見送り
友人は、デートの帰り、彼女を家の前まで車で送っていくらしい。毎度、必ず。マメだなと思って聞いていた。
僕の場合、いまの彼女と同棲しているから、〈見送り〉というイベントは発生しない。昔は、そんなこともあったが、「家の前まで」は、数える程度しかない。
〈見送り〉は、「昇格を見送る」とか、「見送り掌状」など、一時的な延期や、差し控える、といった意味でも使われる。
故人の「お見送り」も忘れてはならない。遺族の気持ちを整理するうえで、とても大切なことだ。
中学2年の夏、大好きだった祖父が亡くなった。病気だった。僕が病室に駆けつけたその瞬間、息を引きとった。涙は出なかった。それから、数日経って、告別式の、出棺のとき、棺に花を添えたとたん、とつぜん涙があふれた。止まらなかった。本当の、最後の別れがきた。このあとは火葬されてしまう。人の死を、実感した瞬間だった。
友人は、彼女を家まで見送る理由を「ギリギリまで一緒にいたいから」と言っていた。いい男だ。
僕も、祖父とギリギリまで一緒にいたかったんだ。中学生の僕は、いい孫だった。いまは、いい男になるため、友人を鑑に……、と言いたいところだが、同棲の身で、彼女を家まで見送れないから、さて、どうしたものか。
ではまた。