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テキサス州司法試験の出願手続き(2024年7月受験)
はじめに
筆者は、2024年7月にテキサス州の司法試験を受験しました。今回は、同試験を受験するにあたっての出願関連の手続きについて書こうと思います。
簡単に背景を捕捉しますと、私は、日本国内の某法律事務所に所属しつつ、そのスポンサーシップの下、テキサス大学オースティン校のLL.M.に留学し、その後テキサス州の司法試験を受験しました。そのため、出願に向けた準備のうち、日本国内での書類集めなどは所属事務所(特に秘書)の助力を得ることができました。また、卒業後もオースティンに滞在しつつ、オースティンで司法試験を受験しました。
テキサス州の司法試験はお勧めできる
テキサス州司法試験は、2021年からMulti-stateに移行しているため[1]、勉強方法はNY州など他の州と共通する面がほとんどだと思いますが[2]、出願手続きひいては合格後の入会(アドミッション)手続きなどは固有のものが多いと思います。そういう意味では、本記事が対象とする読者は、あくまでテキサス州の司法試験を今後受験予定(の日本語話者)という極めてニッチな層になりますが、米国経済におけるテキサス州のプレゼンスの向上や、試験問題のMulti-state移行によって受験のハードルが下がったことに伴い、今後受験者数も増えるのではないかと思っていることから、今回筆を執ることにしました。また、後に詳しく述べるとおり、出願手続きは全体的にスピーディに進むように設計されており、特に特定の州にこだわりがないのであれば、日本からLL.M.留学し卒業後に受験する州として十分選択肢に入ってくるのではないかと思います。
なお、受験する州を選択する上では、司法試験のみならず、その後に続く州弁護士会への入会、入会後の登録維持などまで見据える必要があると思いますが、これらは別の記事で書こうと思います。
注意点
本記事はあくまで2024年7月の受験に関するものであり、実際に出願される際は、最新のルールをご確認されることをお勧め致します。[3]
受験までの流れ
出願準備から完了まで
テキサス州の司法試験は、Texas Board of Law Examiners (TXBLE)が所管していますが、2023年12月4日に同委員会のウェブサイトで出願手続きがオープンしました。なお、NY州の司法試験などは、出願手続きのスタートがかなり早いと聞いており渡米前から動き始めているとも聞いているので、それと比べるとだいぶスローだと思います(私は、テキサス大学への進学が決まった瞬間からテキサス州の司法試験しか考えてなかったので、渡米前には特に動きませんでした。)。
まずは同委員会のシステム(ATLAS)上でアカウントを作成し、その中で所定の質問に回答しつつ願書を作成し、出願資格を証明するための添付書類を順次アップロードすることになります。また、受験料(1,140ドル)も支払います。
2024年2月1日が一応の出願期限でしたが、これを徒過してもLate feeを支払えば出願自体は受け付けてくれるようです。私は、1月21日に完了しました。出願のスケジュールを組む留意点として、一部の書類(日本の弁護士会から発行してもらう証明書を含む。後述)は出願手続きの前30日以内の発行されている必要があります。そのため、想定出願日を決めた上で、それに合わせて書類を用意する必要がありました。
出願完了後
出願がいったん完了した後も、LL.M.卒業後でないと取得できない必要書類(LL.M. Degree Transcript)を追加提出することを忘れてはいけません(後述)。
追加書類の提出も完了した後は、受験が認められるかどうかの判定を待つだけですが、ATLAS上で判定結果が出るので、Approvedになってないか定期的に確認するのがいいでしょう。私の場合、7月初め頃にはApprovedを確認し、7月3
日に受験票(Admission Ticket)を受領しました。なお、ATLAS上でのアップデートは基本的には自動メッセージがEmailで送られてくる仕組みになっていますが、上記の判定だけなぜかEmailは送られてこず、自分でチェックしなければいけない仕様になっていたので、注意が必要です。
また、上記の追加書類提出とあわせて、指紋採取や、Character & Fitnessに関するやり取りが続きます。厳密には、これらは司法試験を受験するための要件ではなく、あくまで州弁護士会への入会(アドミッション)が認められるための要件ですが、多くの場合、出願完了後から司法試験受験日(7月末)までの間に完了すると思われますので、便宜上、まとめて本記事で取り上げることにします(後述)。
出願書類作成
ATLASでの出願書類作成は、以下の各カテゴリーについて順次記入していきます。一部を除き、特にトリッキーな質問はなく、淡々と書いていくだけでした。
Personal Information
Educational Information
Bar Adimssions and Applications
Other Professional or Occupational License
Employment
Military Service
Criminal History Information
Fitness Information
Civil Lititagiton
Legal and Financial Responsibility
Requirements (Supreme Court of Texas Rules Governing Admission to the Bar of Texas ("Rule") §2(a)(5) Requirements関連)
最後のRule 2(a)(5)は、米国内で適法に滞在する根拠について問うものです。受験ではなくAdmissionの要件です。多くの場合、OPTに基づく就労許可(下記の(D))によりこの要件を満たすことになるのではないかと思います。その場合、出願時点でOPTの審査が完了していなければ(私はそうでしたし、多くの場合そうなのではないかと思います)、出願時点でのTXBLEへの回答は、「現時点ではRequirementを満たす根拠なし」という方向性になると思います。
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なお、OPTを申請しない場合も、所定の書面を提出することで、州弁護士会に入会できると思います(上記の(E))。テキサス大学LL.M.卒業生の中にも過去に実例があるようです。
添付書類の提出
チェックリスト
出願を完了するには、以下の各書類をATLAS経由でアップロードする必要があります。
1. Certificate of Good Standing / Statement of Discipline
→日本国内の弁護士会が発行する証明書(英文)がこれに該当。出願日前30日以内に発行される必要あり。PDF可。
→所属事務所経由で入手しました。
2. Foreign Law Degree Transcript
→日本国内で卒業したロースクールの卒業・成績証明書(英文)がこれに該当。米国LL.M.出願時にLSAC経由で提出したものを流用することが可能。PDF可。
→テキサス大学LL.M.の担当者にTXBLE宛の直送を依頼しました。
3. LL.M. Degree Transcript
→米国LL.M.の修了・成績証明書がこれに該当。PDF可。
→卒業後にテキサス大学にTXBLE宛の直送を依頼しました。
補足:関連条文・参考情報
以上のチェックリストの根拠を一応示しておくと、以下の各規定です。
Rule 2(a)(General Eligibility Requirements for Admission to the Bar)
Rule 13 §5 (Exemption from Law Study Requirement for Foreign Applicants Without a Common-Law Legal Education)
Rule 13 §9(LL.M. Curriculum Criteria) [4]
https://ble.texas.gov/txrulebook
また、TXBLEが公表している以下のチェックリストもあります。
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以上のほか、テキサス大学のウェブサイトも参考になりそうです。
各書類の手配
Certificate of Good Standing / Statement of Discipline
日本法弁護士の場合、日弁連と、所属弁護士会(私の場合、東弁)それぞれから証明書(英文)を取得し、その証明書がCertificate of Good Standingと、Statement of Disciplineの両方を満たすということになりそうです。
取得方法ですが、日弁連・東弁いずれも申請書のテンプレートがあるのでこれを使います。取得費用は、日弁連1,050円、東弁550円でした。東弁・日弁連とも申請から発行まで1週間程度かかります。
いずれの証明書もPDFをATLASからアップロードすれば足り、原本直送などの面倒なロジは発生しません。ただし、場合によっては、審査手続きの中で原本の提出が求められる可能性もあるので、何かのときのために日本から原本を送ってもらって手元に用意しておくのが無難でしょう。
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Foreign Law School Transcript
これは日本のロースクールの卒業・成績証明書(英文)のことです。下記のとおり、米国ロースクールへの出願時にLSACに提出したものを流用することができます。私の場合、テキサス大学のLL.M.担当者にTXBLEへの直送を依頼しました(ATLASで出願が完了した後の1月25日に依頼)。この書類についても、米国内で手続きが完結したのは良かったです。
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LL.M. Degree Transcript
これは、LL.M.の修了証明書です。必然的に、5月の卒業を待ってから取得・提出することになります。
大学によって当然手続きは違うと思いますが、テキサス大学の場合、以下で入手できました。注意点としては、Transcpritには、Official / unofficialの区別があり、unofficialなものは、卒業直後にすぐ取得できると思うのですが、その時点では成績が確定しておらず、Officialな状態ではないということです。TXBLEに提出するのはOfficialな証明書である必要があるので、卒業後一定期間待つことになります。私の場合、6月8日に取得・提出しました。
TXBLEへの提出方法は、ATLASへのアップロードではなく、大学にTXBLEへの直送を依頼することになります。といっても、PDFで足りるので、TXBLEのメールアドレス(information@ble.texas.gov)を伝えるだけで大丈夫です。
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Character & Fitness
最後に、出願それ自体の要件ではなく、アドミッション要件ではあるものの、Character & Fitnessについても書いておきます。
指紋採取
Character & Fitnessの調査の一環として指紋採取手続きがあります。タイミング的には、ATLASでの出願完了から30日以内に済ませる必要があるため、出願とセットで考えるのが良さそうです。私の場合、2月1日に完了しました。
詳細は以下のページにまとまっていますが、流れとしてはIdentogoで指紋採取の予約をして、当日現場に行くという感じです。10分くらいで終わります。10ドルでした。
なお、上記ウェブサイトにあるとおり、テキサス州外でも指紋採取はできるようです。
職場への人物照会
上記指紋と同様、Character & Fitnessの審査の一環として、職場への照会が行くこともあるようです。私の場合、現在のEmployerとしてTXBLEに届け出た法律事務所宛に照会が来ました。[5] 他方で、過去のEmployerとして届け出た組織には特に照会は行かなかったようです。
この照会は、あくまでアドミッション要件の一つとしてのCharacter & Fitnessに関連して行われるものです。TXBLEは、審査は最大で270日かかるとも言っており、タイムライン的にはゆとりがあります(司法試験受験後までプロセスが続くこともあり得ます)。ただ、ATLASでの出願完了を契機にプロセスが走り出すので、出願とセットで考えておくのが良さそうです。私の場合、出願完了したのが1月21日でしたが、2月2日には人物照会がありました。
なお、ご参考までに照会文を以下に抜粋します(本来、私が持っていてはいけない文書なのですが…)。全体的にネガティブチェックの質問が続くので、回答者の負担は大きくないように思います。[6]
The individual named above has begun the application process for admission to the Bar of Texas and has stated that (s)he was, or is, employed as indicated. One requirement for admission to the Texas Bar is a finding of good moral character and fitness. Please assist us in our character and fitness investigation of this individual by responding to the following inquiries.
1. What do your records show as the inclusive dates of employment? Please list exact dates: mm/dd/yy-mm/dd/yy.
2. What position was held by this individual during the period of time indicated?
3. Was the position full-time or part time? (If part time, provide number of hours per week)
4. Does the position which this individual held require a valid law license?
5. Please describe the nature of the individual's practice with your organization.
6. Do you consider this individual to be reliable and honest? Yes No If no , please explain
7. If this individual no longer works for you, why did (s)he leave your employment?
8. Would you rehire this individual? Yes No If no , please explain
9. To the best of your knowledge, has (s)he: YES NO
a. Been dismissed or asked to resign from any employment?
b. Exhibited any conduct that could call into question their ability to practice law in a competent, ethical, and professional manner?
c. Been involved in any criminal activity, or been party to a lawsuit, including child or spousal support enforcement proceedings?
10. Please explain any "YES" responses.
まとめ
以上が、出願関連の手続き(とそれに付随する限度でアドミッション関連の手続き)についての概観です。全体的な振り返りとして、ほぼすべての手続きがオンラインで完結し、書類の原本を直送するなどのアレンジが生じなかったのは便宜でした。また、手続きに関し疑問があれば、ATLAS上で審査官に随時聞くことができるのですが、彼らは非常にレスポンシブで、すぐ必要な答えが返ってきたというのも好印象です。
本記事が今後テキサス州の司法試験を受験する方にとっての参考になりましたら幸いです。
[1] テキサス州の司法試験は、2021年2月に大きく制度変更されたようです(Supreme Court of Texas Rules Governing Admission to the Bar of Texas §11 (d)(e)参照)。
https://ble.texas.gov/txrulebook
具体的な変更点は、それまで存在した"Texas Essay Questions"(おそらくOil and Gasなどテキサス独自の試験科目と思われます)が、"Multi Essay Examination"という各州共通の試験に変わっています。また、従前の"Procedure and Evidence Questions"という科目(おそらく州固有の手続きについてテストする科目と思われます)も消失したようです。
なお、この制度変更の前にテキサス州で司法試験を受験した方に話を聞きましたが、BarbriのUBE対策講座のような予備校教材も存在しなかったので、テキサス州の過去問を20年分ほど解くしかなかったと言っていました。
[2] 勉強方法については、以下のとおり別記事にしていますので、そちらをご参照ください。
[3] 特に、司法試験の問題作成機関であるNCBEは2026年から次世代型司法試験(NextGen Bar Exam)をロールアウトすることを公表しており、テキサスでも2028年から導入される予定です。
[4] §9については、むしろ、司法試験受験のためにLL.M.でどのような科目を履修しておく必要があるかに関係しますので、LL.M.開始時に履修計画を練る際に考慮すべきです。この点については、別途記事を書きましたのでそちらをご参照下さい。
[5] 私が所属している法律事務所では毎年相当数の弁護士が米国に留学し、米国内で司法試験を受験していますが(ほとんどはNYかCal)、私がコンタクトした留学担当弁護士によると、実際に人物照会が来た例は把握していなかったようです。このような照会の仕組みはどの州にもあると思いますが、実際に発動するのはテキサスくらいなのかもしれません。おそらく、テキサス州の受験者がNY、Calと比べると相当に少ないことが原因かと思われます。2024年7月受験については、受験者3,299名でした。
[6] 以前、NY Barに入会しようとする友人のために、その人の人柄について一筆書いたことがありますが、その際はもっと色々自由作文が必要だった記憶です。これと比べると負荷は少なそうです。