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心象風景の旅5 答えを生み出さぬ故に出る答え

6月11日
母を許す自分と許せない自分。

リル=獣は
選ばなかった選択、未来もまた現在の自分の「影」になると言った。
選ばなかった「時間」そのものが冥府だと。

選んだ瞬間未来は確率から現実へと収束する。
では選ばなかったら?
それは現実=自我でもあり同時に「影」でもある。
まるでシュレーディンガーの猫のようだ。

選ばず抱える。
迷いの中で生きる。
俺の中で「影」を冥府に行かせず生かすためには「どちらでもない」葛藤の中で生きるしかないというのか?

6月12日 早朝
量子力学の世界ではそれで良いのかも知れないが「現実」では「選ばず生きる」などと言う事は出来ない。俺は母を許す事が出来るだろう。
だがそうやってまた許せない自分を冥府送りにするのか?
過去に何度もそうして来たように。

イマジネーションが動いた。

俺がポケットへ無造作にねじ込んだ赤いルビーのようなものがハマったペンダントのチェーン。

ポケットから垂れ下がったそれをリルが引っ張った。
「ハハ、やめろよ」
と俺は笑った。

静止したがそれでもリルは聞かずそのペンダントをポケットから引っ張り出そうとした。

まるで自分のものだと言わんばかりだ。

リルからペンダントを取り上げ見てみる。
ボーダー発症の原因となった過去の恋人との思い出が想起された。
彼女は父親に始終腹を立てていた。
そして俺は彼女の「望んでいた父親像」を演じ、演じさせられていた。
言わば俺は父親の「影」だった。

このペンダントは俺が彼女に渡したものだ。
彼女の怒りと悲しさと、俺への依頼心と甘え、期待。
それに応えようとする俺の保護的な欲求と、演じさせられている事を感じる苛立ち。
このルビーの赤はそうした感情の色なのか。脈動のようなものを感じる。
怒り、情熱。
そうか、こいつもまた冥府にあるべきものだったんだ。
今の俺にはない熱さ。誰かを直向きに想う気持ち。

「そっか、これおまえのだったんだな」

リルは頭をあげ胸を張ったように見えた。
「そういう事だ、早くつけんか」
と言われた気がしたので
「ハイハイ」と言いながら彼にペンダントを付けてやった。

かの女性との別れを経験して徐々に自分のコントロールを失って「割れていった」末に生まれた人格が「獣=リル」としての俺だった。

ならばこのペンダントは彼が持つにふさわしいものだ。

6月12日 昼
法事が終わった。
釈迦が説いたという父母への恩の経とやらを唱えさせられる…のが嫌なので黙っていた。

釈迦がそう説くなら俺は仏敵になろう。
悪鬼羅刹に成り果てようと考える。
法事をめちゃくちゃにしてやりたくなって我慢した。頭が痛い。

行動化はしてはならない。
行動化してスッキリしてしまえばどんな情動が起こり、どんな心情になるかを追えなくなる。ただ抱え、受け止め、感情を隔離せず「自分のまんま」体験するんだ。

そうか。俺は怒りたいんだ。
頭の中に炎がある。
許さない。許さない。本当に許さない。
そう、それでいい俺は許してはならない。

イマジネーション動いた。
その一瞬を捕まえる。

冥府の闇の中で大地から次々火柱が上がる。
何本何十本と火柱があがりそれは天まで届いていた。火の手は間近まで迫ってきていてこのままでは早晩リルが焼け死ぬ。

だが。
炎はまるで彼を避けるようであった。
何かに…守られている?
この炎の中で俺はどうすればいい?
なぜ焼かれない?
明王?なぜ明王という言葉が浮かぶ?

不動明王。地獄の劫火の中に在ってもなお悪鬼を駆逐する天部。
俺は許せない。しかし許さず許す。
葛藤を抱えながら、焼かれながら許す事と許さない事を同時に存在させる。どちらかを冥府送りにはしない。
対立する二つの要素の聖婚。この炎の柱もまた俺の真実だ。
今までのように押し込めず怒りの中に身を置き、それでもコントロールを失わない事は出来るはずだ。

「そういう事かよ!だったらやってやる!」
「true end!」

中空から現れた剣を握り、そのまま振りかぶって地面に叩きつけた。

地面が地割れを起こし炎の中に崩落していく。

《相変わらずの力技だな人の子》
とウルズが言う。
「仕方ねーだろ?こちとら行動化を我慢してんだ!」

俺とリルはそのまま炎の中に落ち、灼熱の大地に降り立った。
空気は赤く揺らめいているように見えた。
あちこちが燃えている。
炭になったもの、燃え残っているもの。
焼け落ちた建物。

「ここが第二ステージってわけね。」


法事を迎える/迎えたにあたってのウダウダモヤモヤ感全開の随想のようなイマジネーションのような。

感情や情動を素直に体験する。
しかし行動化はしない。

感情を押し込めるのではなくそれをちゃんと経験する。

今日のカウンセリングで腹落ちした事なんだが、俺は自分の感情や情動を精神分析で言うところの「隔離」するために「知性化(知識を得たり、既存の知識に当てはめ感情や情動を抑制したりコントロールする)」を行なっていたようだ。

まあ客観的に見たら「何を今さら」かも知れないが当人がそれを解っていないのが問題なのだ。

知性化するつもりがなくても勝手に知性化され情動は押し込められる。

こうして俺の情動もまた冥府行きになる。

それが吹き出すイマジネーションと共に俺は炎獄にたどり着いた。
こっからまた始まるかに見えた。

だがしかし。

今日のカウンセリングで思わぬ方向にイマジネーションが向く事になる。

ひさびざの次回予告。
「深淵と槍」

カウンセリング後に目まぐるしく起こったイマジネーションの長編です。

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