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【ハゲ杯】憧れのハゲ

「おれ、ハゲにしたい!」

 長男のその言葉に、妻は青ざめて言った。

「やめて!」

 そりゃ、そうなるわな。

 うちの子がハゲに憧れるのには理由がある。ハゲはとにかくかっこいいからだ。

 うちの子はかなり小さいころから車が大好きだ。だから『カーズ』を見せた。車の出てくる映画だ。うちの子は姑息なチック・ヒックスが好きだった。

 『カーズ』の次は『トランスフォーマー』を見せた。うちの子はトランスフォーマーたちがロボットになると激萎えだった。車じゃなくなったらもう興味ない。

 『トランスフォーマー』の次は『バンブルビー』を見せた。うちの子はカマロは古い方が好きだった。

 もうわかるな。次はどうなるのか。

 『ワイルドスピード』を見せた。しかも手近にあった『メガマックス』を。メガマックスだぞ。どうだこの全身からみなぎる頭の悪さ。

 うちの子はドハマった。ヴィン・ディーゼルがダッジ・チャージャーかなんかで爆走する。途中でかっぱらってくるパトカーもダッジ・チャージャーだ。マッスルなアメ車で爆走だ。

 そしてクライマックス。重戦車みたいなドウェイン・ジョンソンが重戦車みたいな車でコンクリートの壁をぶち破って突っ走る。

 息子大興奮。

 ドウェイン・ジョンソンはホブスという役を演じていて、劇中ではホブスなんだがもう「ジョンソン!」と呼んで崇拝。息子にとって人類はドウェイン・ジョンソンかそれ以外という分類になった。

 この映画、主人公のドミニクを演じているのがヴィン・ディーゼルで、マッチョなハゲ。ドウェイン・ジョンソンは重戦車ハゲ。

 さらに、ギャグ担当のローマンを演じているのがタイリース・ギブソン。コミカル・ハゲ。底抜けに楽しいハゲ。

 そんで。ヨドバシカメラかなんかで『アイス・ブレイク』の映像が流れていた。潜水艦が氷をぶち破って出てくるシーン。息子大興奮だからBDを買った。

 そしたらこれがもう大変だ。ジェイソン・ステイサムが出てきた。極めつけのダンディ・ハゲ。

 なんなんだこのシリーズはいったい。次から次にハゲが登場し、みんな底抜けにかっこいい。

「おれ、ハゲにしたい!」

 そうなるわな…。

 息子の頻発単語はワイルドスピード、ジョンソン、ジェイソンになった。

 そしたらこないだの新作。『スーパー・コンボ』とかいうマクドナルドのセットかストリートファイターの必殺技みたいな副題。これ、映画館に見に行った。なんだよこれ。ジェイソンとジョンソンしか出てこねーじゃねーか。

 息子大興奮。のっけからハゲ大活躍。終わりまで全部クライマックス。

「ハゲにしたい!ハゲ!」

「やめて!」

 誰だ、ハゲはかっこ悪いなんてことを言ってるのは。ワイルドスピードを見ろ。かっこいいのは全部ハゲだ。ドウェイン・ジョンソンに至っては髪の毛がある方がおかしいぐらいだ。昔の映像を見てみろ。とってつけたみたいな髪が何かの間違いみたいだ。

 ジェイソン・ステイサムなんて丸ハゲのほうが圧倒的にかっこいいだろ。

 え?おれ?

 おれがハゲになったらな、それはもう電球みたいだ。それはかっこいいのかって?バカおまえ、考えてもみろ、電球だぞ。

 かっこいいに決まってんだろうが。




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