなということだ。
相撲取りがなじみの店で飲み食いしても、お金は一円も払わない。請求書はスポンサーのところに届く。その中身を見ずに払ってやる。それを嬉しいくらいに思えないとタニマチとは言えない。
もしかしたら近々興業の世界に戻るかもしれない。そう考えていたら昔のことを思い出した。あ、画像はイメージです。念のため。