~今でも、心に残るお店~ 入店しなかったレストラン
2018年のフランス旅行でのこと。
その日は、晴れた日曜日で、パリマラソンの開催日でもあった。
渡仏前からこの事は知っていたので、この日は、パリを離れ、交通機関に慣れるためにも少し遠くに出掛けようと思っていた。
向かったのは、パリから西に約20キロに
位置する高級住宅街サンジェルマン=アン=レーという町だ。
その町には、某ブログで知ったパティスリーがある。
僕は、そこに行きたかった。
しかし、話したいのはこのお店のことではない。
サンジェルマン=アン=レーに着いた僕は、とりあえず、ランチを食べようと事前に調べていたレストランに向かうことにした。
予約はしていない。
ちゃんと、サンジェルマン=アン=レーに到着できるか不安だったからだ。
歩くこと15分位だっただろうか、晴天の下、閑静な住宅街を通り抜けると目的のフランス料理屋があった。
そのお店は、ホテルに併設されたフランス料理屋であった。
恐る恐るホテルの門をくぐり庭を進んだ。
日本の都心にあるホテルとは違い、緑に囲まれたホテルだった。
しばらく歩くと、レストランの入り口が見えてきた。
どうやらこの日は結婚式があったようで、新郎新婦を祝おうといろんな人達が庭に集まっていた。
店先にあったメニューを覗き込んだ。
しかし、ぴんとこない。
メニューがわからないわけではなかった。
いまいち食べたいと思うメニューではなかったのだ。
せっかくここまで来たのだから入ろうか、それとも、このお金で、パリ市内で美味しいのもを食べることにしようか迷った。
僕は、パリ市内で美味しいものを食べることを選択した。
さらに、奥に歩いて行くと、おそらく、ホテルの敷地内ではない丘の上に出た。
ホテルも、この丘の上に立っていた。
そこからは、パリ近郊の街、ラ・デファンスの高層ビル群がうっすらと見えた。
素晴らしい景色だった。
しかし、僕は、その時、このレストランに入らなかったことを、今になって、後悔するとは思いもしていなかった。
自分好みのメニューではなかったが、あの景色を見ながら優雅にランチを食べるという経験をしておくべきだったと後悔しているのである。
パリには美味しいものもあったし、カフェ利用だけだったがいいホテルの雰囲気も味わえた。
でも、あの時レストランに入っていたら体験できたであろう優雅な時間とあの素晴らしい景色はなかったのである。
あの日の太陽の暖かさ、風の感触、会話や食器などの音はそこでしか得られない体験である。
このフランス旅行のテーマは、美味しいものを食べることだった。
僕は、全くと言っていいほど、美味しさ以外の価値というものに目が向いていなかったのだ。
2年が経ち、僕の価値観は、大きくか小さくかは自分でもわからないが、確実に変わった。
だから、今、このレストランに入らなかったことを後悔しているのである。
それと共に、もう一度行けばいいと、ラ・デファンスの高層ビル群より高く思いを馳せているのである。
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