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新規事業開発の確信と確証をつくる“アップデート”の重要性

大企業の新規事業開発を支援する、NEWhのサービスデザインチームのマネージャーをしている今村です。
ここでは“共創プロセス”で新規事業を伴走支援させていただく中で得られた知見やノウハウをお伝えしていきたいと思います。


今回のテーマは、製品・サービス改善にとどまらずその重要性がますます広がっている“アップデート”の重要性を取り上げます。

ソフトウェアの世界では、OSやアプリケーションを最新の状態にすることを意味します。しかしながら、アップデートの営みはソフトウェアの世界を超えて、企業経営の世界でもとても重要になってきています。
アップデート力が高い企業は、競争優位性を獲得し、企業価値を高め持続的に成長し続けているのに対し、アップデート力が低い企業はなかなかそうはいかないケースがみられるからです。

今回は企業の命運を分けるといっても過言ではない、“アップデート力”について掘り下げてお話していきます。

facebookの脅威的なアップデート力

東京大学AI研究の第一人者の松尾豊教授はfacebookについてこのように述べています。

“本社内では開発版のfacebookが使われており、(当時)バージョンの数は38万。フェイスブックではサービスをリリース・ユーザーの反応を見る・改善する……というサイクルを早く大量に回すことで、よりサービス性能を高め、新しい価値をユーザーに提供し続けている。

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facebook社内の開発環境におけるアップデート回数は創業から数年で40万回弱。脅威的な数字です。

たしかに創業者のマーク・ザッカーバーグ氏は、新規株式公開時に投資家に向けた書簡の中で以下のように書いています。

“ハッカーは、すべてを一度に正しく実行しようとするより、素早くリリースして小さな反復から学習することで、長期的に最高のサービスをつくろうとします。それをサポートするために、私たちはfacebookの何千ものバージョンをいつでも試すことができるテストフレームワークを構築しました。私たちは、改善しながらサービスを提供し続けることの重要性をいつも思い出せるように、壁に“完璧を目指すよりも完了させろ(Done is better than perfect)”と描いています。”

https://www.wired.com/2012/02/zuck-letter/

大事なのは、“完璧を目指すよりも完了させろ(Done is better than perfect)”の精神です。
facebook社(現meta社)のSNSアプリ群のアップデート回数は群を抜いて多いです。facebookアプリはiOSとAndroidあわせて年間150回以上アップデートしてたりします。

facebookだけではなく、GAFAを中心としたデジタル企業はサービスを提供しながら高速にアップデートし続け、ユーザーに頻繁に使われるサービスへと進化し続けることで、他社サービスとの競争優位性を築いてきたといえます。

アップデート力はリアルワールドに広がる

facebookの創業が2004年なので、2000年代からGAFAを中心としたデジタル企業が台頭してきた現在までの約20年間は、まさにアップデート力が高い企業が覇権を握ってきました。

そして、その流れは今後さらに加速していくでしょう。

デジタルのみで完結するサービスだけでなく、ネットワークにつながったリアル世界のハードウェアを含めたサービスのアップデートによる高速進化が今後広がっていくからです。

その急先鋒が自動車のEV化です。

電気自動車大手のテスラの自動車は「進化する車」と言われています。ソフトウェアアップデートにより車が進化していきます。
Apple Musicが搭載されたり、社内カメラでZoomによるオンラインミーティングができるようになったりするだけでなく、ブレーキ性能や自動運転の性能も向上していきます。
オンラインでソフトウェアによって車の性能がアップデートされる車は「Software Defined Vehicle:SDV(ソフトウェア定義車両)」と呼ばれています。これまでの車は買った時点から性能が劣化していくものでしたが、SDVは買った時点から車が進化していくのです。

Tesla Model-3の搭載ディスプレイ

これはまさにザッカーバーグ氏が、改善しながらサービスを提供し続けることの重要性をメッセージ化した“完璧を目指すよりも完了させろ(Done is better than perfect)”の思想がリアルワールドの製品にも広がっていくことを示唆しています。

アップデートの基本動作

アップデートの基本動作は一言でいうと「仮説形成と仮説検証の往復運動」です。
仮説をつくり、その確からしさを検証しながら、製品・サービスの顧客体験ストーリーを整え、製品・サービスを構成する各要素の解像度を高め続けていく営みです。
スピード感を持って仮説形成&検証サイクルをたくさん回せるかが確信と確証を高める鍵となります。

仮説形成と仮説検証の往復運動の考え方を理解するためには、“DevOps”の概念がとても参考になるので紹介します。

DevOpsはソフトウェアのサービス開発において、“Development(開発)”と“Operation(運用)”を分けずに、緊密に連携しながら開発を進めるためのサービス開発のモデルです。
DevOpsのプロセスは以下のようなフィードバックループ図で表現されます。

DevOpsのフィードバックループ図

左側が開発フェーズで、計画〜構築〜テストを実施し、右側の運用フェーズに移行します。運用フェーズでは、公開〜運用〜監視を通して、お客様のフィードバックからニーズや課題を発見し、左側の開発フェーズに戻ってサービスの改善を繰り返していきます。

このように開発と運用を密に連携しながら、開発と運用の往復運動をスピーディーに進めていくのがDevOpsの特徴です。

新規事業開発における“アップデート”の重要性

このようなアップデートの基本動作はサービス運用だけでなく、僕たちNEWhの専門領域である「不確実性の高い新規事業開発」にも応用できます。

NEWhでは、仮説形成&検証サイクルをたくさん回すことで、確信と確証を高めながら新規事業開発のプロジェクトを推進しています。

そこで鍵となるツールがバリューデザインシンタックス(VDS)というツールです。最後にこのツールを紹介したいと思います。

バリューデザイン・シンタックス(VDS)

バリューデザイン・シンタックス(以下VDS)は、事業成立に不可欠なビジネスモデルの要素20個の関係性をつなげて一枚のシートにしたフレームワークです。
大きく以下の3つの項目で成り立っています。

[1]サービスコンセプト…どんな顧客の課題に対して、どのような手法で価値を生み出すのか?
[2]競争戦略…競合サービスに対しての優位性は何か?またその優位性を生み出す仕組みと持続的な活動は何か?
[3]利益構造…どのような課金体系とコスト・収益構造で黒字化を目指すのか?

上記これらの問いに対しての答えを20個のビジネスモデル要素として言語化しながら、新規事業の確信と確証を高めていくためていくためのツールがVDSです。

大事なことは、事業構想をビジネスモデルの全体観として、まず書いてみることです。まさに先にお伝えした、“完璧を目指すよりも完了させろ(Done is better than perfect)”の精神です。

いざ書いてみると、各要素の解像度が低かったり、うまく言葉にできずに伝わりにくい要素などが見えてきますので、リサーチや議論をしながらブラッシュアップを重ねていきます。
そして以下の20の問いに自信を持って答えられるようにすることを目指します。

各要素をブラッシュアップしていくための20の問い

まさに、事業構想も仮説検証サイクルと同じで、アップデートを重ねながら進化し続けていくのです。

VDSは、ビジネスモデルの全体像と構成要素のつながりを把握しやすく設計されています。それゆえ、仮説を作った後に、どの仮説を検証すべきかをチームで議論しながらチェックしやすいツールになっているのが特徴です。

「アップデート=進化」の概念には新規事業企画を検討していく上で重要なポイントがあります。最初の一歩目の事業構想がピンとこない、説明しづらいようなものであっても、高速にアップデートして進化し続けていけば、顧客にフィットした良いものに生まれ変わっていくということです。
つまり、高速にアップデートし続けていける営みことが、最終的に良いものを生み出すということを意味します。
逆に、それなりに筋の良さそうな事業を構想したとしても、アップデートによる進化をないがしろにしてしまっては、最終的に優れた事業が生み出せない、ということになってしまうのです。

終わりに

今回は、“アップデート”の重要性を取り上げて、製品・サービス改善にとどまらず、新規事業構想にも広げてその重要性をお伝えさせていただきました。いかがでしたでしょうか?

バリューデザイン・シンタックスについてもっと知りたい方はこちらの記事をご覧ください↓

最後まで読んでいただきありがとうございました。「♡スキ」をいただけると今後の励みになります。ではまた!

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