ピーター・ナバロとは何者か?トランプ政権の貿易戦争を主導した経済学者の思想と政策
ピーター・ナバロ氏は、トランプ政権の元通商顧問であり、中国との貿易戦争や関税政策を推進した経済学者です。本記事では、ナバロ氏の経歴や思想、トランプ政権における役割、そして関税政策に関する彼の見解について詳しく解説します。
ピーター・ナバロはなぜ民主党からトランプ派へと転向したのか?
ナバロはもともと民主党を支持していたが、当時の民主党は労働者階級、特に製造業やブルーカラー労働者を支援する政党だったと考えている。しかし、時代が進むにつれて民主党はそうした経済ナショナリズムの路線から離れていったと主張する。一方で、トランプの「MAGA」の理念は、かつての民主党が持っていた「労働者のための経済政策」に近いと感じ、トランプの経済政策に共鳴するようになったという。彼自身が母子家庭で育ち、経済的に厳しい状況を経験したことも、労働者階級の問題に共感を抱く要因となっている。
ナバロが貿易や中国問題にこだわる理由は?
ナバロはカリフォルニア大学アーバイン校で経済学を教えていた際、2000年代初頭に多くの学生が仕事を失う現象に気づいた。特に、すでに働いている社会人学生が次々と解雇されていることに衝撃を受け、その原因を調査し始めた。その結果、「チャイナ・プライス」という概念にたどり着いた。これは、中国の製品がアメリカの製品よりも極端に安く提供される現象のことを指す。ナバロは、これが単なる安い労働力のせいではなく、通貨操作、知的財産の盗用、偽造品の流通、環境規制の回避など、中国政府による「不公正な貿易慣行」によるものだと主張する。彼はこの問題に強い危機感を抱き、『The Coming China Wars』や『Death by China』といった書籍を執筆し、中国の経済戦略の危険性を訴えた。しかし、政策界や経済学界では彼の主張はあまり受け入れられず、そのためより多くの人に伝えるために、マーティン・シーンがナレーションを務めるドキュメンタリー映画を制作した。.
ナバロはどのようにしてトランプと関わるようになったのか?
ナバロがトランプと繋がるきっかけは2011年のロサンゼルス・タイムズのインタビューだった。当時、トランプは中国に関する自身の「お気に入りの書籍」を紹介する場面で、ナバロの『The Coming China Wars』をトップ10の一冊として挙げた。これをきっかけにナバロとトランプの間で交流が生まれ、2016年の大統領選挙でトランプが本格的に選挙活動を始めると、ナバロは経済・貿易政策の顧問として招かれた。ナバロは、トランプ政権の中で自らの「保護貿易政策」を実現するための機会を得たと考えた。
ナバロはなぜ関税を支持するのか?
ナバロは関税を、アメリカの企業を守るための「盾」と考えている。彼によれば、中国をはじめとする外国の企業は「不公正な競争」を行っており、そのままではアメリカの企業が太刀打ちできない。関税を導入することで、外国製品の価格を上げ、国内生産を促進することができると主張する。彼の最終的な目標は、国内製造業を復活させ、海外依存を減らすことであり、これは単なる経済政策ではなく、「国家安全保障」の観点からも極めて重要だと考えている。
関税は物価上昇(インフレ)を引き起こすのではないか?
ナバロはこの主張を完全に否定している。彼によれば、トランプの第一期政権では大規模な関税を導入したにもかかわらず、インフレは起こらなかったと述べている。一般的に関税は輸入品の価格を押し上げ、消費者負担を増やすと考えられているが、ナバロはむしろ「関税によって中国の企業は価格を引き下げざるを得なくなる」ため、結果的に価格は上がらないと主張する。また、関税が物価を押し上げるとする経済学者たちの研究を信用できないとして、一蹴している。
アメリカの企業も海外から部品を輸入しており、関税がコスト増につながるのでは?
ナバロはこの指摘を問題視していない。彼は、「製造業が国内に戻れば、サプライチェーンも自然に戻る」と考えており、関税が長期的にはアメリカの経済にとってプラスになると信じている。確かに一部の企業は短期的にコスト増に直面するかもしれないが、それでも最終的には国内投資が活発になり、より強固な産業基盤が築かれると主張する。また、関税政策によって「アメリカ人労働者の賃金が上がるため、消費者の購買力が高まり、価格上昇の影響は相殺される」とも述べている。
ナバロはなぜ1月6日の議会襲撃事件の調査に協力しなかったのか?
ナバロは、議会の召喚命令に従わなかったことで刑務所に収監された。しかし、彼はこれを「司法省による政治的な弾圧」と主張しており、自身の行動はホワイトハウスの元高官としての義務だったと述べている。彼はこの件について「憲法を守るために戦った結果、投獄された」と考えており、刑務所を出た直後に共和党全国大会に直行し、そこでトランプ支持の演説を行った。
トランプの第二期政権ではどのような貿易政策が実施されるのか?
ナバロによれば、トランプの二期目では関税がさらに強化され、より大規模な保護貿易政策が展開されるという。彼は、これまでの貿易政策が成功したことを証明するものとして、アメリカ経済の方向性はすでに決まっていると述べている。ナバロは「かつては異端と見なされていた自身の考えが、今や主流の政策になった」と自信を持っており、アメリカの貿易関係を根本から再構築し、「経済的自立と国家安全保障の確立」を目指すと語っている。彼は、自由貿易の主張はすでに国民に否定され、今やアメリカ国民は保護貿易を支持していると確信している。
ソース:https://www.nytimes.com/2025/02/18/podcasts/the-daily/trumps-tariff-peter-navarro.html