消えた両親/シェアハウス「リバ邸」の面白い住人
【両親は小6の時、僕を置いて逃げました】
シェアハウスの最寄り駅で新しい住民Tと合流し、家に着くまで身の上話をした。
俺)出身どこなん?
T)広島です。
俺)あーね。俺の一番仲いい友達も広島ばい。実家に住んどったと??
T)そうですね。
俺)なら東京出てくる時、親はなんか言いよったろ?
T)いえ、親いないんで何も。
俺)あ、そうなんや。お父さん?お母さん??
T)両方です。僕が小6の時に僕を置いて借金かなんかで逃げました。
俺)まじ!?え!?で、どうなったと??
T)きょうだいが下に三人居たのでヤバかったです。
俺)え!?4きょうだい!?おま、ヤバかったって!?それどころじゃなかろうもん!!
T)そうっすね笑、なんとかして働いたり盗み食いしてましたよ。でも盗んだものをきょうだいに食べさせたけど、自分は罪悪感で食べられませんでした。
俺)あぁ……そうか………優しいんやな。
ほんで、きょうだいは今は何しようと??
T)一番下も自立したんで、僕は東京に出ました。
俺)あ、そうなんや。一番下はいくつと??
T)中3です。
俺)いや、はえーやろ!!笑
T)ま、男の子は中学卒業すりゃ生きていけますよ。次男はもう結婚したし、長女も高校卒業しました。
俺)てか、T君いくつ??
T)22歳です。
俺)そうなんや。今まで死にそうなった事ある??
T)…………有りすぎて覚えてないです。
俺)幸せやった事は??
T)ないです。
俺)笑。
よう、死のうとせんやったな。
T)きょうだいがいなかったら、とっくに諦めてましたよ。俺がいなくなったらあいつらが生きていけなかったんで、それだけは嫌だなと思いました。
そうこうしてる内にシェアハウスに着いた。
俺)今日からここが、T君の家ばい。ペルー人も住んどうけど俺らの事はお兄ちゃんと思っていいけんね?ブラザー笑、困ったら何でも言ってね。
T)はい。
それから、三人での暮らしが始まったんだけど
T君は俺に何かを頼ることは一度もしなかった。
こっちで用意すると言ったタオルや毛布も自分で買ってきて、ボールペンでさえわざわざ自分で買ってきた。
この子は、人に頼ることが出来ない。
一人で生きてきたんやなぁ……
だいたい本当に助けてもらいたかったのは
小6の時やったろうしなぁ……
そんな夜、
T君がバイトに応募する為の履歴書を書いていた。
わざわざ鉛筆で下書きして、ボールペンで書いて、綺麗な字だった。
この子は本当に優しくて真面目なんだ……
それから数日後T君は仕事を始め、研修があるとの事で三日間家をあける事になった。
だけど、
三日経っても四日経っても帰ってくる事はなかった。
LINEもしたけど、既読がつく事はなかった。
あ、これ、、、
と思い、T君の部屋のクローゼットを開けると
初日に来た時のスーツケースがなかった。
うわっ!
あ……
あぁ……
いや、でも何かあるかもしれん!!
タンスを開けると中には、
先週号のジャンプがあった。
いや、購読するタイプかい!!
と思った。
結局T君はいなくなった。
心当たりとしては、
ここが幸せ過ぎたんだと思った。
俺たちは夕御飯を一緒に食べたり
仕事で何があったか話したり
たわいもなく、理由もなく、
毎日笑顔だった。
だけど、T君にはそれがあまり
理解出来ていない感じだった。
俺は子供の時に、お母さんが夕飯を作っている横で笑いながら一生懸命その日あった学校の話をしてた。
お母さんは笑顔でよく聞いてくれた。
俺にとってはそれが家だ。
T君の箸の持ち方、食べ方、片付け方、
どれをとっても無教養だった。
この子は本当に
親と一緒にご飯を食べてこなかったんだろう。
もし、何かの弾みでT君が家にまた来てくれたら
最新号のジャンプを読ませてあげようと思った。