「趣味は“喫茶店巡り”です」
某有名ユーチューバーがこんなことを言っていた。
「マッチングアプリのプロフィールに『喫茶店巡りが趣味』と書いている男には気をつけろ。喫茶店を巡る男なんていねーから。」
このユーチューバーは、若い男性で、顔立ちも良く、人気があり、発言の説得力に一定の支持があった。「そうなんだ、そういう男には気をつけなきゃ!」「やべ、おれのプロフィール見直そ!」なんて男女の行動は、想像に難くない。
では、そんな男は、本当にいねーのだろうか。
週末の、時間がゆったりと流れるとき、喫茶店の扉がカランコロンと開かれ、ひとりの男が入っていく。時刻は午前10時。男は席につくなり、ホットコーヒーを注文する。コーヒーの種類にはあまり頓着のない感じだ。だが、アイスよりもホットを好む。ゆっくりと、時間をかけて、飲む。冷めたあとも美味しく飲めるコーヒーが好きだ。冷めて、酸味が増すのは、あまり好まない。
コーヒーが運ばれてくるまでの間、男は煙草を喫む。銘柄は「ジャルム・ブラック」。黒の巻紙が目をひく。フィルターにフルーツの風味が香る、インドネシア産の煙草だ。
男は、店に置いてある朝刊に目を通す。この店には、読売、毎日と、スポーツ日刊、が置いてある。まずは、読売を読む。男は、土曜の朝刊に掲載される「読書欄」を、なるべく毎週読むようにしている。そこには、いま話題の本の書評が書かれている。最近は、戦争、ジェンダー、AI、をテーマに取り扱うものが多い。そうしているうちに、コーヒーが運ばれてくる。うむ、美味い、なんて顔をする。コーヒーと、煙草と、新聞の3コンボが、男の休日を、たしかなものにする。
しかし、ここで注意しなければならないのは、一見、粋に見えるこの男、女性にはまったく好かれない。女性どころか、そもそも人づきあいが苦手である。年齢は30手前。もう5年間も彼女がいない。気難しい性格である。休日の朝っぱらから、喫茶店で新聞を広げながら、煙草とコーヒーをのんで、ご満悦ときている。孤独が、似合うのだ。
こんな男が、本当にいるのか、私にはわからないが、某ユーチューバーが言っていたことは、あながち間違えではない。本当に、喫茶店を巡る男がいたとしても、そんなやつは疑ってかかるべきだ。一緒に喫茶店に行っても、相手にされないばかりか、一緒に新聞の読書欄を読む羽目になるぞ。そもそも、一緒に行ってくれないかもしれない。マッチングアプリのユーザー諸氏よ、「喫茶店巡り」には、気をつけろ。
ではまた。