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嘘のような本当の話

ふと仕事している時になぜか昔の記憶が蘇った。うちの親父のことである。
 親父は長いことどこかの建築会社に勤めていて僕が高校くらいの時に◯◯建装という会社を立ち上げた。それを記念して旧知の仕事仲間を呼んで家でささやかなパーティを催した。僕もそれに無理やり参加させられたが一通り盛り上がってきたところで親父が渡したいものがある、とのことで仕事仲間全員に自分の会社の名前の入ったカレンダーを渡した。
 「どうだ、見てみろ」と言わんばかりの顔をしていたので1人の仕事仲間が見た瞬間、その人の顔がこわばった。
 空気の読めない親父が「よくできたカレンダーだろ、みんなも見てみろ」と全員に見せた。


 AV女優のヌードカレンダーだった。

 妹は大急ぎで部屋に戻った
 夫婦で参加していた人は親父に目を合わせないようにしていた。
 全員苦笑いすら放棄して呆れていた
 母親がもう居なかったのがその時だけは親父にとって幸せだったと思う

 僕はというと今までの人生を振り返りこんな人に「ゲームばっかりすると頭が悪くなる」と言われてゲームを壊されバラエティ番組やアニメを一切遮断されたんだ、と思うと腹が立ってきた。僕も「バカじゃねーの?」だけ言って部屋へと戻った。

 次の日、なぜか昨日の記憶がすっぽり抜けていた。もちろん夢ではない。現実だ。その証拠に余ったヌードカレンダーが段ボールに入っていた。もちろん僕と妹は完全スルーだ

 信じられないことに今の今までこんな誰かに話さざるをえないネタをずっと忘れていたのである。

 厳格な親父のとんでもない醜態をさらされてショックを受けたのだろうか。妹とすらその話は一回も話したことがない。もちろんあれから20年経ったが誰にもその話をしたことがない。

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