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マニラKTV☆カラオケ物語15


『ごめんね、来ちゃった・・』

まぎれもなくラーニャの声だった

『5分だけ待ってくれ・・』

俺はそう言うと、踵を返しベッドに居るグレイスに、人差し指を口に当てて、黙ってるように合図した。

運良くこの501号室は、角部屋でバルコニーの端が、非常階段と隣接している。

俺がバルコニーに出ると、非常階段の下から客室係のデニスが、駆け上がってくるのが確認できた。

俺は小声で『エマージエーシーだ』とグレイスを手招きした。

やや憮然とした表情を見せながらも、俺の言葉に従った。

デニスが階段の手すりを乗り越えてバルコニーに入ってきた。

『すみません、連絡ミスで彼女が上まで来てしまい・・』

息を切らしながらデニスは謝った。

『大丈夫だ、藤田さんの703号室まで、この子を頼む』

俺は落ち着きを取り戻し、デニスに言った。

そして俺は、グレイスの方に向き直り『お別れのキスは次回に持ち越しだ』

そう言ってから、5千ペソをグレイスの手に握らせると、ようやくグレイスの表情に笑顔が戻った。

デニスに支えられながら、非常階段に移り階段を上に向かって歩きだした。

それを見届けた俺は、急いでバルコニーから部屋に戻り、使いかけのガウンやタオルをきれいに畳んで、乱れたベッドのシーツ類を元どおりに直した。

おそらく時間にして、3分位の出来事だったと思う。

そして俺は静かにドアを開けた。

ラーニャは微笑みながら入ってきた。

『こんなに早く来るとは思わなかったよ』

俺は戸惑いながら言った。

俺は黙ってラーニャを抱き寄せ、そのままベッドに倒れこみ服を脱がしに掛った。

『待って、シャワーを浴びてくるわ・・』

俺は黙って頷き、体を離した。

ラーニャはシャワールームに入っていった。

色々なことが頭の中を過っていった。

たった3日間のうちに様々なことが起こりすぎた感じだ。

ベッドに寝転びながら考えていると、ラーニャがシャワー室から出てきた。

俺は立ち上がり、入れ替わりでシャワー室に入り汗ばんだ体を洗い流した。

シャワー室を出ると、ラーニャはベッドでシーツに包まっていた。

俺はそのままベッドのシーツを捲りあげ抱き寄せた。

ラーニャは抵抗しなかった。

小柄でふくよかな体系は、まさに俺好みである。

『グスト キタン ヤカーピン(君のことを抱きたい)』

俺が言った言葉に反応するかのように、少し咎めるような視線を絡めてから、ラーニャの瞼がそっと閉じられていった。

まるで恋人のキスを迎えるかのように、顎を上げて、唇が弛んでいく。

『ナパカ ガンダモ タラガ(君はなんてきれいなんだ)・・』

俺はささやきながら、そっと唇を重ねていった。

果実のように瑞々しい感触が、しっとりと密着してきた。

舌を忍び込ませていくと、ラーニャの口腔からカシスのような甘い香りが漂ってきた。

ラーニャの背中を撫で回しながら俺は夢中で舌を貪った。

ラーニャの両手も俺の背中を這いずり回ってくる。

受け入れた俺の舌に、滑らかな舌を絡みつけてきた。

そしてラーニャを抱く快感に酔いしれながらも、頭の中ではサラの顔が何度も思い浮かんだ・・

約30分後、そのまま二人とも深い眠りについていた。

ふと目が覚めると、10時を過ぎていた。

もうレストランの朝食時間は終了していた。

俺はラーニャを起こして近所にあるチョウキン(中華料理)に二人で行った。

食事が終わると、ホテルの部屋に戻って帰国のための荷物をまとめた。

2泊3日なので、あっという間に時が過ぎ去っていってしまった感じである。

俺はポケットから、1万ペソ出してラーニャの手に握らせようとした。

ところがラーニャは頑として受け取らなかった。

そして俺の胸に顔を埋め、こんなことをつぶやいた。

「私が欲しいものは、お金では買えないものなの・・」

えっ!?もしかして本気なのかな・・俺を勘違いさせるには、十分すぎる言動であった。

そろそろ時間なので、ホテルのフロントでチェックアウトの支払いを済ませて、玄関前から二人でタクシーに乗車した。

途中で渋滞中に、コンドの入居者募集の看板が目に留まった。

それを見たラーニャは『いま住んでるところはお店が用意してくれたアパートなの』

『だから自分でアパートを借りたいの』

『そうすれば健太が来た時に一緒にいられるでしょ』

悪戯っぽい笑顔で、俺のほうを見ながら、答えた

俺は複雑な心境であった。

嬉しい半面、縛られてしまうと・・

そして13時くらいに空港に到着した。

『1週間後に待ってるわね』

そう笑顔で言う、ラーニャのポケットに1万ペソを無理やりにつっこんで、そのまま空港内に入った。

イミグレを抜けて、ラウンジでくつろぎながら

『サラーマット ナグエンジョイ ナマン アコ(ありがとう、楽しかった)』

『ババリカン キタ カアガッドゥ(すぐに君の所に帰ってくるから)』

このメッセージをラーニャとサラに同時送信した。

時間になったので、搭乗口から機内に入った。

離陸した飛行機の窓からマニラの街並みを眺め、1週間後はどんなドラマが待ちうけてるのだろうかと、考えているうちに俺は既に夢の中にいた・・


つづく


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