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ショートストーリー★不倫純愛?


1976年11月20日の土曜の午後1時20分、僕と舞ちゃんのふたりは東京駅のホームにいた。

理由は、13時36分発の、臨時急行「伊豆7号」 の入線を待っていたからだ。

『不倫じゃない?、あのカップル・・』ひそひそと囁く声が聞えた・・

どう考えてもそれが、僕と舞ちゃんに対しての声であることが、声のひそめ方で分かった。

『もう、今日だけで5回目ね』

舞ちゃんも気づいていた、何故人々は不倫らしいカップルを見つけると「不倫」と囁くんだろう?

けっしてお似合いの「カップル」ねとは、囁いてくれないのだ。

まるで狙いをつけた獲物を見つけたかのように、連れに「不倫だ」と伝える。

『僕たちって、やはりそう見えるのかな?』

『いつものことでしょ、どうってことないわ』

『どうして不倫にみえるんだろう?』

年の差夫婦なんて、いくらでも居るのにな

それと比べたら、僕と舞ちゃんの年はさほど離れてはいない。

『やっぱり舞ちゃんが若く見えるからだろうね』

『伊豆という場所のせいかしら』

僕と舞ちゃんは、5号車のグリーン車であるサロ165に乗車していた。

シートピッチも広く、リクライニング機構もあり快適である。

座席に寛ぎながら、舞ちゃんは女性週刊誌を広げている。

『誰も彼もが、不倫を毛嫌いするような顔して、不倫にあこがれてるのよ』

確かに、いま手にしてる週刊誌は、芸能人の不倫ネタだらけだ。

不倫を犯罪扱いしてるが、不倫ネタが多いほど週刊誌は売れるのだ。

そして、午後3時10分熱海駅に到着した。

ここで「伊豆急下田行き」と「修善寺行き」とに分割されるのである。

急行「伊豆急下田行き」は、ここから普通列車へと変身する。

熱海からは、新幹線からの乗り継ぎ客も多く、急行券が必要なくなった。

この臨時列車には、多数の乗客が乗り込んできた。

その中の、男性客のひとりと目が合った。

あっ! 先週から、うちの課に転勤してきた杉山君である。

が、しかし、杉山君は僕たちを無視した。

杉山君は、まるで見てはいけないものを見たように、見て見ぬふりをした

『やれやれ、、またか(笑)』

『ねぇ?私ってそんなに陰があるのかしら?』

『いや、そうじゃない。舞ちゃんが、あまりにも幸せそうな表情をしてるからさ』

『奥さんって、そんなに不幸そうな顔をしてるの?』

『う~ん、そうではなくて、極めて退屈そうな表情をしてるんだろうな』

午後3時29分、目的地の網代駅に到着した。

シーズンオフだが、温泉旅行のお客も多く50人くらいが下車した。

その中のOL風の2人組が、こちらを、ちらちらと見ていた。

まるで伝言ゲームのように、となりの子のシャツを引っぱって、何かを伝えてた。

声には出してないが、唇の形があきらかに「FU・RI・N」と見て取れた。

俺は、舞ちゃんの腕を掴み、立ち止まって下車客をやり過ごした。

そして、ホームから改札までの寂しげな地下道をすすんだ。

ここは東京駅などの地下コンコースと比べるとあまりにも対照的である。

ローカル線の駅にふさわしく、一時間に2本程度の列車しか停車しない

僕は、ふたりだけしかいない地下道で、舞ちゃんを抱き寄せた。

そして舞ちゃんの細くしなやかな腕が、僕の首に絡みついた。

ゆっくりと瞼が閉じられてゆく、そっと唇を重ねた。

舞ちゃんは、不倫と言われながらも、その瞬間を楽しんでた。

誰になんと言われようが、愛し合っていたし、しあわせだった。

それは紛れもなく、舞は、僕の妻だからである。

『不倫ごっこを楽しんでない?』舞はいたずらっぽく笑った。

僕は、なぜ不倫に見られるか理由がわかっていた。

電機メーカーに勤務する僕は、結婚してすぐにフィリピンのマニラ支社に転勤になった。

3年間の滞在で、現地に愛人を作った。

最初のうちは、愛人に心がときめき、夢中になった。

妻よりも愛人と過ごす時間のほうが、圧倒的に長かった。

愛人が妻のようになり、妻は遠距離恋愛の恋人のようになった。

僕は、赴任期間が終了と共に、愛人に多額の手切れ金を支払い清算した。

いま僕の心がときめくのは、舞だけである。


おわり


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