見出し画像

SFプロット:コンパクトハウスの秘密計画

コンパクトハウス


第一章:未来の住まい

人類が資源効率を重視するようになった近未来、富裕層のライフスタイルは劇的に変化していた。かつてはステータスシンボルだった豪邸は、維持費と無駄の象徴とされ、売り払われることが増えた。その代わりに流行したのが、最新テクノロジーを駆使した「コンパクトハウス」だ。

コンパクトハウスは完全な自律型居住システムを持ち、既存インフラから切り離されても100年は生活可能。大型ドローンで好きな場所に輸送でき、地上、海上、さらには地下にも設置できる万能な居住空間である。また引っ越しやバケーションの際も、住人が中にいるまま安全・高速に移動できる。

須藤亮介(35歳)は、コンパクトハウスメーカー「アーク・リビング」の技術者だ。彼の主な仕事は、工場で生産されたコンパクトハウスを顧客指定の地点にスムーズに輸送する段取りを組むこと。しかし、ほとんどの工程はAIにより自動化されており、彼の出番はイレギュラーな事態が発生したときのみ。

「また今日も暇か…」
亮介は、職場のデスクでつぶやいた。


第二章:最適化への挑戦

亮介は暇を持て余し、システムの改善に手を出し始めた。彼の興味は輸送経路の効率化。現行のAIロジックはすでに完成度が高く、無駄がほとんどない。しかし、亮介はあえてそこに手を加えようとした。

「あまり使われていない空き地を輸送で一時的に利用すれば、コストをさらに削減できるかもしれない」

過去の輸送履歴をAIに解析させると、一定の条件下で利用可能な中継地点が浮かび上がった。亮介はそれを地図にマッピングさせ、次に各地点の利用状況を詳しく分析する。

「ここだ…! この空き地は適していそうだ」

空き地の中には、頻繁に利用されているものもあれば、一時的にしか使用されないものもあった。亮介は慎重に条件を設定し、利用可能な場所をリストアップした。しかし、それらの地点を地図で眺めているうちに、奇妙な既視感に襲われた。


第三章:三角形の謎

亮介はリストアップした空き地をさらに詳しく調べるため、AIにそれらを地図上で視覚化させた。そして、既視感の理由が分かった。空き地の点在パターンは、自社の工場と顧客指定の配送先をつなぐパターンに似ていたのだ。工場と顧客指定の配送先を繋ぐ多数の三角形の中心付近に、それらの空き地が存在していることに気づいた。

「偶然なのか…?いや、そんなはずはない。空き地の所有者は工場と顧客指定の配送先の位置関係を知らないはずだ」

彼はさらに調査を進め、各三角形の中心付近にある施設の共通性を調べた。そこに共通にあったのは、自社の超大型ドローンの発着基地だった。

「工場と顧客指定地を繋ぐドローン基地…これは分かる。だが、なぜ空き地が関連しているんだ?」

亮介は当惑しながらも解析を続け、空き地の殆どには低価格に見える物資が断続的に置かれていることを発見した。

「低価格品…?赤字になりそうな使い方だが…」

その時、亮介の端末が突然切断された。同時に、厳ついスーツ姿の男たちがオフィスに押し入ってきた。


第四章:秘密計画

亮介は連行され、厳重な監視下に置かれた施設で長期間の尋問の過程で真相を知ることになる。それは、「核戦争に備えた地下巨大シェルター」の存在だった。

シェルターは富裕層専用に設計されており、戦争が勃発した際には、ドローンを使ってコンパクトハウスごと住人を迅速にシェルター内へ避難させる仕組みが備わっていた。そして、亮介が見つけた空き地は、そのシェルターに通じる秘密の入り口だった。

攻撃の危険が高まった場合、コンパクトハウスの住人にはハウス内にとどまるよう勧告される。そして、攻撃が確実視されると、国民への通知より先に退避コマンドが実行される仕組みだった。これにより、膨大な数のドローンが一斉に稼働し、コンパクトハウスをシェルターへ輸送する。仮に着弾までに数分の余裕があれば、理論上、全てのハウスをシェルター内へ安全に収容できる体制が整っていた。

「君が調べていた場所は、計画の完成途中部分だったんだ。余計なことをしたな」
施設の監督官が冷たく告げた。


第五章:暴露と選択

亮介は施設から脱出する機会を掴むが、その情報を公開するべきか苦悩する。もし計画が暴露されれば、富裕層の計画は頓挫するかもしれないが、自分や家族・知人も命の危険に晒される。一方で、沈黙を守れば、世界は富裕層と一般人の間でさらに分断されることになる。

亮介は、自らの行動が未来に与える影響を考えた末、危険を冒してでも情報を公開する決断を下す。そして、全世界がこの事実を知ることで、コンパクトハウスという理想的な住居が持つ「暗い側面」が露わになる。


エピローグ:新たな未来へ

暴露された計画は、社会に大混乱を引き起こした。富裕層は非難される一方で、一般市民の間では、限られた資源をどのように公平に分配するべきかという議論が巻き起こった。

亮介は、効率化という目的が単に一部の人間を利するために使われる危険性を身をもって学んだ。そして彼は、新たな技術が本当の意味で全ての人々の未来を支えるために使われる世界を目指し、再び動き始める。


コンパクトハウスの末路は、未来のテクノロジーと倫理、富の偏在を問う物語として幕を閉じる。

いいなと思ったら応援しよう!