サブカルで学ぶ社会学① 『社会学的想像力』 ~『鉄のラインバレル』より、加藤久嵩と想像力~
はじめに(注意書き)
はじめましての方ははじめまして。そうではない方はいつもお世話になっております、吹井賢です。
さて、今回から始まるのは『サブカルで学ぶ社会学』です。
社会学修士(なんとマジ)であり、そもそもアニメに影響を受けて社会学を勉強しようと決意した吹井賢(なんとこれもマジ)が、社会学やその周辺科学、つまり、政治学等々に出てくる概念を、サブカルチャーを絡めつつ、分かりやすいが論文で引用すると怒られる程度にはふわっとした感じに、解説していこう、という記事です。
最初にお断りをば。
※あくまでも娯楽として楽しんでください。
※興味を持った概念については、この記事を読むだけではなく、信用に足る文献を読み、講義を受けることをお勧めします。
※そして僕に分かりやすく教えてください。
それでは始めます。
加藤久嵩と“想像力”
ところで皆さん、ロボットアニメは好きですか?
僕は大好きです。
特にリアルロボットモノが。
さて、では「ロボットアニメで一番、カッコいい敵役」と言えば、誰でしょう?
そうです(食い気味に)、『鉄のラインバレル』の加藤久嵩ですね。
そんな彼の代名詞と言えば、ルルーシュと同じく福山ボイスの「違うな、間違っているぞ」、ではなく、
「想像したまえ」
ですよね。
『鉄のラインバレル』は、オーバーテクノロジーの謎のロボット・『マキナ』を巡る戦いを描いた漫画及びアニメ作品であり、端的に言えば、『正義の味方』の物語です。
加藤久嵩は、そのメインの敵役であって、主人公達と敵対する組織・加藤機関を率いる男です。
本心を伺わせない、余裕ある言動が魅力のキャラクターですね。
あと、アニメ版では、「突如として主人公サイドの基地にやってくる(しかもちゃんと受付を通って)」「主人公と二人きりで話をするシーンで何故かホタテを焼き始める」など、視聴者の腹筋に悪いシーンも印象的です。
これが「想像力が足りない」ってことですか、加藤司令……!
そんな加藤久嵩と言えば、先述の通り、「想像したまえ」という台詞が代名詞。
これは敵味方に掛けるアドバイスであり、「想像することは生きること」「想像力がある限り、可能性は失われることがない」という風に考えています。
実はこれ、加藤司令の個人的なポリシーではなく、『鉄のラインバレル』という物語の根幹に関わるものなのですが、それはまあ、読んでのお楽しみってことで……。
ミルズと『社会学的想像力』
さて、実は現実世界にも、「想像力」を殊更に重要視した人間がいました。
チャールズ・ライト・ミルズという、アメリカの社会学者です。
もし、あなたが、
「革命はいつもインテリが始めるが、夢みたいな目標を持ってやるから、いつも過激なことしかやらない」
「しかし革命の後では、気高い革命の心だって、官僚主義と大衆に飲み込まれていくから、インテリはそれを嫌って、世間からも政治からも身を引いて、世捨て人になる」
というアムロの言葉に興味を持って、インテリやエリートについて勉強していたならば(少なくとも吹井賢はちょっと勉強した)、『パワー・エリート』という概念で名前を聞いたことがあるかもしれません。
簡単に説明すると、ミルズは第二次世界大戦後のアメリカで教鞭を取りながら、
「あれ、社会って一部のエリートが実権を握ってる実質的な階級社会じゃね?」
と考えついたのです。
この”一部のエリート”を、ミルズは『パワー・エリート』と名付けました。
そんなミルズも”想像力”を重視した人間でした。
しかし、それは加藤司令のそれとは、少しばかり違います。
ミルズの言う”想像力”、即ち、『社会学的想像力』とは、このように定義されています。
「私的な問題と公的な問題、個人的な生活と社会的・歴史的構造とを関連づける能力をいう。」
つまり、ミクロな概念とマクロな概念の関係性を見出す力を、『社会学的想像力』と呼ぶわけですね。
もっと平易な言葉で説明しますと、例えば、あなたの前に失業者の方がいたとします。
それを「きっと仕事ができないから解雇されたんだな」と私的な問題として片付けることもできますが、企業の雇用問題、日本政府の政策方針、世界的な経済の流れ等々を想像し、関連付けて考えることもできます。
これはかつてのフェミニズムのスローガンである、『個人的なことは社会的なこと(The personal is political)』とも近い意味合いだと思っています。
ミルズが著書『社会学的想像力』で語った、もう一つのこと
さて、そんな『社会学的想像力』ですが、辞書を引くと、こう続きます。
「ミルズは、誇大理論と抽象化された経験主義とを批判的にのり超えていくために、古典的社会学からこの能力を受け継ぐことを主張した。」
これはミルズの著書である『社会学的想像力』を読解しないと、理解が難しいと思います。
ですから、あくまでも簡単に説明します。
ここで言われている「誇大理論」とは、パーソンズの理論体系を指しており、
「一つの理論で、全ての社会・文化・人種、その他諸々が説明できるとしたら、それは間違いだ」と主張していたみたいです。
つまり、物理学における超弦理論みたいなものは社会学にはないよ、と。
同時に、「抽象化された経験主義」も批判していますが、こちらは統計調査のことです。
「数値は大事だが、それだけでは駄目だ」と。
つまり、社会学と今生きる人々の為に、当時の社会学の二大派閥を批判したわけです。
……なんだか、『鉄のラインバレル』の加藤司令の在り方と重なりますよね。
「想像すること」――現実の在り様を想像し、理想の未来を想像し、その実現の為に尽くすこと
今回の、『サブカルで学ぶ社会学』では、『鉄のラインバレル』のキャラクター・加藤久嵩と、彼の語る”想像力”という概念から連想し、ミルズの『社会学的想像力』をご紹介しました。
きっと加藤司令も、ミルズも、私達にこう呼び掛けてくれているはずです。
「想像したまえ」と。
それは現実を理解することであり、未来を切り拓くこと。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
その②:https://note.com/ken_fukui/n/nfe54be06bf0d
その③:https://note.com/ken_fukui/n/ne17fae3b1a42
その④:https://note.com/ken_fukui/n/nf70ade3388c1
その⑤:https://note.com/ken_fukui/n/nbd1b67eea26c
その⑥:https://note.com/ken_fukui/n/na7cd4031c359
その⑦:https://note.com/ken_fukui/n/nbd481b93b6f2
その⑧:https://note.com/ken_fukui/n/n64658dc8a93f
その⑨:https://note.com/ken_fukui/n/ncbe1ed3a2809
その⑩:https://note.com/ken_fukui/n/n2cde122779b5
その⑪:https://note.com/ken_fukui/n/na2e12351c19e
宣伝
最後に宣伝!
実は、吹井賢が書いた作品に出てくる『御陵真希波』というキャラクターが「想像力」という言葉を使うのは、加藤司令がモデルの一人だからです。
というか、マキナとアルマの兄妹も、『鉄のラインバレル』のネタだったりします。
(『鉄のラインバレル』では、「マキナ」というロボットをコピーし量産化したものが「アルマ」)