“腹落ち感”をつくるビジネス・コミュニケーションの2つのポイント“ストーリー”と“解像度”とは?
大企業の新規事業開発を支援する、NEWhのサービスデザインチームのマネージャーをしている今村です。
ここでは“共創プロセス”で新規事業を伴走支援させていただく中で得られた知見やノウハウをお伝えしていきたいと思います。
今回取り上げるテーマは、「ビジネス・コミュニケーション」です。
ビジネスシーンにおいては、正確に情報を伝えるだけではなく、相手の中に“腹落ち感”をつくることが大事だと考えています。
“腹落ち感”がなぜ重要なのか?
上司に企画を提案したり、考えを伝えたりしたときに、こんな反応が返ってきた経験はありませんか?
おそらく「でも…」の後に来る言葉はポジティブなものではなく、あなたの提案や考えに同意してそのまま前に進める意思決定が下ることはないでしょう。上司の“腹落ち感”をつくれなかったということになります。
ビジネスシーンにおいて“腹落ち感”があるということは、その重要性をしっかりと伝えられて、かつ実現に向けて効果が期待できて「やってみよう」という感覚を相手の中につくるということです。
さらに、意思決定者・リーダーを含めたチームメンバーそれぞれがやるべきことの重要性とその内容を解像度高く認識することにより、同じ方向を向いて長期的に協調しながら活動できる質の高いチームをつくることにつながります。
相手に何かを伝えようとすると、まずやらなければいけないことは(あたりまえですが)言葉にすること、つまり「言語化」です。
不確実性が高い活動(例えば新規事業企画など)であればあるほど、言語化は、メンバーの“腹落ち感”を生み出すために重要になってきます。
“気合でガンバレ”や“あいつを見てマネしろ”というような指示では伝わらない世界だからです。
僕たちNEWhは新規事業開発の支援をさせていただく中で、「いかに不確実性の高い事業構想を言語化し意思決定者に腹落ち感をつくるか?」という問題について取り組んできました。
今回はその活動の中で僕たちが腹落ち感をつくるために重要視している2つのポイント、「ストーリー」と「解像度」について掘り下げてお話したいと思います。
「ストーリー」と「解像度」は、新規事業構想を相手に伝える文脈だけでなく、日々のビジネス・コミュニケーションにおいても役に立つ観点です。
新規事業開発に携わってない方にも、この記事を読んでいただき、ビジネス・コミュニケーション力の向上に役に立てていただけると嬉しいです。
「書く」という行為について考える
言語化する、つまり「書く」ということについて深く掘り下げていきたいと思います。
新規事業のような正解のない構想を上司やチームメンバーに伝えるためには、頭の中にある事業構想を言語化する、つまり「書く」という行為は当たり前のプロセスです。
しかしながら、事業構想を効果的に言語化するのは案外難しいものです。
ここでいう「効果的」の意味するところは、チームメンバーと共通認識をつくりながら仮説検証をスムーズに進めることができ、確信と確証を生み出して意思決定者の承認を得ることができる、というところまで含んでいます。
以前の記事で、仮説形成と仮説検証による往復運動を通して、事業構想の確信と確証がつくられていく、というお話をしてきました。
その際に重要なことは、間違っていてもよいからまず書いてみる。そして書きながら修正していく、というマインドです。最初から正しさを追い求めず、書きながら正しい方向へ絶えず修正を重ねていくという心構えです。
まさに“完璧を目指すよりも完了させろ(Done is better than perfect)”の精神です。
世の中の進化のスピードが日々高まっていて、不確実性が高いこれからの時代にはこのような考え方がとても重要です。
書いたことがあっているかは分からないけれども、「書く」ことによって、「ここに書いてあることは正しいのだろうか?」という「問い」が生まれます。
問いが生まれてはじめて、チームで答え合わせをするための行動を規定することができます。
少し大袈裟ですが、「書く」ということは、私たちが行動するための「地図」を手にいれる、と言ってもよいでしょう。たとえその地図が間違っていても、その地図には価値があります。
なぜなら、地図は私たちが行動するために背中を押してくれる存在だからです。
ある有名な逸話を紹介します。
この話の面白いのは最後のオチです。
下山後、隊員の持っていた地図を上官が見て驚きました。その地図はアルプス山脈の地図ではなく、ピレネー山脈の地図だったのです。
おそらく偵察隊は、最初は地図を見ながら下山し始めたと思います。ただ、歩いていく中で、視界が悪いなりにも、周りの状況を注意深く見ながら下山ルートを見出すことができたので、無事に帰還できたのです。
この逸話が意味するところは、「最初は認識が間違っていても、行動すれば良い結果につなげることができる」ということです。
逆に言うと、不確実性が高い世界では、最初から物事を正しく認識することは難しいので、行動する中で気づきを得ながら修正を重ねていかないと良い結果は出にくい、ということになります。
新規事業開発は不確実性の塊です。
仮説形成と仮説検証による往復運動がスピーディーに回せていない状況は、行動を起こすための「地図」がないからかもしれません。
チームから積極的な「行動」が生まれるような事業構想を「書く」ことができていないのです。
では、チームが共通認識を持ち、一丸となって仮説検証の往復運動を回せるような事業構想を書くためのポイントは何でしょうか?
ポイントは大きく2つあります。1つ目は「ストーリー」、2つ目は「解像度」です。
ここからは効果的な事業構想を書くための2つのポイントについてお伝えしていきたいと思います。
ポイント1:ストーリー
構想を言語化し相手に伝える際には、ストーリーになっていることが必要条件です。
ここで言うストーリーは「昔々、あるところに…」というような情緒的な物語を指しているわけではありません。事業構想のストーリーは、各ビジネスモデルの要素がつながっていて「語ることができる」文章になっていなければいけません。
「Aという課題を持っている顧客Bに、自社の強みDを活用してCという価値を提供することにより、他社Dよりも競争優位性を持つ…」というように、ビジネスモデルを構成する要素A・B・C・D…の関係性が構築され、文章でつながっている状態を事業構想のストーリーと言います。
では、ストーリーになってない状態とはどんな状態でしょうか。
わかりやすい例は「箇条書き」です。
箇条書きは一見整理されているように見えます。しかし、聞き手は各項目がストーリーとしてつながっているか、そのロジックが見えづらくなるのです。
Amazonの会議では、それが理由でパワポスライド箇条書き禁止。代わりにワードでA4一枚で初見で誰が読んでもわかるストーリーを書く、というルールをつくっているほどです。
ビジネスモデルの各要素がストーリー化されると、さまざまな「問い」が生まれます。
「顧客BはAという課題を本当に持っているのだろうか?」、「自社の強みDを活用して本当にCという提供価値をつくれるのだろうか?」というような問いです。
事業構想をストーリー化して、要素間の関係性から「問い」を見出すことで、はじめて仮説検証に向けた「行動」が生まれるのです。
いわゆる“よくない”事業企画書は、事業構想のストーリー構造が分かりにくい、またはビジネスモデルの構成要素が抜けている、というものです。
そのような事業企画書は、パワーポイントのスライドにはたくさん情報が羅列されていてるのですが、それぞれの情報の関係性がバラバラだったりします。それでは、肝心のビジネスモデル全体のストーリーの筋の良さを伝えることができません。
そうなると、意思決定者はビジネスとしての良し悪しを判断しづらくなってしまうので、承認を得るのが難しくなってしまうのです。
事業構想を書いてストーリー化するということは、次のような文章を30秒〜1分くらいでスラスラと語れる状態になっていないといけません。
このストーリーは、スターバックスを例につくってみたものですが、事業成功の確率を高める5つの観点、「誰に、どんな手法で、競合他社よりも優位性があり、どんなやり方で、どうやって利益を上げるのか?」が含まれています。
このように、ビジネスモデルの各要素をつなげて、5つの観点に答えるかたちでスラスラと語ることができるということが、事業構想をストーリー化するということです。
ポイント2:解像度
2つ目のポイントは「解像度」です。
ビジネスモデル全体ストーリーの筋が良くても、各要素の解像度が低いと意思決定者の腹落ち感は生まれません。
先ほどのストーリーの中で「本格的な美味しいコーヒー」という記述がありましたが、これはまだまだ解像度が低い状態です。
解像度が低いと「本格的な美味しさ」という言葉で思い浮かべるイメージが人によってバラバラになってしまうため、チームメンバー間の共通認識をつくることができません。チームの共通認識ができないと、仮説検証するための行動を明確に規定することができなくなってしまいます。
ここで言っている「本格的な美味しいコーヒー」とは何か?
例えばスターバックスでは、“厳選されたアラビカ種のコーヒー豆のみを使用したこだわりのコーヒー”を原点に、スターバックスのコーヒー体験を進化させています。
もう一つ、“大切な時間と空間”というキーワードがありましたが、これは一体どのようなものなのか?
スターバックスのコンセプトは、家庭でも職場でもない第3の空間を提供する「サードプレイス」です。このコンセプトを実現する店舗の設計に力を入れています。同じ外観の店舗は一つもなく、出店する土地に溶け込んでいて、“お店に入るとホッと落ち着く自然色の内装や間接照明で構成された空間”です。
このように、ビジネスモデルのストーリー上の各要素の解像度がグッと上がっていくと、「この事業は成立しそうだ」という確信が生まれます。
そうなると、意思決定者の承認も得やすくなるのです。
もちろん、最初から高い解像度で事業構想を書くことはできません。仮説検証を繰り返し、解像度を高めていきながら、確信をつくっていくことになります。
その営みを通して解像度を高めていけばいくほど、聞き手の“腹落ち感”は高まっていきます。
おわりに
ここまで、ビジネス・コミュニケーションにおいて、聞き手の“腹落ち感”をつくるポイント、「ストーリー」と「解像度」についてお話をしてきました。
0から1を生み出す事業構想だけでなく、1を10にしたり、10を100にするようなビジネス活動における施策提案も、仮説形成と検証の往復運動を繰り返していくための「地図」といえます。
最初から正しい地図を書くことはできないので、仮説検証を繰り返しながら正しい地図を書いていく必要がある、そのようなマインドの重要性についてもお伝えしてきました。
ぜひ、これから何か提案したりする際には、「ストーリー」と「解像度」の2つの観点を頭におきながら、どうやって聞き手の“腹落ち感”をつくるか?という観点から、話す内容を組み立てて対話していただければと思います。
きっとこれまで以上によい結果が生まれるはずです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。「♡スキ」をいただけると今後の励みになります。ではまた!