【速報】2024年度一級建築士試験の合格率に関するまとめと考察
令和6年12月25日、国土交通省および(公財)建築技術教育普及センターより、2024年度(令和6年度)一級建築士試験「設計製図の試験」の合格発表がありました。
結果は合格者数3,010人、合格率26.6%と例年よりやや厳しめの水準でした。
さらに、学科試験から受験した方・製図試験のみ受験した方すべてを合わせた総合合格率は8.8%と、昨年(令和5年)の9.9%を下回る大変狭き門となりました。
この記事では、この最新の公式データをもとに、学科・製図試験の結果概要から合格者の属性、さらには学校別合格者数などを整理しながら、一級建築士試験の難易度や動向について考察します。
これから受験される方や建築士を目指している方にとって、参考になれば幸いです。
1. 今年度の試験実施概要
◇ 学科の試験
試験日:令和6年7月28日(日)
実受験者数:28,067人
合格者数:6,531人
合格率:23.3%
◇ 設計製図の試験
試験日:令和6年10月13日(日)
実受験者数:11,306人
合格者数:3,010人
合格率:26.6%
◇ 総合合格率は8.8%
総合実受験者数(学科から受験+製図のみ受験):34,237人
総合合格者数:3,010人
総合合格率:8.8%
ここ数年、総合合格率が10%前後で推移しており、令和5年は9.9%でしたが、令和6年は8.8%とさらに低下しました。
国土交通省の公表によると、設計製図の試験ではランクIV(重大な不適合)の受験者が48%を占めるなど、図面・計画の不備や法規違反が目立ったようです。
2. 設計製図の試験:合格基準と採点結果
公式発表によれば、設計製図の試験は「与えられた内容・条件を充たす建築物を計画・設計する知識・技能」が問われ、ランクⅠ〜Ⅳの4段階で判定されます。
ランクⅠ:知識・技能が充分にあり、設計条件等を満たしている(→合格)
ランクⅡ:知識・技能が不足
ランクⅢ:知識・技能が著しく不足
ランクⅣ:設計条件や要求図面等で重大な不適合(階段不成立・要求室の漏れ・法規違反など)
令和6年度は、
ランクⅠ:26.6%
ランクⅡ:1.5%
ランクⅢ:23.9%
ランクⅣ:48.0%
なんと半数近く(48.0%)がランクⅣとなっています。課題文の要求条件を満たしていなかったり、延焼ライン・道路高さ制限など法規の扱いを誤ったりといった失格要因が多かったようです。
3. 直近5年間の推移と今年の特徴
ここ5年ほどの「設計製図の試験」の合格率は30%台前後で推移していましたが、今年(令和6年)は26.6%と近年でもやや低めです。
一方、学科試験は23.3%と比較的高め。総合すると合格率が約8.8%に落ち着き、「学科突破はできても、製図試験が難関だった」という印象を与えています。
令和2年:製図合格率34.4%、総合合格率10.6%
令和3年:製図合格率35.9%、総合合格率9.9%
令和4年:製図合格率33.0%、総合合格率9.9%
令和5年:製図合格率33.2%、総合合格率9.9%
令和6年:製図合格率26.6%、総合合格率8.8%
4. 合格者の属性:若年化がさらに進む
今年度の合格者3,010人の属性は以下のとおりです。
◇ 平均年齢は29.0歳
23歳以下:12.1%
24〜26歳:33.9%
27〜29歳:21.7%
30〜34歳:16.9%
35〜39歳:7.4%
40歳以上:8.1%
特に24〜26歳が全体の3割超を占めており、昨年(平均29.5歳)からさらに若年化。今後も「実務経験を待たずに受験可能となる新制度」の影響で、20代前半〜後半の合格者が増える傾向は続きそうです。
◇ 従来制度 vs. 新制度
従来制度で受験可能な方:63.3%(平均年齢31.1歳)
新制度で受験可能となった方:36.7%(平均年齢25.4歳)
実務経験要件が緩和され、早期にチャレンジできる環境が整備されたことが、この数字に表れています。
◇ 学歴・資格別
大学:74.6%
専修学校:5.0%
二級建築士:15.8%
建築設備士:1.1%
ほか 短大・高専・無回答など
5. 学校別合格者数ランキング(10人以上)
「学歴を受験資格として申し込んだ者のみ」を対象とした学校別合格者数が公表されました。(二級建築士等を資格要件で受験した者は除外)トップ10の一例は次のとおりです。
日本大学:142人
東京理科大学:103人
近畿大学:92人
芝浦工業大学:84人
早稲田大学:66人
工学院大学:61人
神戸大学:54人
明治大学:52人
名古屋工業大学:45人
法政大学:43人
このように受験者数が多い大規模大学が上位を占めていますが、注意すべきはあくまで「合格者数」のみであること。
在学生数や実際の受験者数が公表されていないため、学校ごとの“合格率”を正確には算出できません。
それでも“どの大学出身者が多く合格しているか”の動向を見る上では、興味深いデータといえます。
あなたの学校はランクインしていましたか?僕は8位でした。
6. 製図試験合格のためのポイント
今回の試験では、ランクⅣが48%と突出しており、下記のような重大な不適合が落とし穴となっています。
要求室・施設の計画漏れ(製図室・研究室・講堂・車椅子使用者用駐車場など)
階段の不成立・上下階の不整合
延焼ラインや道路高さ制限など法規への重大な不適合
面積表や計画の要点等が未完成
具体的な対策例
課題文を徹底的に分析
要求室の名称や必要面積、特記事項、延焼ラインへの対処など、エスキス終了時、図面完成後にも細部をマーカーを使いながら確認。
ゾーニングや動線の整合性を早い段階で決める
課題文の要求事項と法規を頭に入れつつ、プランが大きく破綻しないようゾーニングを設計。数多くの課題をこなし、自分の中でパターンを作っておくと本番で応用しやすいです。そのため、試験前にはこれまでに解いた課題を見直し、パターンを頭に入れておくと良いです。
図面上での整合チェックを習慣化
上下階の階段やエレベーター位置、面積表の数値とプランに食い違いがないか、エスキス終了時、図面完成後に繰り返し確認。
作図速度+正確さ
ランクⅣ回避のためには、制限時間内にすべての図面・要点を漏れなく描ききる作業力が鍵。
7. 今後の展望とまとめ
◇ 狭き門ではあるが、若者が増加
令和6年度の総合合格率は8.8%と、ここ5年間で最も低い水準に。しかし、新制度で受験できる若年層が増え、平均年齢は過去最年少クラスの29.0歳に若返りました。
一級建築士を早期に取得し、キャリアアップへつなげる動きが、今後も進みそうです。
◇ 製図試験は「重大不適合」の回避が鍵
今年はランクⅣが48%を占めるという結果に。課題文の条件整理・法規の周知不足が大きな敗因と考えられます。
ちょっとした見落としが合否を大きく左右するため、入念な事前準備と確認が欠かせません。
◇ 学校別合格者数の見方
公表されているのは“合格者数”であり、“合格率”ではありません。受験者数や在学生数・既卒者数の把握が難しく、どの学校が実際に“合格率が高い”のかは判断できない点に留意が必要です。
ただし「例年合格者数が多い大学は、OB・OGも含めて受験者が多い」「試験に挑戦する文化があるかどうか」などの傾向を推測する材料にはなります。
おわりに
2024年度(令和6年度)の一級建築士試験は、製図試験で合格率26.6%、総合合格率8.8%という厳しい結果となりました。
新制度の影響で受験者層が若年化する一方、図面の不備や法規違反によるランクⅣが約半数に上るなど、製図試験の壁は依然として高いものです。
とはいえ、一級建築士資格の取得は、建築分野でのスキルアップとキャリアの大きな転換点になるのも事実。
受験を検討している方は、早めの学習計画や課題演習を通じて着実に合格に近づいていきましょう。
この記事が、少しでも皆さんの参考になれば幸いです。
参考リンク
合格・不合格の通知や個別の成績については、(公財)建築技術教育普及センターの一級建築士試験専用ダイヤルにお問い合わせください。本記事は公式発表をもとに執筆したものであり、個別の評価内容に対する回答は行っておりません。