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数字を追うほど幸せから遠ざかる?──“ぼんやり大きなゴール”が目標達成を加速させる理由

「目標設定」をぼんやりするほど、なぜ満足度が上がるのか?

──「大きくて曖昧な夢」と「具体的なプロセス目標」がもたらす不思議な効果

「自分はいったい何を目標にしたらいいんだろう?」
「本当にやりたいことがわからないから、モチベーションが続かない…」

習慣化コンサルティングやセッションをしていると、こんな相談がとても多いんです。
まさに「習慣づくりを手伝ってほしい」と依頼は来るものの、「じゃあどこに向かうのがベストか?」という問いに行き着くと、言葉に詰まってしまう方が少なくありません。

実際、従来は「できるだけ明確な数値目標を設定すべし!」「年収○万円を達成!」「フォロワー数○人を目指す!」……そんなアドバイスが多かったですよね。私自身も昔は、「曖昧なままだと目標を見失っちゃうし、やっぱり数字がわかりやすいよね」と信じていました。

ところが近年、心理学や経営学の研究から「数字などの外的に測りやすい指標(収入、フォロワー数など)ばかりを追うのは、むしろ逆効果になる可能性がある」という結果が報告されはじめています。特に、自分の内発的な価値観に即した“大きくて曖昧”な目標のほうが、長期的には満足度やモチベーションを高め、結果的に継続しやすいのではないか、というのです。

「え? 目標はなるべくハッキリ、数字で示すほうがいいんじゃないの?」と思いますよね。ここに、ちょっと意外で壮大な“ワクワク”が隠されているのです。本記事では、博士号を持ちながらITベンチャーを経て独立コンサルタントとして活動している私の経験と、最新の研究知見を融合させながら、「なぜ目標をぼんやりさせると、プロセスが加速するのか?」をわかりやすく紐解いていきたいと思います。

1. 私たちはなぜ「わかりやすい数字」を追いかけたくなるのか?

まずは、なぜ多くの人が「収入いくら」「フォロワー○万人」といった明快な数値に飛びつきがちなのか、その理由を整理してみましょう。
1. 達成感を即座にイメージしやすい
数字にはインパクトがあります。たとえば「月収100万円」や「SNSフォロワー1万人」。ぱっと見て「うわ、すごい!」とわかるし、周りから認められやすい。目先のモチベーションに火をつけるには効果的です。
2. 周囲と比較しやすい
わかりやすい指標は他者比較を容易にします。「あの人は3万人のフォロワーがいるけど、私はまだ500人しかいない…」と、競争心を煽りやすいのです。ある意味で、人間の承認欲求や負けず嫌いな面を刺激する仕組みと言えるでしょう。
3. 評価しやすい(見かけの簡便性)
マネージャーや上司、あるいは自分自身が成果を測るときに数字はとても便利。数字の良し悪しだけで「成功した」「失敗した」を簡単に判断できます。これはビジネスの場面で特に顕著です。

確かに、「明確な数値目標を定めると行動しやすい」「ビジネスの世界ではKPIやOKRのように数字が重視される」という事実は大切です。ところが一方で、その数字を追う行為自体が“目的化”してしまうと、ある問題が起きはじめます。

2. 「数値目標」だけを追うことが、なぜ逆効果になるのか?

2.1 外発的モチベーションの限界

心理学では、報酬や他者評価など「外発的モチベーション」で行動を続けると、その報酬がなくなった途端にモチベーションが激減することが分かっています。たとえば「フォロワー1万人」をゴールにしていた場合、その数字に到達してしまうと「次はどうしよう?」と息切れしてしまう……という現象が起きやすい。

2.2 数字に幻惑される“幸福の先送り”

数字で評価される世界は、際限のないハイスコア争いでもあります。最初は「月収100万円になれば幸せ」と思っていたのに、いざ達成すると「いや、やっぱり200万円だ」となる。SNSのフォロワーなら「1万人→3万人→5万人→10万人…」と上限がありません。結果、「現状に満足できず、幸福を先送りし続ける」リスクが高まるのです。

2.3 他者比較による自己否定

数字は“相対的な評価”を助長します。「あの人のほうがフォロワーが多い」「自分なんて全然ダメだ」と、常に上と比べてしまい、自分を否定しがち。心理学的にも“上方比較”はモチベーションアップにつながる半面、達成感が得にくく、自己肯定感の低下を招きやすい面があります。

3. 「ぼんやりとした大きな目標」がもたらすメリット

では、「数字を追うんじゃない、もっと曖昧に大きな目標を持とう!」というのは具体的にどういうことなのでしょう? ここでいう“大きくて曖昧”とは、自分の価値観や内発的欲求に根ざしたビジョンを指しています。
• 例:「将来、人々が希望を持てるように支援できる人になりたい」
• 例:「テクノロジーの力で、面倒くさがりな自分を克服してみたい」
• 例:「自分の解説やアイデアで“あっ、なるほど”と気づく瞬間を生み出したい」

こうした目標(あるいは“目的”)は、収入やフォロワー数のようにカチッと数値化できるわけではないので「ぼんやり」しているかもしれません。しかし、自分の中にある「これを実現できたら、なんだかワクワクする」「やっていて楽しい」という内発的モチベーションを刺激するため、長期的な行動の継続につながりやすいといわれています。

さらに興味深いのが、こうした「ぼんやり大きな目標」を掲げることで、人生のいろいろな選択肢の幅が広がり、「あ、こういう道もあったんだ」「こんなことも面白そうだ」と、柔軟に軌道修正がきくようになる点です。数字しか見えていないと視野が狭くなりがちですが、大まかな方向感だけを持っていると、「道はいくらでも作れる」と思えるんですよね。

4. それでも“プロセス目標”ははっきりさせる重要性

ただし、ここで「大きなゴールを曖昧にすればいいんだ!」と安心して、具体的な行動プランを立てないまま突っ走るのはNGです。実際のところ、ぼんやりとした最終目的具体的な行動プロセスの指標は、両輪として機能するからこそ力を発揮します。

4.1 遅行指標(Lagging Indicator)と先行指標(Leading Indicator)

経営学でよく語られる概念ですが、結果としての成果(売上、フォロワー数)は「遅行指標」と呼ばれます。それが目に見える形になるまでにはタイムラグがある。一方で、「1日5ページ読書する」「週3回の有酸素運動をする」「毎日SNSに投稿する」といった“プロセス”は「先行指標」。先行指標が積み上がることで、いずれ遅行指標につながると考えられています。
• 遅行指標(成果): ○○円稼ぐ、フォロワー○○人、論文の被引用数○○回…
• 先行指標(行動): 1日○○分学習、週○回投稿、月○冊の読書…

この「先行指標」を具体的かつ定量的に設定し、日々モニタリングすると「今日は○%達成できた」「今週はちょっと足りなかった」など、自分の行動を“見える化”しやすくなります。すぐには成果につながらなくとも、やっているプロセスの積み重ねが「自分、ちゃんと前に進んでるぞ」という自己肯定感をじわじわ育むのです。

4.2 私自身の失敗と体験談

実を言うと、私も大学院で分子生物学を研究しながら、「もっとインパクトのある研究成果がほしい」「一流ジャーナルにバンバン論文を載せたい」と数字に近い“成果指標”ばかりを追いかけていた時期がありました。ところが、思うように成果が出ないときに「研究室で一番の落ちこぼれかも」と自己否定が膨らみ、モチベーションが一気にダウンしてしまったんです。

しかし、「将来、AIと生物学を掛け合わせて、人類の役に立つ技術を生み出したい」といったもっと大きな夢──ややぼんやりしたビジョン──に目を向けだすと、自分の研究テーマに面白さを再発見できるようになりました。そこで「1日1本の論文を読む」「週3回はデータ分析の新しい手法を試す」などプロセスを細かく決めたところ、地味でも行動量が増え、結果的に学会で賞をもらえたり、国際ジャーナルで論文が採択されたりしたんです。
数値目標に縛られていたころは辛かったのに、“ぼんやり大きな目標”を思い出し、行動レベルを可視化したら、なぜかうまくいった──これが私の実感です。

5. 具体的なステップ:どう「ぼんやり目標 × プロセス指標」をつくる?

5.1 自分の価値観を掘り下げる
• 「何をしているときにワクワクするのか?」
• 「どんな状態だと“幸せ”や“希望”を感じるのか?」
• 「どんなことに“自分だからこそ貢献できる”と思うのか?」

こうした質問を自分に投げかけて、紙に書き出してみましょう。いきなり答えが出なくても、書き出しているうちに“ぼんやりとした輪郭”が見えてくることがあります。ここを丁寧にやると、「あれ? 実は収入アップより“人から面白いねと言われる”方が自分にとって嬉しいかも」など、意外な自分が発掘できるはずです。

5.2 ざっくりと「ぼんやり目標(方向性)」を言葉にしてみる
• 例:「面倒くさがりを克服して、日々のちょっとした行動で周りを楽しませる自分になりたい」
• 例:「テクノロジーを活用して、世界中の人が“学習の楽しさ”を再発見できる仕組みを作りたい」

言葉が多少あやふやでも大丈夫。自分の“やってみたい世界”をなんとなく書き留めておく。それがあなたにとっての「大きなコンパス」です。

5.3 “先行指標(プロセス)”を具体化する

ここでようやく日々の行動目標を、なるべく定量化・具体化していきます。
• 1日5ページの読書をする
• 週2回は誰かに自分のアイデアを話す場を設ける
• 毎朝7時に起きて、15個の朝ルーティンを実行する
• 筋トレや有酸素運動を週3回、各30分やる
• 月に1度は「考えさせられる系の本」にチャレンジする

とにかく「〇〇する、頻度は〇回、時間は〇分」という形にして、チェックできるようにするのがポイントです。これらはあくまで先行指標なので、最初から完璧にできなくても問題なし。徐々に積み上がる様子が見えてくると、遅行指標(最終的な成果)にも影響が出はじめます。

5.4 定期的にプロセスを可視化し、軌道修正する
プロセス達成率: 例えばGoogleスプレッドシートやアプリを使い、毎日できた項目にチェックをつけ、達成率を自動計算するようにする。
週次・月次の振り返り: 「先週は読書5ページ×7日=35ページ!」「運動は目標の半分しかできなかった……」など、数字で可視化してみると意外な発見がある。
軌道修正: もし続けにくいなら設定を少し下げる、逆に余裕がありすぎるなら増やす。最初のぼんやり目標はそのままに、プロセスだけを柔軟にアップデートするイメージです。

6. それでも数字が欲しくなったら?――“両立”のコツ

「でも、具体的な収入目標やフォロワー目標があったほうが燃えるタイプなんです」という方もいますよね。実は、数値目標とぼんやり目標を両立させる方法もあります。
大きなコンパス: あくまで内発的な価値観に根ざした「自分が目指すワクワクする未来」を掲げる。
“チャレンジ枠”としての数値目標: たとえば「半年後に○万円達成したら、ご褒美に旅に出る」というように、楽しみの一部として組み込む。
プロセスを最優先に評価する: 数値の達成状況だけでなく、「毎日の行動をどれだけ継続できたか?」を主軸にチェックする。数値に振り回されないための“防波堤”を作るわけです。

こうすると、数値目標をゲーム感覚で捉えつつ、内面の充実感を見失わずにいられます。

参考文献・データ
• Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Intrinsic and Extrinsic Motivations: Classic Definitions and New Directions. Contemporary Educational Psychology, 25(1), 54–67.
• Kerr, S. (1975). On the Folly of Rewarding A, While Hoping for B. Academy of Management Journal, 18(4), 769–783.
• (その他、習慣化コンサルティングにおける実地観察・セッションの経験より)

7. まとめ──目標は「ぼんやり」こそ最強? でもプロセスは「はっきり」してこそ
1. 外発的な数値目標だけに縛られると、満足度やモチベーションが長続きしづらい。
2. 内発的価値観に根ざした“大きく曖昧”なゴールを持つと、行動が柔軟で継続しやすい。
3. ただし、日々の“先行指標”は細かく定義してモニタリングしたほうが結果につながりやすい。

私自身も、大学時代までは成績やTOEICの点数といった“数字”ばかり追って一喜一憂し、心が折れそうになる経験を何度もしてきました。けれど、研究やコンサルティングを続けるうちに見えてきたのは、「数値そのものはあくまで道具であって、本当に大切なのは“これをやってるときの自分はなぜか興味が湧く、楽しい”というワクワク感だ」ということでした。
ちなみに私は「習慣のチカラで、多くの人が幸せに生きる手段を獲得できる仕組みを作りたい」という“ぼんやりビジョン”を掲げ、日々の読書や運動、執筆のプロセスを地道にこなしてきました。結果として、1年に1〜2冊しか本を読まなかった私が今では月10冊読むようになり、毎朝11時起床だった生活が7時起床に変化し、学会でも賞をもらえたり……と、人生全体で色々な実績が積み重なった実感があります。

最後に、読んでくださったあなたにもぜひ試してみてほしいステップは、以下の3点です。
① まずは自分の価値観を棚卸しし、“ぼんやり大きな目標”を言葉にしてみる
② 日々の“プロセス指標”をはっきり決め、小さく行動・可視化する
③ 数値目標を立てるなら、“ゲーム感覚”と割り切り、行動の継続こそ最重要とする

このアプローチは、一見すると“直感に反して”いますが、多くの研究と実践経験が示すように、人間は「自分の内なるワクワク」を土台にしながら具体的な行動を積み重ねるとき、想像以上の力を発揮できる存在です。

「でも、自分の“ぼんやり目標”って本当に合ってるの?」と感じる方もいるかもしれませんが、答えを急ぐ必要はありません。ぼんやりは“あやふや”ではなく、“伸びしろがある”状態とも言い換えられます。プロセスを積み重ねるうちに、「もう少しここを掘り下げてみよう」「あ、意外と違う方向が気になる」と目標そのものを進化させていく自由度が、あなたの行動範囲を一気に広げてくれるはずです。

数字を追い求めることとワクワクを求めることは決して対立ではなく、うまく融合させれば強力なドライブになります。ただ、その出発点を「内なる喜び・興味」──この軸に置いてみると、毎日の習慣や行動がちょっと楽しくなり、「続けやすい仕組み」が自然と回り始めるのです。

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