うつつを抜かすほど
夏の声が聞こえてくる
季節に合わない冷たい目が
交わる事は到底ない

こんな季節早く終わればいいのに
予想通りの言葉 面目ない

心の空になれたら幸せかな
嫌になるほど僕を締めつける
またねと素直に言えるほど
まだ大人にはなれない


1年前にYoutubeの企画用に書いた詞だ。
テーマは「夏」
嫌いな季節だ。

まだ動画を見てない人は上記でネタバレに
なってしまったが、その上で視聴しても中々見応えのある楽しい動画になっていると思うので、是非見てみて欲しい。
先輩や同期たちのノリノリな作詞にも注目だ。


暑いのはもちろん嫌い。
体調が悪くなる。

でもそんな事よりも深刻な問題がある。

奴らが…。

夏の悪魔が産声を上げるのだ。


自分がこの世で最も苦手とする生物。

「蝉」だ。

普通の作詞家であれば
7日間という限られた時間を切り取るだとか
懸命に鳴く姿を何か比喩表現するだとか
オサレに美しく言葉を紡ぐのだろう。

だが、自分にはそんな表現はできない。
しようとも思わない。
思えない。

蝉が本当に苦手だからだ。

小学生の頃はお父さんと一緒に蝉を捕まえたり
従兄弟の姉ちゃんとぼくのなつやすみ2かよってぐらい公園中の蝉を乱獲したりしていたのに。


今じゃ羽の音が聞こえただけでその場から
マッハ20で逃げ去る。
ヌルフフフなんて言う余裕もない。

ヌルフフフ



じゃあ何故そんなにも嫌うのか。

それは僕が人生で1番理性を失うほど
怒った(キレた)話をしなければならない。

思い出すだけで今でも当時と同じ熱量で怒れるし、それと同じくらいトラウマが残っている。

それではこれから僕の周りで語り継がれている

「けんの蝉事件(大学編)」

を記していく。


大学1年生。夏。
新生活にもそろそろ慣れたかなという時期。
大学に行ったり行かなかったり、
行っても図書館でサボったり、
授業に出てもケータイで作曲していたり、
僕はとにかく不真面目だった。


お世辞にも賢い大学ではなかった。
僕は大学受験戦争に敗北した側の人間だ。
第一志望の大学に通えず、滑り止めで
受験した大学に進学した。



世渡り上手という言葉が良く似合う
自分にとって、それは紛れもない
人生初の敗北だった。


性根が腐り、その大学に通う人間を
同じレベルで見れず、仲良くする気にもなれない。

授業を聞いてなくても点数が
取れるものばかりだったのも、
ますます不真面目になる手助けをした
(ちゃんと最終的に痛い目にあった)。


今思えば、そういう冷めたやつっていうのは
本当に1番痛い。




幸い、高校生の頃の友達数人が
同じ大学に進学していた為、
孤立するということはなかったが、
少人数授業やゼミでは絶対に嫌われていた。
どうでもいいけど、
ゼミって文字を打っただけで
セミっぽくてイラッとした。




暑い日だった。
昼食を食べ終わって、次の授業が始まるまで
図書館で涼んでいようぜ~と
友達達とキャンパス内を歩いている時だった。


僕の耳に聞こえてくる陽キャ達の文字通り
キャッキャウフフな声。

男1「よっしゃいくで~!!」
女1「もぉ~やめときって~www」
男2「お前ヤバすぎwwwww(スマホで動画撮影)」
女2「キャーやめて!やばいやばい!!」
男1「おりゃ!」
蝉(ギッ)





蝉………ギッ?


耳で感じた違和感。


違和感の方向へ目を向けると
図書館前の木の下ではしゃぐ男女4人。
その足元に落ちている虫網。
男の右手に1匹の蝉。




まじかよ。
この大学ほんまなんなん。




そもそもなんで虫網持ってるんですかね。
近所で買ったんですかね。
今、右手に持てるなら
そもそも素手で捕まえろよ。


ただでさえ暑い夏の昼空の下で
熱に耐えながら移動する自分の体内温度が
謎の怒りで1℃上がった気がした。


視界に入れるのも煩わしい。
そう思い、目線を彼らから切ろうとした時。



女1&2 「ぎゃああああああ!!!!」




大学内に響き渡る悲鳴。



両手に蝉を持った男が女2人を追いかけ回していた。


そうか両手か。

いつの間にもう1匹を手にとったのか。

いや、もしくは初めから2匹持っていたのか。

今となっては定かではないし、
大した問題ではない。


ただ1つ言えるのは
これは小学生低学年の遊びである。


これで喜ぶ男子大学生。

相手をする女子大学生。



世も末だな。




もういいからさっさと図書館に行こうと
僕らが歩き出した時に事件が起こる。




男子が蝉を女子に向かって投げた。



悪ノリもたいがいにせえよ少年(見た目は青年)



そんなコミュニケーションでしか
異性と絡めんのか。
それでいい感じになって付き合えて
結婚したとして、

きっかけは彼が私に蝉を投げた事でした


って言うんか。



いや、その見出しの本があったら
ちょっと手に取りたくはなるけど。
こういう始まり方の本は
ラストで感動する話だと相場が決まってるのよ。





彼もそこまで鬼じゃなかったのか、
もしくはコントロールが悪かったのか、
女子にはおおよそ当たらないであろう
絶妙な方向に投げた。

あっやば…
という表情の男。

それもそうだ。


彼が投げた蝉が僕の顔に向かって一直線だ。



刹那。


僕ほどの反射神経があれば
これくらいの速さ
避ける事はそう難しくない。


颯爽と避けるも
蝉はカーブを描きながら
まるで糸でも繋がっているのかのように
僕の顔に目掛けて飛んできた。



避ける事はほぼ不可能。

それでも最大限努力したんだ。



結果として
蝉は僕の左耳を擦りながら飛んでいった。

パタパタと2.3回触れた羽根の感触。
思い出すだけで眩暈がする。


めまーい。


投げた男の方を見た。
唖然とした。


い…いや…
唖然としたというよりは
まったく理解を
超えていたのだが…
あ…ありのまま 
あの時起こった事を話すぜ!


おれは奴が申し訳なさそうに
していると思って見たら  
ヘラヘラしていた


な…何を言っているのか
わからねーと思うが
おれも何故なのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
見間違えだとか勘違いだとか 
そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

ポルナレフもびっくり


僕が彼に芽生えたった一つの
シンプルな感情




そう、殺意だ。




本当に子供だったし恥ずかしい話だが
頭に血が上り、
真っ白になり、
無心で男の方へ歩き出していた。



殴りかかる勢いだったと思う。



この時の記憶は曖昧で、覚えているのは、
その時に急に後ろから抑えられて
強引に図書館に連れていかれたことだけ。

一緒にいた友達が僕を止めてくれたのだ。
落ち着け、相手にするなと言われ
諭されて冷静さを取り戻した。


その後、現在に至るまで
その友達たちにはいじられ続けている。
どこで話してもすべらない話だと。

僕の周りでも少し有名な話になった。

けんさんの蝉の話が1番面白いっすwww
うちのドラムのたくみくんは言う。


大人になった今、
バカな事で人生を棒に振りかけたなと思う。

あの時、友達が僕を止めてくれなかったら
僕は犯罪者だったかもしれない。

持つべきものは友だな。うん。



そして、怒りというのは不思議なもので
月日が経てば薄まるものだ。

残ったのは、蝉が耳に触れる不快な感覚
悪い夢に出てくるようになってしまった。


それで蝉が全く駄目になってしまったのだ。



都会っ子の戯言だと笑われたらそこまでだが
本当に蝉が駄目だ。トラウマだ。



笑いたきゃ笑えばいい。
ただな。
もし蝉採りをしている大学生を見たら

逃げろ。まだ生きていたいだろう?

生きろ、そなたは美しい。


これがあの有名な
「けんの蝉事件(大学編)」
である。

そろそろ何故長々と
蝉の話をしてるんだと思われる頃合いだろう。


先日、callslow初となる
2日連続LIVE出演というものに挑戦した。

Day1
多分C#のパワーコード
こっち向いてる時は基本間奏
笑顔
Day2
顔浮腫んどるやないかい
浮腫んでるけど楽しそうやからええわ
いや、お前2日分PASSついとるやないかい

Day1 photo by Asako
Day2 photo by ミヤイ タカヒロ



ハードなスケジュール。
その大事な大事な前日の夜の風呂上がり。

窓を閉めようと自分の部屋の
カーテンを空けたら、
窓の隙間から蝉が部屋の内側に
入りこんで、止まっていた。

つまり、自分の部屋に蝉がいた。



時が止まった気がした。


本当に驚いた時、人は声が出ない。


声が出るのは頭と体が追いついた時だ。




数秒後、叫んでいた。



近所迷惑だったのは言うまでもない。



その時に思ったのだ。

絶対にネタにしてやると。

ネタにして笑って貰うぐらいしないと。

笑い話にしないと。

僕のメンタルがおかしくなってしまう。




結局、蝉がいなくなったあとも
まだいるんじゃないのか?と
小さな音がなる度に過敏に反応してしまい
中々寝つけなかった。

蝉に罪はない。
でもやっぱり好きにはなれない。





追記 : 2日とも歌の調子めっちゃよかった。

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